婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
39 / 71
第五章 公爵令息の作戦 遂行編

作戦15 己を高める

しおりを挟む
 学期末テストがあったり、放課後の生徒会室でみんなと仕事したりおしゃべりしたり。つまり、普通に生活し、普通に夏休みになった。


 父上は、ディークが執事見習いになることを、了承した。しかし、給料は受けとることなど、条件は変わったらしい。それはそうだろう、公爵家が執事見習いを無給で雇ったなんて、醜聞でしかない。あとは、執事長に任せるということだ。
 僕からのお願いで、僕に『様』を付けることだけは禁止した。

 僕にはもう、カールトンという専属執事がいる。彼もまだ見習いで、僕が学園にいる間は執事長に、鍛えられてるそうだ。

 執事長の判断で、ディークは、僕が政務局へ行っている間は、専属執事の役目はないので、鍛練場に通うことになった。学園の武術では成績のいいディークだ、鍛練場ではどのくらいの実力になるんだろう?

 週の後半は、僕の家庭教師が来てる時間は一緒に、勉強するそうだ。今、来ている家庭教師は、語学の先生と経済学の先生だ。カールトンも、いつも一緒だから、三人で受けることになる。
 これには、ディークは『使用人に金をかけるのか?』って恐縮していた。『必要なことだから学ばせるのです。これに限ったことではなく、今後必要となれば何でも学ばせますよ。』という執事長の一言で納得したらしい。
 
 あとは、その日その日で、執事長から指示があるということで、決まった。

 夏休み初日、政務局へ行く予定だ。
 朝食の席についた。父上と母上はもう食事を始めていた。姉上は、この夏休みは、王宮に泊まり込みだそうだ。

 カールトンは後ろに立っているが、ディークがいない。
「ディークは?」

「応接室で、ヨアン様がお読みになった新聞を読んでおります。
朝食の際はそのようにと、執事長から申し付けられております。
ヨアン様がさすがに食べにくいだろうということで。」

「そっか。そうかもね。わかった。
あ、でも、ディークもカールも朝ごはん食べたの?」

「はい。いつもヨアン様より先にいただいております。」

「よかった。じゃあ、いただくね。」

 僕は、起きたら、自分で身支度をして、父上が読み終わった新聞を2紙ほど部屋で読む。その後に朝食だ。ディークはそれを読んでいるらしい。
 父上は、毎日5紙読んでいて、その中で、僕が読むものは執事長が選んでいる。これは、学園に入学してから、週末などの自宅にいるときの約束事になっている。ゆっくり読んでいると、朝食の席に父上も母上もいないこともある。
 最近は、新聞が面白くなってきて、朝食の時間に父上と討論になるときもある。それは、なかなか面白いのだ。


 朝食を終えた時、丁度ディークが来た。

「ディーク、鍛練場へ行くんでしょ?通り道だから、一緒にいこう!」

「え、いや…」
「ご一緒させていただきなさい。」

「はい。支度してまいります。」
その間に、執事長に尋ねる。

「行くときは、いつも一緒いいでしょ?馬車の中では、友達に戻ってもいいよね?」

「坊ちゃまがよろしければそれでよいかと。」

「うん!それでよろしくね。」


〰️ 〰️ 〰️


馬車で王城に向かう。
「ディーク、仕事はどう?」

「ハハハ、まだ、1日目じゃないか、わからないよ。
でも、朝一で、新聞を読むのは、ツラかったな。眠いのに、知らないことだらけで難しかった。これを初級学年からやってるのか?」

「そうだねぇ。慣れてしまえば、普通だよ。ディークは、頭がいいんだから、すぐに慣れるさっ。」

鍛練場の前に着いた。
「帰りの時間はわからないから、迎えにこれないけど、大丈夫?」

「大丈夫だ。場所はわかってる。」

「初日なんだから、無理しないでよ。じゃあ、頑張ってね。」

「ああ!君も頑張れよ。」


〰️ 〰️ 〰️


 政務局の第一執務室(一般文官の働く執務室)へ着くと、すでに座る場所が決まっていた。仕事体験に来ている最上級学年の方も2人一緒だった。

 仕事体験とは、最上級学年の生徒が次年文官になるときに、どの文官を目指すのかを決めやすくするために、長期休暇の間、利用することのできる制度だ。僕も来年は利用する予定だ。
閑話休題

 文官が書類がいくつも入った箱を持ってきた。
「これは、すでに処理済みの書類です。各自好きなものをとり、読んでみてください。読み終わったら、箱に戻し、次の書類を読んでください。
お昼まで、その時間とします。」

 そう言って、その場を離れた。書類は本当にたくさんあるので、取り合いになることはない。始めは一纏まりずつ持って席についたが、誰とはなしに、いくつか持って席に着くようになった。それでも、取り合いにならないくらいある。

 中身は、予算請求だとか、開発原案だとか、法新案だとか、いろいろで、却下されたものも、許可はされたものある。
 なかなか面白かった。

 昼休み、三人で王城の食堂へ行った。体験の生徒の分は、各部局で払ってくれるらしい。渡された身分証を見せて、決められた昼食をもらう。
 食事をしながら、自己紹介をした。そして、午前中の話をする。二人は、あまり面白くなかったそうだ。

 だが、午後からも同じことをした。そろそろ終わりかと思う頃、報告用紙を一枚配られた。
「上部に自分の名前を書いてください。その下に、今日思ったこと、感じたこと、何でもいいので、書いてください。
書き終わったら、各自帰宅して、結構ですよ。」

「わかりました。」
僕たちは、それぞれ書き始め、終わった順から帰った。僕は一番最後だった。


〰️ 〰️ 〰️


 家に戻り、ラフなシャツとズボンに着替える。その間にカールがお茶を入れてくれた。
「ディークは、帰ってきてる?」

「はい、ヨアン様より1刻ほど早く戻ってまいりました。」

「そっか、よかった。今、どうしてるの?」

「部屋で休ませております。今日は、もうこちらには来ないかと。」

「え?どうしたの?」

「初日から、1日中鍛練でしたので、今日は立つことは、無理かと存じます。お屋敷までよく帰ってきた、という状態でした。」

僕は思わず立ち上がった。
「え?怪我?大丈夫なの?」

「単なる疲労です。もしかしたら、明日は立てないかもしれませんね。ですが、寝れば治ります。
執事長も『よい気構えだ』と誉めていらっしゃいました。
ですから、大丈夫ですよ。」

「そっか、ディーク、頑張ってるんだね。僕もがんばろう!」

友人が頑張っていると、やる気になるよね!

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って… その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を その数日後王家から正式な手紙がくる ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと 「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ ※ざまぁ要素はあると思います ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...