婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
42 / 71
第五章 公爵令息の作戦 遂行編

作戦18 待つことも作戦?

しおりを挟む
 贈り物や茶会をゼファーライト殿下が代理をしていたことを、父上が陛下に報告した。
 父上によると、報告の後、王妃殿下が、こっそりと茶会を見に行き、その場で倒れられたそうだ。母親って大変だな。

 陛下は、どうやら姉上を諦めたようだと父上が言っていた。陛下が王妃殿下を説得するのを待つそうだ。


〰️ 〰️ 〰️
 

 時間は過ぎるが、僕たちにはもう何もできない。待つだけだ。

 と思っていたら、アナファルト王子が勝手に落ちた。


 ゼファーライト殿下がタニャード王国へ向けて出発してから数日後、アナファルト王子とメノール嬢が不貞を働いていることがはっきりと確認された。現行を確認しただけで、本人たちには、知らせていないのだそうだ。
 だが、メノール嬢が、どうやって侵入して、どうやってほぼ見つからずに逃走できたのかは不明だった。それを見つけるよりも、王城の警備を強化することが優先であったのだ。
 その甲斐があってそれ以降、メノール嬢の侵入は回避されている。
 このことは、大人たちがどうにかするだろうし、僕たちがどうにかできることではない。


 不貞の現行確認が朝にされて、父上から学園に『帰ってこい』と連絡があり、夜には、不貞現行確認のことを聞いて、次の日には、父上と僕は王城の国王陛下の執務室に朝から呼ばれた。今日は学園を休んでいる。
 夕べ、王子の不貞現行確認のことを聞いた母上は、その場で倒れた。朝にも起きていらっしゃらなかったから、心配だ。


 陛下の執務室のソファーでは、今日は国王陛下と王妃殿下が待っていた。王妃殿下は、どうみてもやつれていらっしゃった。
 挨拶をして、王妃殿下の座る向かい側の二人掛けソファーに、父上と並んで座る。

「ヨアン、ヤンアートから説明は受けているな。」

「はい。」

「ヤンアート、ミーティアには話したのか?」
ミーティアは、僕たちの母上だ。

「はい。昨日から寝込んでおります。」

「ひゅっ。」
王妃殿下が息を飲む声が響く。

「うむ、そうか。これからレンバーグ家に、王家から何ができるか考えるゆえ、ミーティアのことも許せ。すまぬな。」
 父上………また陛下に謝らせるし……。なのに、返事しないし……。

「王家としては、最悪の結果だ。この婚約を白紙にし、それなりの賠償もいたそう。」
 父上は怒ってらっしゃいますね。また、陛下に返事もしない。一応、今日も無礼講とは言われてるけど。

「陛下!アリーシャを……。」
王妃殿下が陛下にすがる。

「アナファルトの不貞がなければ、行動を諌め謹慎させた上でなら、ギルファルトとのことも案としてだせたかもしれぬ。
だが、こうなってしまってはダメだ。これ以上、我々がアリーシャを望むことは、レンバーグ家を手放すことになるぞ。
王妃も、わかってくれ。」
王妃殿下は、僕たちの目の前にも関わらず、ポロポロと泣き、膝に顔を伏せてしまった。
 姉上は、少なくとも、国王陛下と王妃殿下には大切にされていたのだと少しだけ嬉しくなった。

「ご理解いただけて、幸いにございます。」
父上、それってイヤミですよね。怖い。

「それで、すぐにでも公にいたすか?そなたたちの望む通りにいたそう。」

「ヨアン、他のご令嬢はどうなっている?」

「はい、父上。先日の陛下とのお話から変化はありません。」

「そうか。
とのことですので、サンエドク家の報告を待つしかないでしょうな。」

「わかった。

王家としても、アナファルトの処遇を考えねばなるまいな。
そうだな、伯爵位でも与えて、小さい領地の経営でもさせるか。王位継承権を永劫剥奪にして、引っ込ませよう。王都への帰還は、子孫であっても、認めん。」

「王家が伯爵位ですか?」

「こんな醜聞で、公爵位など与えられるものかっ。」
 陛下もご立腹のようだ。王家から臣下になるのに、伯爵位は、重い罰だ。

「御心のままに。」
父上も納得ということだろう。

「おお!そうだ!卒業式の最後に、この4組の婚約白紙を公にし、ワシの名前で、男どもの不誠実が理由であることをきちんと話そう。その上で、やつらには、パーティーへの参加は認めん。

ヨアン、学生としてどうだ?」

「はい。卒業式でしたら、保護者もおりますし、陛下の御言葉をいただけましたら、姉たちの醜聞も少なく済むかと存じます。」

「そうか、そうか。ヨアン、では、そのように学園の準備を頼んだぞ。
こちらの手回しはワシがしておこう。」

「畏まりました。ありがとうございます。」

「アリーシャへの報告は、ヤンアートに任せる。」

「それにつきましては、実は、ゼファーライト殿下から、殿下がタニャード王国より戻るまで、アリーシャには、秘密にするようにと嘆願されております。」

「さすがは、アリーシャだな。手放した瞬間にそうなるか。」
「わぁ、、、」
王妃殿下が更に泣いてしまった。

「悪い話ではないではないか。ヤンアートも前向きなのだろう?」

「いえ、まだわかりません。タニャード王国が何というかわかりませんし、何より、アリーシャの気持ちがまだわかませんゆえ。」

「そうか。アリーシャには、幸せになってほしいからの。」


「ですので、アリーシャは、しばらく今まで通り通わせますので。」

「そうか、わかった。

今日はご苦労であったの。

おいっ。」
陛下がメイドを呼ぶと、籠にオレンジの実が沢山入っていた。

「ヨアン、ミーティアにこれを。食欲がなくともこれなら食べられよう。
ワシが言うのもおかしいが、体を壊すことがないよう、そなたからも見てやってくれ。」

「ありがたき、御言葉。母にも伝えます。」

「うむ、ヨアン、そなたは、しっかり、の。」


〰️ 〰️ 〰️


 その夜、公爵邸の父上の執務室のソファーで、父上と話をした。

「いいか、ヨアン。我が公爵家は、今回のことに関して、賠償は望んでおらん。」

「はいっ。」

「我が公爵家に対して、アナファルト王子の処遇が、適正であるかが、大切なのだ。処分が甘過ぎであれ、厳しすぎであれ、公平に判断して、忠言することが、公爵家の仕事のひとつだ。」

「はいっ。」

「王侯貴族は、爵位を重んじるゆえ、陛下に意見できる者は少ない。だからこそ、公爵家は、しっかりと判断していかねばならない。判断を間違わぬためには、学びが必要だ。お前の学びは、学園で終わることはない。生涯学び続けると思いなさい。」

「畏まりましたっ!」
 僕はいつか公爵の爵位を継ぐ。その時、今日の父上のようにありたいと思う。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って… その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を その数日後王家から正式な手紙がくる ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと 「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ ※ざまぁ要素はあると思います ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

処理中です...