婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
17 / 71
第二章 本編 ご令嬢たちの幸せ編

8 そして、ハッピーエンドへ

しおりを挟む
「アリーシャ・レンバーグ嬢、私ゼファーライト・タニャードの妃になっていただきたい。貴女を愛している。」





「!!!!ゼファー様、だって、だって、わたくし、貴方様は平民の方だと思っていて。
それに、それに、タニャードって。」

 アリーシャがさらにパニックになっていく。

 ゼファーは手をとったまま、アリーシャのとなりに座り直す。



「アリーシャ嬢、私が平民であると思っていたのかい?」
アリーシャがこくりと頷く。

「そうか、それなら無理もないな。ゆっくり説明するよ。これを少し飲んで。」

 アリーシャのシャンパングラスを持つ手にゼファーの手を重ね、ゆっくりアリーシャの口元へ運ぶ。
 アリーシャのシャンパンを飲む口元の艶かしさに、ゼファーはごくりと息を飲んだ。それを尾首にも出さず、口から離したシャンパングラスを受け取り、自分のシャンパングラスと並べて置く。

 ゼファーは、振り返って再びアリーシャの手をとった。

「私は、タニャード王国の第2王子だ。将来は兄上を支える臣下となる。
その勉強として、シャーワント宰相の補佐官をさせてもらっているんだ。

名前は、家名をつけてしまうと身分がわかってしまう。だからといって王族が他国の王城に務めるのに偽名を使うわけにはいかない。だから、ゼファーと名乗っていたんだ。

私は、先日、2ヶ月ほどガーリウム王国から離れていただろう。あの時はタニャード王国で、貴女を迎えたい旨を両親に相談に行っていたんだ。だから、アリーシャ嬢の婚約白紙は、ギリギリまで待ってもらった。」

 説明を受けているうちに、アリーシャも落ち着きを戻してきた。

「貴女は、王妃教育も大変一生懸命にのぞみ、さらには王子がするはずの政務でさえも、文句の1つも言わずに取り組んでいた。

そういう状況にも関わらず、回りには笑顔を絶やさず、時に優しく時に厳しく、未来の王妃として、本当によくやっていたと思うよ。」

「そんな、わたくしは公爵家の者の義務として…」

「だとしても、それをきちんと受け止める姿はとても美しかった。

アナファルト王子がメノール嬢に夢中になり、貴女との逢瀬のお茶会に 私が代理にと言われたときには喜びで叫びそうになったよ。
2ヶ月置きのお茶会が楽しみだった。」

「そ、それは、わたくしも…」

 アリーシャが視線を落とし、頬を染める。

「本当は公爵家でのお茶会も代理でかまわないから伺いたかったのだが…。
そこまでは、できなかったけどね。」
 ゼファーの茶目っ気のある言い方に、アリーシャがクスッと笑う。

「だが、お茶会断りの贈り物は、私が選ばせてもらっていたよ。」

「やはり、そうでしたのね。アナファルト殿下にしては、わたくしの好みや興味を考えてくれている気がしておりましたの。」

「本当に???伝わっていたなんて、嬉しいな。各店からのメッセージカードだったのに。」

 アリーシャの頬が更に染まったように見えた。

「お誕生日や行事などの贈り物を貴女のために選ぶことは本当に楽しかった。」

「贈ってていただいた南の島国の本は、とても大事にしてますの。
始めは辞書を使って読んでおりましたが、今はなくても読めますのよ。」

「やはり、その贈り物が一番喜んでいただいけましたか。丁度その頃、あちらの語学を勉強なさっておいででしたから。
それにしても、辞書がなくても読めるようになっているとはさすがですね。」

「そんな、とても面白い本だったからですわ。」

 容姿でないことを直接誉めらることに慣れていないアリーシャは、照れくさくて、どんな顔をしてよいかわからない。

「ああ、貴女とこうしてずっと話をしていたいが、そうもいかないようだ。

アリーシャ嬢、私は本気だ。貴女を愛している。一生愛し続ける。だから、どうか私の妃となってほしい。」

 ゼファーはアリーシャの手を繋ぐ力を少し強めて、まっすぐな言葉を伝えた。
 今度はアリーシャも、誠意を持って応えた。

「ゼファーライト・タニャード様、喜んでお受けいたしますわ。わたくしもゼファーライト様をお慕いしております。」

「アリーシャ嬢!!」
 ゼファーはアリーシャを抱き締めた。
「どうか、どうか、今まで通り、ゼファーと…。」
「ゼファー様…。」
 ゼファーは少しだけ抱き締める力を強めた。

 しばらくそうしていたが、会場からヨハンシェルが心配そうに見ていたことに気がつき、ゼファーはアリーシャの手をとって、立ち上がった。ゼファーがアリーシャに左腕を差し出す。アリーシャは、先ほどここまで歩いて来たときより、しっかりと腕を組んだ。ゼファーがその組まれた手に、自分の右手を重ねる。


 これから、一緒に歩んでいくことを決意した二人は、時々目を合わせ微笑みながら、ヨハンシェルたちの待つ会場へとゆっくりと歩いていった。


fin??
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って… その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を その数日後王家から正式な手紙がくる ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと 「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ ※ざまぁ要素はあると思います ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

処理中です...