婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第八章 隣国王子の恋愛事情 愛の事情編

3 愛の転 1

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 そして、ガーリウム王国に視察も含めて一月以上滞在した兄上が、タニャード王国へ帰ることになった。先日の夜会で、西国の王家と仲良くなったとかで、そちらに寄ってから帰るそうだ。タニャード王国に着くにはあと3ヶ月はかかりそうだな。

 私の一人称は、いつからかわからないくらい前から『わたし』である。まぁ、王族だし。
 だが、兄上は、親しい者だけの場合、一人称が『オレ』になる。見かけによらず、いろいろと豪快なところが、表れているような気がする。急に西国行きを、決めるなんて、まさに豪快だ。護衛たち、頑張れ!


 そんな兄上が爆弾を投下していった。
馬車に乗り込む寸前に、
「あ、そうそう、俺の結婚が、来年の春に決まったんだ。お前の結婚は、その後になるだろうなぁ。まぁ、一年や二年、のんびり構えろ、な。」
と、のたまい、立ち去りやがった!ふざけるなぁ!!

 
 兄上の婚約者は、タニャード王国国内の侯爵令嬢だ。あと1年学園生活が残っている。普通はその後に数ヵ月、王宮で、仮結婚をするはずだ。王太子が離婚にならないための慣わしのようなことだ。それをせずに、まさか卒業と同時に結婚するのか。
 私には、仮結婚などという慣わしは必要ないので、今年中に結婚することを目標にしていたのだ。兄上は、私たちの婚約期間について、絶対に確信犯で伸ばそうとしてるんだ。ムッキー!!


 そして、私たちの婚約について、ガーリウム王家にも伝わった。伝わって当たり前だし。
 問題は、伝わったのはそれだけではなかったというところだ。
 なんと、兄上が『一年や二年、ゆっくり構えろ』と、言ったことまで伝わってしまった。

 それを喜んだのは、ガーリウム王国の王妃殿下だった。アリスが政務をすることがなくなったため、王妃殿下の政務が激増したらしい。

「2年もあるなら、是非助けてちょうだい。キャロライン嬢の王妃教育をお願いしたいの。わたくしには、今、その時間はとれなそうなの。」
王妃殿下に泣きつかれたそうだ。2年なんて、待てないぞ!と思ったが、

「王妃教育の次の適任者が決まるまで、引き受けることにしましたの。わたくしは、王妃殿下には可愛がっていただいたので、わたくしの受けた王妃教育が役にたつなら嬉しいわ。」
本当に責任感と優しさが溢れるアリスなのだ。

「それに、王城へ通う理由ができれば、ゼファー様にもいつでも会えますでしょ。」
と、顔を赤らめて言われたら……。
ノックアウト!されました……。

 アリスが今まで使っていたアナファルト第1王子婚約者の政務室は、そのまま、ギルファルト王太子婚約者の王妃教育係の執務室になった。


 私は昼休みになると、そこへ赴き、アリスと昼食をするようになった。毎日のように会えるなんて、素晴らしい!
 時々、アリスが作ったというサンドイッチだとか、これまたアリスが作ったというお菓子を食べることもある。んー、幸せ。

〰️ 〰️ 〰️

 兄上が、ガーリウム王国を出てから数週間がたった頃、タニャード王国の父上から手紙がきた。いつものように昼休みにアリスの執務室でランチをし、その後手紙を読んだ。
 『来年の春に、王太子(兄上)の結婚式をするから、その時には、アリーシャ嬢を連れて帰り、結婚式に、出るように。第2王子の婚約者として紹介する機会とする。』ということ。これは、理解できる。が!!!
『王族の結婚は、国民には慶事である。続けてやるよりも、少しおいた方が経済的にもよかろう。』とあった。ムッキー!!



と、なり、前の言葉となる。

「あーー!なぜなんだぁ!私も早くアリスと結婚したいのにぃ!!」

 私は、アリスの王城執務室のソファーに座り、テーブルに頭をつけて騒いでいた。

そんな私を見たアリスは、
「まあ、そんなに求めてもらって、わたくしは幸せですわ。」
と、穏やかに笑っていた。
 アリスの正面に座っていたが、隣に座り直して、抱き締めた。アリスもまるで私を宥めるように、優しく背中に腕を回してくれた。

「わたくしは、今、とっても幸せですのよ。結婚式は、急がなくても大丈夫ですわ。こうして、一緒にいられるのですもの。」
 私に、回した腕の力を少しだけ強めて、ギュッとしてくれた。私はその腕をゆっくりと放し、アリスの顔が見える距離になったところで、アリスの唇に軽く口づけをした。


 初めての口づけだった。


 アリスは数秒止まってから、ボンっと赤くなった。そして、私の胸に顔を隠した。その仕草の可愛らしさに、再び抱き締め、彼女の髪に口づけを落とした。

「これくらいは、許してね。」と懇願のように呟くと、アリスは小さく頷いてくれた。
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