婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ

宇水涼麻

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第二章 本編 ご令嬢たちの幸せ編

2 ご令嬢たちの未来 1

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「姉上のことだけど、王子が学園で、メノール嬢に夢中であることや成績も落としたことはすぐに伝えたよ。あと、ランタル公爵様の誕生パーティーに、婚約者の姉上が招待されたのに、メノール嬢が行ったことも、ね。

でも、茶会のことや贈り物が王子でなかったことがわかったのは3ヶ月前で。」

「え?なぜ知ってますの?」

「婚約者の逢瀬が代理なんて状態が1年以上あったことが、異常なんだよ。」

「そうかもしれませんわね。」

「しかも、陛下が納得したと思ったら、王妃殿下が、どうしても娘にしたいって。まだ9歳の『第2王子の婚約者にどうか?』なんて話も出て、てんてこ舞いだったんだよ。

で、ここまで来たら、卒業時でいいかってことになった。
 あの4人に卒業の証をあげるっていう温情もあったんじゃないかな。」

 確かに学園を卒業できたかできなかったかで、市井に落ちても待遇が変わることもある。醜聞の届いていない他国でなら、尚更、卒業の証で待遇がよくなるだろう。

 さらに、本当は婚約白紙を急がなかった理由がもうひとつあるのだが、ヨアンシェルはあえてそちらは言わなかった。


「というわけで、卒業に合わせて、この発表になったんだよ。」

「そうでしたの。お父様にも、ヨアンにもわたくしが無理をさせていましたのね。ごめんなさいね。」

「やだなぁ、姉上。僕も父上も姉上に幸せになってほしいんだよ。ごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言ってほしいな。」
 ヨアンシェルが、茶目っ気を持って言った。

「わかりましたわ。ヨアン、わたくしのために動いてくれて、ありがとう。お父様にも、明日、きちんとお礼を言うわ。」

「うん、父上も喜ぶよ。

それでね、1ヶ月前に、王子たちから報告書があがり、1週間前には、王子たちが、卒業パーティーで、姉上とこちらのご令嬢たちを断罪しようとしていることがわかったんだよ。だから、姉上も含めて、ご令嬢たちに被害がないようにしようってことで計画をはじめたんだ。

だけどさ、この婚約解消って、他の生徒には関係のないことでしょ。関係のないことで、人生で一度きりの卒業パーティーが台無しって、申し訳ないなって。だから、急遽、卒業式の日は、予行練習ってことにしたんだ。」

「まあ、そうでしたの。みなさんには、本当に助けていただきましたわね。
みなさん、ありがとうございました。」

「「「アリーシャ様っ!」」」
4人が手をとりあう。

「ふぅ、それにしても、最近、王妃殿下がわたくしの好きなものばかり用意してくださるとは、感じておりましたのよ。

それに、一月前からは、登城もしなくていいと言われて、不思議には思っておりましたの。

わたくし、王妃殿下と陛下には可愛がってもらいましたもの。少し残念には思いますわね。」
と、アリーシャは、淋しそうに笑った。


〰️ 〰️


 暫くの間、今日起こったできごとについて話した。笑ったり、少し涙ぐむこともあったが、全体的には、喜びあい、労いあい、和やかな雰囲気であった。

 喜ばしい話ばかりだろうと思われるかもしれないが、みなそれぞれ短くない期間を婚約者として過ごしたのだ。すべてがさっぱりしているわけではない。
 しかし、あのまま婚約を続けていたらと考えると、喜ばしいことには間違いないと誰もが感じていた。


「婚約は破棄ではなく白紙にしていただけましたが、みなさんもわたくしも元婚約者様がよく知られておりますものね。全く醜聞にならないということは難しいでしょうね。」
アリーシャが淋しげに呟やき、少し俯いた。
 イメルダリアとヴィオリアとエマローズは目を合わすが、何から言おうかと逡巡する。

「姉上っ!」
 と、ヨアンシェルが隣に座るイメルダリアの右手の上に、自分の左手を乗せ、軽く握った。
 イメルダリアは、びっくりしてヨアンシェルを見る。ヨアンシェルの視線はまっすぐアリーシャに向いていた。

 アリーシャは、二人の手を見て、イメルダリアの反応を確認して、ヨアンシェルに視線を戻した。
 イメルダリアは目を見開きまだヨアンシェルを見たままだ。


「実は数ヶ月前から、イメルダリアさんには交際を申し込んでいるのです。しかし、姉上の婚約がまだはっきり白紙になっていませんでしたので、イメルダリアさんが、姉上が自由になってから考えるとおっしゃっていました。
なので、今日まで待ったのです。」

「まぁ、そうでしたの。」
アリーシャはにっこりと笑った。

 イメルダリアは、ヨアンシェルとアリーシャの顔を交互に見て、頬を染めて俯いた。

「イメルダリアさんは、イリサスさんとの婚約が白紙になった後も、学園の生徒のみなさんに迷惑はかけなくないと、生徒会を続けてくださいました。そのお姿は、慈悲にあふれ、一生懸命で明るく聡明で、回りに気も使えて…

イメルダリアさんは、本当にすばらしい女性なのです。」

「ヨ、ヨアン君、お、お止めくださいませ。」
イメルダリアが真っ赤になってヨアンシェルに嘆願する。

「どうして?君の良さは、ここにいるみんなわかってくれているよ。
それと、アルって呼んでっていつも言ってるのに。
でも、二人の時の可愛らしさは内緒にしておくね。」
「もうっ!」
 イメルダリアは、ヨアンシェルの手を離し、両手で顔を被って、下を向いてしまった。その手から溢れる耳は真っ赤だ。


「私たちも生徒会を続けましたのにねぇ。」
とヴィオリアが笑いながらヨアンシェルをからかい、エマローズに同意を求めた。

「その頃から、お付き合いしていらっしゃらないことが不思議なくらい、いい雰囲気ではありましたものね。」
とエマローズがニコニコと応えた。

「ふふふ。そうでしたのね。お待たせしてごめんなさいね。
愛称呼びですのね。本当にいいお仲間だったのね。」
アリーシャはとても嬉しいそうだ。

「一年後、僕が、学園を卒業したら、すぐに結婚式を執り行いますから、姉上、よろしくお願いいたしますね。」
ヨアンシェルはまさに満面の笑みだ。

「まあ、まだお付き合いのお返事ももらってないのに、気の早いこと。ふふふ
イメルダリア様が義妹になってくださるなんて嬉しいわ。」


結婚式という言葉が出て、イメルダリアがびっくりして顔を上げ、ヨアンシェルを見た。

「大丈夫だよ、イメルダリアさん。僕の父上にも、ユラベル侯爵様にも了承は受けてるから。あとは、イメルダリアさんの返事だけなんだ。」
と、ヨアンシェルはイメルダリアに優しく応えるが、『そこの確認が一番先ではないのか?』とは誰も問わない。


 ヨアンシェルは、ユラベル侯爵に了承を得るとともに、イリサスの父親であるシャーワント公爵にも婚姻白紙の発表を待たずに、イメルダリア嬢へアピールする旨を伝え、イメルダリアの外堀りをしっかりと埋めていった。
 その様子をみた宰相であるシャーワント公爵が、ヨアンシェルを気に入り、学園卒業後は、宰相補佐として王城に仕えさせるのだが、またそれは後の話だ。

「とりあえず、明日のパーティーのエスコートは僕にさせてね?」
 ヨアンシェルがイメルダリアの右手をとりながら、懇願した。

「よ、よろしくお願いいたしますわ。」
イメルダリアは恥じらいながらでも嬉しそうに了承する。

それを見ている3人もとても嬉しそうな笑顔だった。
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