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 息を吐くことも躊躇われるような静寂の中で国王陛下のバリトンボイスが響く。

「そして家の判断として、第三王子は今この瞬間から王家から廃籍する。そして、北の辺境砦に預け厩舎の馬番の仕事をさせる」

 皆が息を呑む。馬番の扱いは兵士以下である。

「そ、そんな……。父上! 俺は奴等の自作自演に騙された被害者ですよねっ?! 父上がそう仰ったではありませんかっ!?」

「愚か者っ!」

 暴れ騒いでいた第三王子はビクリと動きを止めた。

「ロンゼ公爵家を愚弄する行動をとったことはお前の判断ではないか。忠義なる家臣ロンゼ公爵家を貶めるなど赦されることではないっ!」

 第三王子はロンゼ公爵を見たが、ロンゼ公爵は真っ直ぐに国王陛下を見ているだけだ。無関心が尚更第三王子の心をえぐる。

「それに今回の集いを混乱させておるのもお前が決めて動いたことであろう。
お前の親として最後の仕事だ。その騒ぎの罰金を払う。王家当主がその責任を払うということは、国王たるワシが決めたこと。
国王がこの騒ぎは罪であると決めたのだ」

 元第三王子は小さく震えていた。
 
「平民としてそのまま投げ出すこともできたが、仕事を決めてあるのは親としての温情だ」

 これまで王子として生きてきた者がただ市井に出されれば三日と保たないだろうことは簡単に想像がつく。

 元第三王子はしばらくしてカッと目を見開いた。

「貴様らのせいでっ!」

 元第三王子が少女たちに掴みかかろうとする。しかし、立ち上がる寸前で兵士に取り押さえられた。王家廃籍となり平民となった者が相手なので力加減も容赦ない。

「おい。使用人部屋に入れておけ」

「「はっ!」」

 元第三王子を抑えていた兵士が返事をする。喚き散らす元第三王子を引き摺っていった。

「ヤツの廃籍とお前たちのガキ共の処遇とは関係ない。各家で好きに致せ。
だが、問題を起こした者の親として、ワシも責任をとると宣言した。お前たちも親の責任から逃げられると思うな」

 青年たちの親と少女の親を一睨みした。メルド公爵は「一千万ガルは支払えない」と言ったがそれは減額願いのためであり本当は支払う資金があることは国王陛下はわかっている。
 心の中でホッとしているだろうメルド公爵と目を合わせた国王陛下は呆れて鼻で息を吐く。

「先程も申したように、そこな四人の自作自演。元第三王子たるヤツも嵌められた一人である」

 『罰金が増えるのか?』と青年たちの両親は肩を揺らした。

「しかし、ヤツがその小娘に現を抜かし始めたことがきっかけであるため、そなたたちにその責任を追求することはしない」

 あからさまにホッとする当主たち。一千万ガルがなかったことになったわけでもないのに顔を緩めた。特にメルド公爵は余裕の笑顔を見せる。

「浅はかな顔つきだ。やつ――メルド公爵――は権利と義務と責任を理解しておらぬのか?」

「陛下……」

「名を出しておらぬ。聞こえても自分とは思うまい」

「…………さすがにおわかりになると思いますが……」

 国王陛下の呟きに宰相がイチイチ真面目な顔でツッコむ。平時からこの状態なのでお互いに全く気にしない。

 肩を撫で下ろす者たちに国王陛下は冷たい視線を向けて声を大きくする。

「かと言って、令嬢たちの家に対しての支払わねばならぬ物は別であるぞ」

 令嬢たちの両親がズイッと一歩近寄る。
 三家の両親たちはご令嬢たちの両親に睨まれながら茫然自失となっていた。

「婚約解消宣言での侮辱、婚約破棄の賠償金は当然である。さらには自作自演で嵌めようとした。
それを踏まえると元婚約者以外の家からも慰謝料請求があると心得よ」

 国王陛下の淡々とした声が冷たく響く。
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