婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第四章 公爵令息の作戦 準備編

作戦7 将来を考える

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 ディークと二人で向かいの屋敷の2階バルコニーを見ている。縄ばしごが掛かっている。

「ねぇ、なんで3階だったんだい?2階ならきっと客室だよね。子爵殿もこんなに嫌がらないだろう?」

「同じ階から覗いていてみなよ。相手と目があっちゃうぞ。ククク」

「なるほどね。それにしても、ディークっていろいろ考えてるよね。」

「まあ、そういうことは、ね。   あ、来たよ。」
 二人でバルコニーの柱と柱の隙間から、確認する。

「遠くて暗いから、顔までは、わからないね。」

「まあ、待ってなって。」
 男らしき人物が縄ばしごを登っていく。
 バルコニーの縁に着き、バルコニーへ降り立ったとき、部屋の明かりで顔がはっきりと見えた。イリサスさんだった。そして、迎えたのは、あの女。
 二人はその場で口づけをし、熱く口づけをしたまま室内へと入っていった。

「おいおい、あんなシーンまで、見る予定じゃなかったのに、ねぇ。」
と僕に話かけるが……。
 僕は、ちょっと、ちょっと、ちょっと。とにかく、何も言えなかった。




「そろそろ落ち着いた?」

「うん、ごめん。」

「で、この後どうする?」

「出てくるのを待つよ。」

「そっか、じゃあ、お茶でももらってくるね。」
 そういって、ディークは部屋へ行き、メイドに声をかけ、すぐに戻ってきた。

 しばらくして、小さなテーブルを持ったメイドとティーセットを持ったメイドがバルコニーに来て、お茶とお菓子を用意してくれた。

「なんで、こんなこと頼めるの?」

「あぁ、僕が以前あげた情報で、商売が盛り返したんだよね。それがなかったら、もしかしたら没落ってとこだったらしい。」

「そうなんだ。」

「君の姉さんのことだけど。」
 ディークは、僕だけのときは『君』をよくつかう。

「うん。」

「王宮での逢瀬のお茶会が行われているのは、間違いないみたい。ちゃんと定期的にやってるってさ。」

「そっか。本当に調べてくれたんだね。ありがとう。」

「それより、君はさぁ、なんでこんなことしてるの?」

「なんでって、彼女たちを助けたいし、自分の目で見ないと。」

「でもさ、君はこれから、情報を解析してそれを利用する立場になる。その情報をいちいち自分の目で確認するの?」

「そんな立場になるのかな?」

「なるだろう。公爵位を継ぐだけでもそうなるし、高官になれば、必然だ。」

「そうだね。」

「そうなれば、情報を信じる信じないを判断しながら、それを解析・利用していくことが仕事だ。」

「うん。」

「今日のことも、君がやる必要はなかったんじゃないか?僕からの情報を待って、それを利用すればいい。」

「そうかもね。でも、僕は情報を得ることがどれだけ大変かを知りたいよ。ディークはさ、簡単なように教えてくれるけど、本当は、女性たちに優しくしたり、市井の人たちと触れあっていたり、普段からそうしているから、できることなんだろう?
情報の利用なら、ディークにもできるじゃないか。」

「僕は情報を利用することに頭を使うのは好きじゃないんだよね。それより、情報を得るためにどうするかに頭を使いたいんだよ。」

「なるほど、それも面白そうだね。」

「でも、君の立場ではできないよ。」

「どうして?」

「公爵位だからさ。貴族には位にあった責任がある。」

「そっか。でも、今ならまだできるよね。下っ端の下っ端みたいなことしかできないけど、情報を得る大変さを知りたい。そうすれば、ディークが言うような立場になったときに、情報を大切にできそうな気がする。」

「なるほどね。確かに、折角の情報が見向きもされないんじゃ、やってらんないかもね。」

「ところでさ、なんでディークは、僕のことを『君』っていうの?ロンには、『お前』って言うでしょ。」

「………ロンがバカだから?」

「プッ!!ロンは学年トップだよ。」
つい、笑ってしまった。

「笑ってるってことは、なんとなく伝わっているんだよね。

そうだなぁ。ロンは、研究者肌だろう。だから、僕の上役になることはほぼない。

だけど、君……ヨアンは、いつか僕の上に立つ。」

「言い切るね。ディークは何になりたいの?」

「外交局を目指してる。他国の情報とか、どうやって入手するか、考えるとワクワクする。

子爵家の次男だからな、高官になれるかはわからないけど。」
 伯爵位以上なら、仕えた時点で高官であることが多い。だが、子爵位からでも学園の成績がよければ、高官として、仕えることができる。

「なれるでしょ。Aクラスじゃないか。」

「でも、お前らより下だ。」

ほら、ロンと僕を一緒にしたから、『お前』を使う。
「ロンと一緒にしないでよ。あいつは、天才だよ。」

「バカだけどね。」

二人で笑ってしまった。

〰️ 〰️ 〰️

 朝、少しだけ明るくなった頃、イリサスさんが部屋から出てきて、縄ばしごを降りた。バルコニーから身を乗り出して手を振るあの女は、腕を露にし、薄そうな布を体に巻いているだけだった。

 絶対に、イメルダリアさんは、イリサスさんに渡さない!
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