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第三王子への嫉妬心はこれが初めてではないがこれまでは押さえてきた。だが、男爵令嬢のキラキラとした瞳は看過できなかった。
「僕も同じだよ。侯爵令嬢との婚約は解消だ」
僕にもその顔を向けてほしくて思わず言ってしまった。
侯爵令息二人も僕に続く。
『だが、大丈夫だ。僕は後継者だからこの婚約が僕の一言だけで解消されることはない。それどころか、僕が婚約解消を考えるほど侯爵令嬢の醜態に悩まされたと見なされるだろう。
ふふふ。僕は優位を手に入れる。愛人はこの男爵令嬢でなくともよいのだしな』
僕は僕の輝かしい未来を疑っていなかった。
侯爵令嬢は目を細めて悔しさを顕にしている。僕は思わずニヤリとほくそ笑んだ。
「相わかった。ワシの権限においてその婚約解消を認めよう」
この魔王のような言葉を聞くまでは、自分の優位を信じていた。
その席で、父上は僕を簡単に『廃嫡する』と言った。
僕は信じられなかった。
あんなに後継者だと言ってくれていたのに。
あんなに勉強させられたのに。
あんなにいい子でいたのに。
そして、母上は後継者でなくなりそうな僕を見ようともしなかった。
国王陛下のお言葉にも驚いた。
「爵位によりまわりへの影響の大きさが変わることはしっかりと理解せよ」
「言葉の価値が謝罪の金額に作用するのは当然だとは思わぬか?」
「権利には義務だけでなく、責任も伴うのだ」
僕がこれまで教わってきていないことを国王陛下は仰ったのだ。
僕が言えば何でも叶った。僕が言えば誰もが黙った。僕が言えば皆が従った。
僕が言葉にすればそれは全て正論になる。
その言葉に責任があるなんて聞いてない……。
あ然としているとさらに現実を突き付けられた。
「後継者制度を変更いたすゆえ今日は参集させたのだが、余計な騒ぎで話が逸れた。
大切な話であるのでしかと聞くように」
『え? 今日はパーティーではないのか?』
周りをよく見れば、派手なパーティーの装いをしているのは僕達五人だけであった。他の人達は登城の装いで色味を抑えてありアクセサリーなども控えめである。
僕は婚約者を断罪する高揚感で周りが見えていなかった。作戦会議のため第三王子の部屋に早々に集合したため、両親の装いも見ていないから違和感に気がつかなかった。
『そういえば、メイドに本当にこれを着るのかと聞かれたな』
僕は普段からメイドたちを無知者扱いをして話を聞かなかった。だって、僕がこれを着ると言えばそれが正しいことになるはずなのだから。
だからメイドたちも執事たちもしっかりとは言ってくれなかったのだろう。もしかしたら心の中で笑っていたのだろうか……。
僕は最後まで抗おうとしたが兵士二人に腕を掴まれ勝てる術はなく、冷たく暗い牢屋へと連れていかれた。
貴族用の牢屋とはいえ、他と比べると小さなベッドと食事のテーブルがベッド脇に付いているというだけの違いだ。
そんな場所に押し込まれた。侯爵家の二人と男爵令嬢が大声で泣き叫んでいる。耳障りだ。
「うるさいっ! 黙っていろっ!」
一瞬静まる三人。だが、それはほんの一瞬で、なぜか僕に罵詈雑言を浴びせてきた。
「公爵家だからなんとでもなると言っていたじゃないかっ!」
「婚約者の方が爵位が下だから問題ないって言ったわよねっ!」
そして肝が冷える一言が飛び出した。
「僕も同じだよ。侯爵令嬢との婚約は解消だ」
僕にもその顔を向けてほしくて思わず言ってしまった。
侯爵令息二人も僕に続く。
『だが、大丈夫だ。僕は後継者だからこの婚約が僕の一言だけで解消されることはない。それどころか、僕が婚約解消を考えるほど侯爵令嬢の醜態に悩まされたと見なされるだろう。
ふふふ。僕は優位を手に入れる。愛人はこの男爵令嬢でなくともよいのだしな』
僕は僕の輝かしい未来を疑っていなかった。
侯爵令嬢は目を細めて悔しさを顕にしている。僕は思わずニヤリとほくそ笑んだ。
「相わかった。ワシの権限においてその婚約解消を認めよう」
この魔王のような言葉を聞くまでは、自分の優位を信じていた。
その席で、父上は僕を簡単に『廃嫡する』と言った。
僕は信じられなかった。
あんなに後継者だと言ってくれていたのに。
あんなに勉強させられたのに。
あんなにいい子でいたのに。
そして、母上は後継者でなくなりそうな僕を見ようともしなかった。
国王陛下のお言葉にも驚いた。
「爵位によりまわりへの影響の大きさが変わることはしっかりと理解せよ」
「言葉の価値が謝罪の金額に作用するのは当然だとは思わぬか?」
「権利には義務だけでなく、責任も伴うのだ」
僕がこれまで教わってきていないことを国王陛下は仰ったのだ。
僕が言えば何でも叶った。僕が言えば誰もが黙った。僕が言えば皆が従った。
僕が言葉にすればそれは全て正論になる。
その言葉に責任があるなんて聞いてない……。
あ然としているとさらに現実を突き付けられた。
「後継者制度を変更いたすゆえ今日は参集させたのだが、余計な騒ぎで話が逸れた。
大切な話であるのでしかと聞くように」
『え? 今日はパーティーではないのか?』
周りをよく見れば、派手なパーティーの装いをしているのは僕達五人だけであった。他の人達は登城の装いで色味を抑えてありアクセサリーなども控えめである。
僕は婚約者を断罪する高揚感で周りが見えていなかった。作戦会議のため第三王子の部屋に早々に集合したため、両親の装いも見ていないから違和感に気がつかなかった。
『そういえば、メイドに本当にこれを着るのかと聞かれたな』
僕は普段からメイドたちを無知者扱いをして話を聞かなかった。だって、僕がこれを着ると言えばそれが正しいことになるはずなのだから。
だからメイドたちも執事たちもしっかりとは言ってくれなかったのだろう。もしかしたら心の中で笑っていたのだろうか……。
僕は最後まで抗おうとしたが兵士二人に腕を掴まれ勝てる術はなく、冷たく暗い牢屋へと連れていかれた。
貴族用の牢屋とはいえ、他と比べると小さなベッドと食事のテーブルがベッド脇に付いているというだけの違いだ。
そんな場所に押し込まれた。侯爵家の二人と男爵令嬢が大声で泣き叫んでいる。耳障りだ。
「うるさいっ! 黙っていろっ!」
一瞬静まる三人。だが、それはほんの一瞬で、なぜか僕に罵詈雑言を浴びせてきた。
「公爵家だからなんとでもなると言っていたじゃないかっ!」
「婚約者の方が爵位が下だから問題ないって言ったわよねっ!」
そして肝が冷える一言が飛び出した。
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