婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第五章 公爵令息の作戦 遂行編

作戦21 作戦決行

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 ハッハッハー、ワッハッハー!バンバン

 陛下の笑いが止まらない。

 僕はロンと一緒に、夕方前、登城すると陛下の執務室へ通された。計画書を渡す。それを読んだ陛下が、執務机を叩きながら笑っている。

「これは、楽しみだ。
この予行練習という発想は誰がしたのだ?」

「お(おれ)、あ(あっちがう)、わ(どもっちゃったよ)、私です。」

「ユラベル侯爵の長男か。面白い発想をするものだ。どうして、練習にしたんだ?」

「姉が、自分たちのために卒業生の思い出を壊したくないと言ったので。それなら、次の日にやり直しすればいいと言ったらそうなりました。」

「なるほどな。他の者へも気を配れるのはいいことだ。高位貴族として大事な感性だな。

うん、これは、面白い!

ヨアン、ワシらは、ご令嬢たちの話術が終わるまで大扉の裏で待とう。何かあれば、即刻、手を差しのべるゆえ、おもいっきりやるがよい。」



「陛下、それはお戯れがすぎるのでは?」
「ヤンアート、たまには、若者の手助けをするのも、よかろう。我息子には、あの報告書と断罪計画とで見切りをつけたわ。」
「ですが、」
「やつらが、やらかさなければよいだけの話だ。そうだ!ご令嬢たちの様子を裏から聞くだけでは、つまらんな。あの箱を会場に、設置させよう。」
陛下と父上がこそこそと話をしていて聞こえない。陛下が何か言うと、父上がすごいしかめ面をした。なんだろう?


「ヨアン、ここのところな。」
 陛下が僕たちの計画書の『アリーシャ・レンバーグに確認すること』の部分をさす。
「はい?」

「明日、昼前にアリーシャを登城させよ。頃を見て、アリーシャに聞こえるようにメイドたちに話をさせよう。」
 姉上に、故意に、アナファルト王子の不貞が真実であることを、伝えるというのだ。

「陛下っ!!それはっ!!」
さすがに父上が声を荒げる。

「仕方あるまい。前回のヨアンたちの報告書を、見ておろう。恐らくご令嬢たちは、あの内容を持ち出すのだろう。アリーシャだけが、己の真実を知らぬのは酷ではないか?それとも、ヤンアートの口から伝えるのか?」

「……。わかりました。そちらは、私が手配しましょう。」
父上が渋々了承した。

「うむ。そうしてくれ。

では、ヨアンシェル、シェノーロンド、楽しみにしておるゆえ、しっかり頼むぞっ! 」

「「はい。」」
 陛下のやる気いっぱいな様子に、僕たちは、元気に返事をできなかった。

 僕は、公爵邸へ戻り、学園長に提出する計画書を作った。ロンには、侯爵邸へ戻ってもらい、イメルダリアさんに変更点を説明してもらって、ヴィオリアさんとエマローズさんに手紙を書いてもらった。


〰️ 〰️

 翌日、ゼファーライト殿下が公爵邸に来るというので、また学園を休んだ。

 ゼファーライト殿下に、ここまでの話をした。アナファルト王子の不貞に心底怒っていた。
 そして、計画がうまく行った場合の卒業パーティー本番の日の待ち合わせ場所を決めた。

 そして、姉上も今頃アナファルト王子の不貞を知ったはずだ。姉上を悲しませたアナファルト王子を赦さない!

〰️ 〰️

 さらに翌日に学園へ戻り、学園長へ計画書を提出し、現生徒会役員として、卒業式、卒業パーティー予行練習、卒業パーティーの準備をすすめる。
 予行練習をやることを生徒のみんなに知らせるとき、お花畑さんたちの耳に入れないためにどうしようかと思っていたら、彼らは旧生徒会室に籠りっきりで、そんな心配は、無用だった。

〰️ 〰️

 そして、当日、すべてが大成功だった。

 ご令嬢たちは、お花畑さんたちに何も言わせず、姉上の尊厳も守ってくれた。三人のご令嬢は、それはそれはかっこよかった!

 陛下が用意してくれたご令嬢たちを守るものというのも、すごい魔道具だった。父上から、陛下が、あれで、イメルダリアさんたちの闘いを写すと、聞いた。今頃、陛下は、執務室で笑っているのだろうか。

 お花畑さんたちの処罰はそれぞれの家の判断に任されていたが、思いの外、厳しい罰だった。アナファルト王子の罰も、先日陛下と話した内容以上だった。
 それにしても、重くないかな?だって、男は浮気するってよくいわれているし。僕は絶対にしないけど。
 ディークに聞いたら、高位貴族だからだろ、と教えてくれた。なるほど、日々優遇されるということは、罰も重くなるのか。


〰️ 〰️ 〰️


 その日夕方、姉上、イメルダリアさん、ヴィオリアさん、エマローズさんと、生徒会室のソファーで、お茶をした。そして、姉上に、秘密にしていたことを話した。僕は、どさくさで、イメルダリアさんを改めて口説いた。

「姉上!」
 僕は隣に座るイメルダリアさんの右手の上に、自分の左手を乗せ、軽く握った。
 イメルダリアさんは、びっくりして僕の顔を見たけど、僕の視線をまっすぐ姉上に向けた。

 姉上は、僕たちの手を見て、イメルダリアさんの反応を確認して、僕に視線を戻した。
 イメルダリアさんは目を見開きまだ僕を見たままだ。


「実は数ヶ月前から、イメルダリアさんには交際を申し込んでいるのです。しかし、姉上の婚約がまだはっきり白紙になっていませんでしたので、イメルダリアさんが、姉上が自由になってから考えるとおっしゃっていました。
なので、今日まで待ったのです。」

「まぁ、そうでしたの。」
姉上はにっこりと笑ってくれた。

 イメルダリアさんは、僕と姉上の顔を交互に見て、頬を染めて俯いた。

「イメルダリアさんは、イリサスさんとの婚約が白紙になった後も、学園の生徒のみなさんに迷惑はかけなくないと、生徒会を続けてくださいました。そのお姿は、慈悲にあふれ、一生懸命で、明るく聡明で、回りに気も使えて…

イメルダリアさんは、本当にすばらしい女性なのです。」

 僕は姉上ではなく、イメルダリアさんに僕の気持ちを伝えるように話した。

「ヨ、ヨアン君、お、お止めくださいませ。」
イメルダリアさんが真っ赤になって僕に嘆願したけど、止めないよ。

「どうして?君の良さは、ここにいるみんなわかってくれているよ。
それと、アルって呼んでっていつも言ってるのに。
でも、二人の時の可愛らしさは内緒にしておくね。」
「もうっ!」
 イメルダリアさんは、僕の手を離し、両手で顔を覆って、下を向いてしまった。その手から溢れる耳は真っ赤だ。
 本当に年上なのだろうか。こんなに可愛いものを、僕は知らない。


「私たちも生徒会を続けましたのにねぇ。」
とヴィオリアさんが笑いながら僕をからかい、エマローズさんに同意を求めた。

「その頃から、お付き合いしていらっしゃらないことが不思議なくらい、いい雰囲気ではありましたものね。」
とエマローズさんがニコニコと応える。お二人とも、僕が普段からイメルダリアさんを誉めまくっていることを知ってるからね。

「ふふふ。そうでしたのね。お待たせしてごめんなさいね。
愛称呼びですのね。本当にいいお仲間でしたのね。」
 姉上はとても嬉しいそうだ。どうやら、イメルダリアさんを認めてくれたようだ。後は、イメルダリアさんに伝えるだけだ。

「一年後、僕が、学園を卒業したら、すぐに結婚式を執り行いますから、姉上、よろしくお願いいたしますね。」
僕は嬉しさのあまり、満面の笑みを浮かべた。

「まあ、まだお付き合いのお返事ももらってないのに、気の早いこと。ふふふ
イメルダリア様が義妹になってくださるなんて嬉しいわ。」


 結婚式という言葉が出て、イメルダリアさんがびっくりして顔を上げ、僕を見たけど、婚約で、終わりだと思ったの?もう離さないよ。

「大丈夫だよ、イメルダリアさん。僕の父上にも、ユラベル侯爵様にも了承は受けてるから。あとは、イメルダリアさんの返事だけなんだ。」
 と、僕はイメルダリアさんにできるだけ優しい声で話した。

「とりあえず、明日のパーティーのエスコートは僕にさせてね?」
 僕はイメルダリアさんの右手をとりながら、懇願した。

「よ、よろしくお願いいたしますわ。」
イメルダリアさんは恥じらいながらも了承してくれた。
 よし、まず第一歩!                            
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