【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
49 / 62

49 元師団長「三年ほどお供します」

しおりを挟む
 ムーガの父親としての哀愁を他所にラオルドは手際よくヴィエナの荷物を括り付けていく。
 そしてヴィエナを自分に引き寄せた。

「ムーガ。この家は自由にしていいぞ。俺は王都から離れるから当分使い道はないからな。
いや、もう必要ない場所だ」

 ラオルドは愛おしそうにヴィエナの髪を梳く。

 ラオルドにとって王都から馬で三時間ほどのところにあるこの家は気持ちの避難所であったのだ。幼き頃から第一王子として過ごしてきたラオルドにはそういう場所が必要だったのだろう。

「ありがたく使わせていただきます。騎士団の保養所として便利そうな場所です。
ここなら緊急招集しても夜には合流できますからね」

「それいいですねっ! ねぇさんたちも喜びますよ」

 ヴィエナがウキウキとはしゃいだ。

「では、俺たちはそろそろ出立しよう」

「はいっ!」
「あ、いえ。俺もお供しますよ。護衛がヴィエナだけでは不安ですから」

 ムーガは自分の予定変更を伝えていなかったことに気が付き慌てて口にした。

「ヴィーは護衛ではない。俺がヴィーを守るんだ。でも、お前がいてくれるのは心強い。
とはいえ二週間後には王都へ戻るのだろう?」

「あれ? ムーガ様はエーティル様からの命があるって仰っていませんでしたっけ?」

「エーティル様の命こそがラオルド殿下の護衛と手助けなんだよ。だからヴィエナをここに置いて男爵領へ行く予定だったんだ。
しばらく男爵領で働くようにと言われている」

「しばらくってどれくらいなんです?」

「まあ、三年ほどかな」

 今度はラオルドとヴィエナが口を開けた。

「第三師団はどうするのだ?」

「カティドに師団長の後任任命をいたしました。
俺は今、一騎士団員に過ぎません。仕事はラオルド殿下の護衛兼秘書です」

「ムーガほどの男を貸してくれるとはエーティル嬢は思い切るものだな。わっはっは!
ヴィエナの退職届けはリタがやっておくそうだから心配するな」

「はい。後でリタ姉に手紙を書きます」

「ああ。そうしてやってくれ」

「ヴィエナの支度もできているようですし出立しましょう。ラオルド殿下は予定を立てていらっしゃるようですし」

「コースを決めているだけで日程などはその都度臨機応変だ」

「では、街でこのボロ馬車を売ってヴィエナの馬を買いましょう」

「金ならあるぞ」

「こんなボロ馬車でも市民ならほしがるんですよ。ここで朽ち果てるよりいいでしょう」

「そうか。俺は市民の常識をまだ何も知らないからな。ムーガ。その点は遠慮なく頼むぞ」

「わかりました」

「それと、殿下呼びはなしだ。ラオルドも良くないな。ラオと呼んでくれ。敬語もなしだ」

「えっ!! それは流石に無理です! せめて『ラオ様』で勘弁してください」

 拒否したムーガであったが、同行してみると何かと他の視線があり、結局外ではラオと呼ぶことになる。農民の格好をしているラオルドに様付けで敬語では注目されてしまうのも道理である。
 ムーガもヴィエナも元工作員であるので使い分けはお手の物。その都度呼び方を変えていった。

 昨日買った食べ物を麻袋に纏めて馬車に積む。ヴィエナの馬に持たせることになる。

 ラオルドが颯爽と馬に跨った。

「ヴィー」

 ラオルドがヴィエナに手を差出しそれを喜んで受けるヴィエナ。ヴィエナはラオルドの前に跨る。

『街までならヴィエナは馬車に乗ればいいだろうに……』

 そう考えてしまうムーガはやはり男女のそれに疎い。

 こうして三人は旅をしながら各地の特産品や男爵領で使えそうなものを研究していき、三ヶ月かけて男爵領へ入った。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

処理中です...