婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第二章 本編 ご令嬢たちの幸せ編

6 会場前にて

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 お昼をすぎた頃、会場には生徒や保護者が集まりだし、話声や笑い声で気持ちいいくらいに騒然としている。

 昨日、5人が待ち合わせを決めた場所にアリーシャが行くと、すでにエマローズとヴィオリアとカザシュタントが来ていた。ヴィオリアとカザシュタントは、二人とも背が高く武術を体得しているとあって姿勢がとてもいい。それに、整った顔をしているので、迫力のあるカップルだ。アリーシャが遠くからみてもすぐに彼らだと気がついた。

「ごきげんよう。」
 アリーシャが笑顔で話しかけた。

「ごきげんよう、アリーシャ様。今日のドレスは雰囲気が違いますのね。大人の雰囲気もとてもお似合いになりますわ。」

「ありがとうございます。エマローズ様もとても可愛らしいですわ。」

「ごきげんよう、アリーシャ様。とても素敵ですね!」

「ふふふ。ありがとうございます、ヴィオリア様。ヴィオリア様もヴィオリア様の雰囲気に合っていて、とてもおキレイですわ。でも、お言葉が崩れていらっしゃいますわよ。会場内ではお気をつけくださいませね。」
 笑顔で、でもしっかりと注意するべきところは注意する。さすがのアリーシャだ。そういう優しさ気の配り方が、男女問わず人気のある理由であろう。

「そうでしたわね。気をつけますわ。ふふふふ。」
扇で、口元を隠しながらヴィオリアも笑顔で答えた。カザシュタントが紹介してくれという視線をヴィオリアに送る。

「アリーシャ様、こちらがわたくしの婚約者のカザシュタント様ですの。」

「アリーシャ嬢、王城では、お見かけすることはありましたが、お言葉を掛けさせていただくのは初めてかと存じます。ノーザンバード子爵家三男カザシュタントです。以後、お見知りおきを。」
カザシュタントが胸に手をあて、騎士の礼をとる。

「レンバーグ公爵家が長女のアリーシャですわ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわね。」
軽く挨拶が済むと4人でたわいもない話を楽しんだ。

 漸くすると、会場入口近くに長身でがっしりとした男性が現れた。まわりをキョロキョロ見ていたが、こちらに気がつくと、手を振りながら駆けてきた。

「エマっ!!」
笑顔で手を振っている。

「まあ!ダム!どうしてここに?」

「君をエスコートしたくて、寝ないで馬を走らせたんだよ。」

「えぇ、大丈夫なの?わたくしなら、おじ様がエスコートしてくれることになっていたのでしょう?心配いらないのに。」

「心配したんじゃないよ。僕がどうしても君のエスコートをしたかったんだ。」

「あなた、来るなんて、一言も書かれていなかったわ。」
 エマローズの瞳に涙が浮かぶ。

「びっくりさせたかったんだ。ほら、泣かないで。」
 オーリオダムは、エマローズの涙が流れる前にハンカチーフでやさしく拭う。

「無理して来て、本当によかったよ、こんなに可愛らしい君のエスコートをできるんだから。」
 そう言われたエマローズは、びっくりした顔をして、その後何を言われたのか理解したようで、昨日は見せなかった真っ赤な顔をして、両手で顔をかくした。

「エマ、本当に久しぶりなんだ。ちゃんと顔を見せて。」
 長身のオーリオダムが、女性の平均身長より少しだけ低いエマローズの顔を除き混むようにして呟く。

 オーリオダムは、恥ずかしがるエマローズにさらに追い討ちをかけていき、しばらくそのやり取りが続いた。

 アリーシャとヴィオリアは『やはり、誰かを紹介するわけではなく、本人がその気だな』と感じたが、そこは言わない。さらには、『元老院が聞いた、明るくて聡明な子息という噂は、やはりオーリオダムだな』と確信したが、それも口には出さない。

 エマローズが、やっと落ち着いた頃にオーリオダムは皆に紹介され、挨拶をかわした。

 ちょうど挨拶が終わる頃、会場入口の方から、ヨアンシェルとヨアンシェルの右腕に手をかけてエスコートを受けるイメルダリアがこちらに歩いてきた。よく見ると、ヨアンシェルの左側に、ヨアンシェルより頭1つほど背の高い男性がおり、3人で歩いてくる。

 その男性を見たアリーシャは、肩をビクッとさせるほど驚いた。
 そして、近づいてきたその男性の服装を見て、さらに驚いた。ズボンやシャツ、ベストなどは白を基調にした爽やかな装いだ。が、少し光沢のある紺色のタキシードは、襟に透け感のある銀のレースが飾り縫いしてある。まさに、アリーシャとお揃いという衣装なのだ。


 男性はまっすぐにアリーシャに向かってきて、アリーシャの右手をとる。

「アリーシャ嬢、そのドレス、とても似合っている。予想以上の美しさだ。今日、貴女をエスコートする幸運を私にいただけないだろうか?」
「ゼファー様、どうして…」
アリーシャは混乱中だ。

「貴女の一生に一度の卒業パーティーを貴女と過ごしたかったんだ。」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ???」
 アリーシャは、パニックのまま了承した。


 アリーシャがパニックを起こしている間に、それぞれの紹介挨拶を終わらせ、4組のカップルは会場入りすることにした。



 ゼファーの登場は、ヨアンシェル、イメルダリア、ヴィオリア、エマローズは、もちろん知っていた。
 だが、ドレスとタキシードのお揃いについては知らなかった。ゼファーの独占欲を見た気がして、4人は息を飲み込んだ。
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