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「皆さん。わたくしのためにありがとう」
最初に名指しされた美しい少女が笑顔を見せた。
「「「エトリア様。とんでもないことでございます」」」
ご令嬢たちは笑いを止めて優しげな瞳で小さく礼をする。
「このまま証人としてご一緒してくださる?」
「「「エトリア様の仰せのままに」」」
ご令嬢たちはにこやかに頷いた。
艷やかでボリュームのある金髪のサイドを結い上げた美しいご令嬢は水色の瞳を優しく細めた。
そして、扇を広げて口元を隠し男子生徒へ向く。目は三日月のままだが、奥底は冷えている。ご令嬢たちにとって他人に向けられたものであるが、尊敬と畏怖で小さくブルリと震える。
「それで? セイバーナさん。わたくしにお話とは何かしら?」
最初に声をかけてきたセイバーナ・ヨネタス公爵令息は背を正した。
セイバーナはエトリアの眼力に心は怯んだが、腹に力を入れて唾を一つ飲み込む。
「二つほどお願いがあって参りました」
「お願い? 何でしょうか?」
「一つ目。私との婚約を解消してください」
セイバーナは覚悟を決めて口にした。
「了承しますわ」
「「「「えっ!?」」」」
顔色一つ変えずにあっさりと承諾したエトリアに男子生徒たちが驚く。ご令嬢たちはその様子に笑いを堪えた。
「何か問題でも?」
「い、いえっ!」
セイバーナは覆されては困ると首を左右に振った。
「後で覆されては困りますわね。こちらにサインなさって」
エトリアが右手をテーブルから離れた方へさっと差し出すと、いつの間にか隣にいた目が隠れるほどに前髪を伸ばし執事服を着た男性が書類とペンをエトリアたちのテーブルのセイバーナから一番近い場所にセットした。
気配も感じさせずに現れた男性に男子生徒たちはたじろぐ。
『覆されては困るのは僕のはず……だが』
セイバーナは疑問を抱えた。逡巡して口を開く。
「し、しかし、書類は父上を通して……」
セイバーナは鼓動が早まりどもる。
「まあ! わたくしの父のサインを無駄になさるの?」
男子生徒たちは目を見開いて書類に向かった。セイバーナが手に取りそれをみんなで覗き込む。
「「「っ!!!」」」
「ほ……んとうに……サインしてある……」
セイバーナにとって自分から言い出したにも関わらず拒否権がないという複雑な状況に陥り頭をフル回転させるも答えが出ず書類を持つ手が震える。
「速やかにサインをお願いいたします」
書類を用意した男性がセイバーナに真顔でペンを差し出す。セイバーナは震える手でそれを受け取りテーブルに書類を置いてサインした。
男性はそれを持つと更にいつの間にか脇にいた文官服を着た男性に手渡す。手渡された男性は颯爽と学園の食堂を出ていった。執事服の男性はエトリアの後方に控えた。
文官服を着た男性が食堂を出ていくのを皆が見届けるとセイバーナは視線を下に向けたまま体をエトリアに向き直した。
「エトリア様……」
セイバーナが震える声で怯えた目を上げる。
「ヨネタス卿。その呼び名は婚約者として許可したものです。親しい者にのみ許しておりますの。
他人になったのですから正確な敬称をつけなさい」
エトリアも『セイバーナさん』から『ヨネタス卿』に呼び名を変えている。
「エトリア王女殿下……」
エトリアはこの国コニャール王国の王女である。エトリアの父親のサイン入りとは国王陛下のサイン入り。
当然のことながら、セイバーナの父親のサインより重きものである。
最初に名指しされた美しい少女が笑顔を見せた。
「「「エトリア様。とんでもないことでございます」」」
ご令嬢たちは笑いを止めて優しげな瞳で小さく礼をする。
「このまま証人としてご一緒してくださる?」
「「「エトリア様の仰せのままに」」」
ご令嬢たちはにこやかに頷いた。
艷やかでボリュームのある金髪のサイドを結い上げた美しいご令嬢は水色の瞳を優しく細めた。
そして、扇を広げて口元を隠し男子生徒へ向く。目は三日月のままだが、奥底は冷えている。ご令嬢たちにとって他人に向けられたものであるが、尊敬と畏怖で小さくブルリと震える。
「それで? セイバーナさん。わたくしにお話とは何かしら?」
最初に声をかけてきたセイバーナ・ヨネタス公爵令息は背を正した。
セイバーナはエトリアの眼力に心は怯んだが、腹に力を入れて唾を一つ飲み込む。
「二つほどお願いがあって参りました」
「お願い? 何でしょうか?」
「一つ目。私との婚約を解消してください」
セイバーナは覚悟を決めて口にした。
「了承しますわ」
「「「「えっ!?」」」」
顔色一つ変えずにあっさりと承諾したエトリアに男子生徒たちが驚く。ご令嬢たちはその様子に笑いを堪えた。
「何か問題でも?」
「い、いえっ!」
セイバーナは覆されては困ると首を左右に振った。
「後で覆されては困りますわね。こちらにサインなさって」
エトリアが右手をテーブルから離れた方へさっと差し出すと、いつの間にか隣にいた目が隠れるほどに前髪を伸ばし執事服を着た男性が書類とペンをエトリアたちのテーブルのセイバーナから一番近い場所にセットした。
気配も感じさせずに現れた男性に男子生徒たちはたじろぐ。
『覆されては困るのは僕のはず……だが』
セイバーナは疑問を抱えた。逡巡して口を開く。
「し、しかし、書類は父上を通して……」
セイバーナは鼓動が早まりどもる。
「まあ! わたくしの父のサインを無駄になさるの?」
男子生徒たちは目を見開いて書類に向かった。セイバーナが手に取りそれをみんなで覗き込む。
「「「っ!!!」」」
「ほ……んとうに……サインしてある……」
セイバーナにとって自分から言い出したにも関わらず拒否権がないという複雑な状況に陥り頭をフル回転させるも答えが出ず書類を持つ手が震える。
「速やかにサインをお願いいたします」
書類を用意した男性がセイバーナに真顔でペンを差し出す。セイバーナは震える手でそれを受け取りテーブルに書類を置いてサインした。
男性はそれを持つと更にいつの間にか脇にいた文官服を着た男性に手渡す。手渡された男性は颯爽と学園の食堂を出ていった。執事服の男性はエトリアの後方に控えた。
文官服を着た男性が食堂を出ていくのを皆が見届けるとセイバーナは視線を下に向けたまま体をエトリアに向き直した。
「エトリア様……」
セイバーナが震える声で怯えた目を上げる。
「ヨネタス卿。その呼び名は婚約者として許可したものです。親しい者にのみ許しておりますの。
他人になったのですから正確な敬称をつけなさい」
エトリアも『セイバーナさん』から『ヨネタス卿』に呼び名を変えている。
「エトリア王女殿下……」
エトリアはこの国コニャール王国の王女である。エトリアの父親のサイン入りとは国王陛下のサイン入り。
当然のことながら、セイバーナの父親のサインより重きものである。
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