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53 男爵夫人「旦那様は家族が好きですねぇ」
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キリアはスッと目を伏せて手を組み腕をテーブルに預けた。
「しかし、兄上はエーティル嬢をお慕いしていたと思いますよ。僕はエーティル嬢にご挨拶するのをよく阻止されていましたから」
「そうですか? それはたぶん違いますよ」
エーティルが困ったように笑う。
ラオルドの視線はいつもキリアを追っていて何にかつけキリアと張り合いキリアより上でいたいと願っていた。
そしてまわりの言葉からキリアがエーティルに好意を寄せていることも知っている。ラオルドもきっと気がついていた。だからエーティルを自分のものにしたいと思っていたのだろう。
『恋という感情があることを最初に教えてくれたのはキリア様ね。ラオルド様にはああ言ったけれど本当は少し悔しいかも。わたくしもいつか恋というものを知るときがくるかしら……』
エーティルの視線がキリアに向かう。キリアは極上の笑みで答え、エーティルはつられるように笑顔になった。
『恋は知らずとも愛おしさとやすらぎはわかるわ』
ふとキリアの目に悲しみが宿った。
「でも、いつからだったかな? エーティル嬢について何も言ってこなくなったんです」
「そうだったのですね」
エーティルはそれがいつからだったのか、そして、なぜなのかも知っている。
「兄上に相手にされなくなったのではと焦りました。だから一層努力したのです。
もしかしたら私に発破をかけてくれたのかもしれません」
『ラオルド様のお心はキリア様の今に繋がっているわ』
すべてはエーティルとキリアを含めた王子たちのためであることを知っているエーティルは優しさを殊更含めた微笑であった。
『お二人がお元気そうでよかった。でも大変なのはこれから。ムーガならきちんと補佐してくれているはずね』
エーティルはそっと微笑んでお茶を手にした。
「エーティル嬢」
「はい」
お茶からキリアへと目を移したエーティルはほんの少したじろいだ。エーティルに対して笑顔を絶やさないキリアのここまで真剣な眼差しは見たことがなかった。
「私はエーティル嬢に頼っていただけるようこれからも研鑽してまいります。そしていつか今とは違う愛情を持っていただけるよう精進しています」
「今とは違う愛情……でございますか?」
「はい。私は男としてエーティル嬢をお慕いしております。
ずっとずっと昔から」
エーティルは今度はあきらかにたじろいだ。
キリアがニッコリとこれまで見せてきた笑顔になるがエーティルには同じ笑顔には見えなくなっていた。
エーティルが頬を染めて視線をそらし急いで扇を広げた様子を見たキリアは笑顔を深めた。
〰️ 〰️ 〰️
あれから一年以上。国の端にある男爵領の丘に二人の影があった。二人は寄り添い仲睦まじ気で銀色短髪の男性は逞しい体躯で女性を支えるように立ちピンク瞳の女性は少しだけお腹が大きくなっていた。
ラオルドとヴィエナは花が咲き誇る丘にいた。眼前に霊峰が連なるり眼下には小さな家々が木々の間に見える。家々の間には耕された畑、さらに奥には豚の牧場もある。
「もう公爵はいないのだから、貴方だけは王都に戻ったらいいのに?」
「あいつは頭もいいが勘も鋭いんだ。そんなことをしたら気が付かれてしまうよ。あいつに罪悪感を持たれることは望んでいない」
「ラオのキリア王子殿下好きも大概ね」
「ムーガにも同じようなこと言われたな。
確かにな。キリアは前世で俺の奥さんだったのではと思うくらいだよ」
「よく言うわ。下の王子殿下たちのことも大好きなくせに。前世で何人娶ったのよ」
「あはは。現世ではお前だけだ」
ラオルドはヴィエナの肩を抱き寄せ茶色の髪にそっと口づけをした。
「ピンクの髪も似合っていたのになぁ」
「あんな目立つ髪なんて冗談じゃないわ。ムーガ様が顔より印象付けさせるためだなんて言うから被っただけよ」
「だが、実際に『ピンク髪の女が第一王子を誑かした』と逸話になっていると聞いているぞ」
ラオルドは肩を揺らして笑っている。
「そのおかげでこうしてお前を迎え入れることに反対する者はいなかった」
「そうね」
「ヴィエナ。俺はどんなお前でも愛している」
ヴィエナは頼れる胸に頭を預けた。
しばらくすると呆れたような声が丘の中腹からもたらされる。
「そろそろ戻らないとヴィエナの体に触りますよ」
「あ! 本当に王都に戻るべき人がここにいたわ」
ヴィエナの冗談にラオルドは大笑いする。
「ラオルド様の安寧を見届けてから戻って来いとのご命令だ」
「男爵領に無事に着くまでじゃなかったか?」
「それはどれほど前のことだと思っているのですか? 帰城命令は当分の間保留になりましたよ」
「エーティル嬢か。何から何まで本当に気の利く方だな。
ムーガ。助かっているよ」
「ラオったら。ムーガ様にそんなこと気にしなくて大丈夫よ。ムーガ様はエーティル様が大好きでやっているだけなのだから」
ふふんと鼻を上げるヴィエナの可愛らしさと話の面白さにラオルドは大笑いだがムーガは眉を寄せる。
「しかし、兄上はエーティル嬢をお慕いしていたと思いますよ。僕はエーティル嬢にご挨拶するのをよく阻止されていましたから」
「そうですか? それはたぶん違いますよ」
エーティルが困ったように笑う。
ラオルドの視線はいつもキリアを追っていて何にかつけキリアと張り合いキリアより上でいたいと願っていた。
そしてまわりの言葉からキリアがエーティルに好意を寄せていることも知っている。ラオルドもきっと気がついていた。だからエーティルを自分のものにしたいと思っていたのだろう。
『恋という感情があることを最初に教えてくれたのはキリア様ね。ラオルド様にはああ言ったけれど本当は少し悔しいかも。わたくしもいつか恋というものを知るときがくるかしら……』
エーティルの視線がキリアに向かう。キリアは極上の笑みで答え、エーティルはつられるように笑顔になった。
『恋は知らずとも愛おしさとやすらぎはわかるわ』
ふとキリアの目に悲しみが宿った。
「でも、いつからだったかな? エーティル嬢について何も言ってこなくなったんです」
「そうだったのですね」
エーティルはそれがいつからだったのか、そして、なぜなのかも知っている。
「兄上に相手にされなくなったのではと焦りました。だから一層努力したのです。
もしかしたら私に発破をかけてくれたのかもしれません」
『ラオルド様のお心はキリア様の今に繋がっているわ』
すべてはエーティルとキリアを含めた王子たちのためであることを知っているエーティルは優しさを殊更含めた微笑であった。
『お二人がお元気そうでよかった。でも大変なのはこれから。ムーガならきちんと補佐してくれているはずね』
エーティルはそっと微笑んでお茶を手にした。
「エーティル嬢」
「はい」
お茶からキリアへと目を移したエーティルはほんの少したじろいだ。エーティルに対して笑顔を絶やさないキリアのここまで真剣な眼差しは見たことがなかった。
「私はエーティル嬢に頼っていただけるようこれからも研鑽してまいります。そしていつか今とは違う愛情を持っていただけるよう精進しています」
「今とは違う愛情……でございますか?」
「はい。私は男としてエーティル嬢をお慕いしております。
ずっとずっと昔から」
エーティルは今度はあきらかにたじろいだ。
キリアがニッコリとこれまで見せてきた笑顔になるがエーティルには同じ笑顔には見えなくなっていた。
エーティルが頬を染めて視線をそらし急いで扇を広げた様子を見たキリアは笑顔を深めた。
〰️ 〰️ 〰️
あれから一年以上。国の端にある男爵領の丘に二人の影があった。二人は寄り添い仲睦まじ気で銀色短髪の男性は逞しい体躯で女性を支えるように立ちピンク瞳の女性は少しだけお腹が大きくなっていた。
ラオルドとヴィエナは花が咲き誇る丘にいた。眼前に霊峰が連なるり眼下には小さな家々が木々の間に見える。家々の間には耕された畑、さらに奥には豚の牧場もある。
「もう公爵はいないのだから、貴方だけは王都に戻ったらいいのに?」
「あいつは頭もいいが勘も鋭いんだ。そんなことをしたら気が付かれてしまうよ。あいつに罪悪感を持たれることは望んでいない」
「ラオのキリア王子殿下好きも大概ね」
「ムーガにも同じようなこと言われたな。
確かにな。キリアは前世で俺の奥さんだったのではと思うくらいだよ」
「よく言うわ。下の王子殿下たちのことも大好きなくせに。前世で何人娶ったのよ」
「あはは。現世ではお前だけだ」
ラオルドはヴィエナの肩を抱き寄せ茶色の髪にそっと口づけをした。
「ピンクの髪も似合っていたのになぁ」
「あんな目立つ髪なんて冗談じゃないわ。ムーガ様が顔より印象付けさせるためだなんて言うから被っただけよ」
「だが、実際に『ピンク髪の女が第一王子を誑かした』と逸話になっていると聞いているぞ」
ラオルドは肩を揺らして笑っている。
「そのおかげでこうしてお前を迎え入れることに反対する者はいなかった」
「そうね」
「ヴィエナ。俺はどんなお前でも愛している」
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「そろそろ戻らないとヴィエナの体に触りますよ」
「あ! 本当に王都に戻るべき人がここにいたわ」
ヴィエナの冗談にラオルドは大笑いする。
「ラオルド様の安寧を見届けてから戻って来いとのご命令だ」
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ムーガ。助かっているよ」
「ラオったら。ムーガ様にそんなこと気にしなくて大丈夫よ。ムーガ様はエーティル様が大好きでやっているだけなのだから」
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