【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
42 / 62

42 父親「娘を騎士にさせたくない」

しおりを挟む
 ヴィエナへの返事を曖昧にしたムーガはヴィエナが寝静まるとそっと家を後にする。

 そして王城内にあるカティドの部屋に赴いた。

『こんな時間に奇襲ってやめてくれよぉ』

 カティドはそうは思いながらも扉を開けないという選択肢はない。

 カティドがドアを開けると木箱を肩に担いだムーガがいた。

「これで勘弁してくれ」

「あぁ。迷惑かもっていうのはわかってくれてるんすね」

「すまんな」

 ムーガが一歩踏み出すとカティドはドアを開いて招き入れた。

 どちらも口を開かずワインを三本ほど空けた頃、ムーガが話を始めた。

「ヴィーが騎士団に入りたいらしい」

「まあ、そうでしょうねぇ」

 驚きもしないカティドにムーガが驚愕の顔をしてそれを見たカティドが呆れたと眉を寄せた。

「そりゃそうでしょうよ。あれほど皆に構われて楽しそうじゃないっすか。
それに最近では剣で遊ぶこともやってますよ」

「なんだとっ!」

「隊長に知られたら怒られるからって隊長が留守の時にやってるんすよ」

「反対するに決まっているっ! ヴィーは女のコだぞっ!」

「うちには女性騎士は何人もいますよ。リタを男爵家から預かったのは八歳。今のヴィエナより下です」

 女性は体格が小さいので俊敏性やテクニックを重要視するため幼い頃から鍛錬することが良いとされていた。

「リタのご両親ご家族に申し訳ないことをした」

 リタがムーガたちに付いていきたいと行った時の家族の顔を思い浮かべムーガは俯く。

「でも隊長はリタの気持ちを優先させてあげたのでしょう?
それならヴィエナにもそうしてあげてくださいよ」

「…………だが……」

 ムーガはグラスに残るワインを一気に飲み干し再びなみなみと注ぎカティドのグラスにも溢れる間近まで注いだ。
 カティドはグラスを持ち上げることもできず口を近づけて一口飲んだ。

「せっかくの旨いワインなんですから上品に飲ませてくださいよ。これじゃ犬じゃないですか」

「これだけあるんだ。好きなように飲んだらいいだろう」

 ムーガが自分のグラスを持ち上げると溢れそうだったワインがテーブルに溢れるがそんなことは構わずに口に運んだ。

「こんな高級ワイン、勿体なくてそんな飲み方できませんよ。隊長ってそういうところはボンボンですよね」

『ガチャン!』

 ムーガが荒々しくグラスを置くのと同時にカティドは気にせずという風にグラスを持ち上げて口にした。

「旨いなぁ。何本飲んでも飽きないってすごいですねぇ」

 グラスを置いて食堂で適当に作ってもらったツマミを食べる。
 ムーガはそれを恨めしげに見ていた。

「俺を坊っちゃん扱いするな」

 怒鳴るではないが新人なら姿勢を正すほどの迫力で睨んだ。

「ふーん。やっぱり気にしてるんすね」

「何をだっ」

「侯爵家の三男ってことですよ。だからヴィエナを養子にしないのでしょう?」

 睨んでも怯まず嫌味を言うカティドに対してムーガが眉間にシワを寄せて口をヘの字にする。

「中年の拗ねる顔……。見たくないんすけど」

「中年って言うな。俺はまだ三十一だっ!」

「十歳の娘を持っている時点で中年でいいでしょう? あ、娘にしてないんでしたっけ?」

 そこここに嫌味を挟むカティドはどうやらムーガのヴィエナに対する対応が気に入らないようだ。

「俺は腐っても侯爵家の人間だ。ヴィエナを俺の娘にしたらここぞとばかりにハイエナが群がる。そんなバカバカしい社交界の渦にヴィエナを巻き込みたくない」

「そんなもんなんすかね。子爵家の俺にはわかんないっすね。
その口調が悪いのも半分はわざとでしょう?」

 今度はカティドがイライラをぶつけるようにワインを呷る。

「商人のフリをしているうちにこれが普通になったっ!」

「ぷっ! 無理していた頃のしゃべりはチグハグでしたもんね」

 リタを迎えた頃のムーガの口調はよく部下たちに笑われていたのだ。
 ムーガはカティドに視線を向けずにワインをビンごと口にした。

「ああ。もったいない。
その侯爵家ってやつから隊長が守ってやれば済むんじゃないんですか?」

「女性の世界はそんな簡単な話じゃない。それに……」

「もしかして他からヴィエナの養子の話を強いられそうになったんですか?」

 ムーガが嫌嫌頷く。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花
恋愛
 公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。  彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。  その『誰か』とはマーセルという少女だ。  マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。  いつに間にか二人は入れ替わっていた!  空いている教室で互いのことを確認し合うことに。 「貴女、マーセルね?」 「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」  婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?  そしてなぜ二人が入れ替わったのか?  公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。 ※いじめ描写有り

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

婚約者の幼馴染に殺されそうになりました。私は彼女の秘密を知ってしまったようです【完結】

小平ニコ
恋愛
選ばれた貴族の令嬢・令息のみが通うことを許される王立高等貴族院で、私は婚約者のチェスタスと共に楽しい学園生活を謳歌していた。 しかし、ある日突然転入してきたチェスタスの幼馴染――エミリーナによって、私の生活は一変してしまう。それまで、どんな時も私を第一に考えてくれていたチェスタスが、目に見えてエミリーナを優先するようになったのだ。 チェスタスが言うには、『まだ王立高等貴族院の生活に慣れてないエミリーナを気遣ってやりたい』とのことだったが、彼のエミリーナに対する特別扱いは、一週間経っても、二週間経っても続き、私はどこか釈然としない気持ちで日々を過ごすしかなかった。 そんなある日、エミリーナの転入が、不正な方法を使った裏口入学であることを私は知ってしまう。私は間違いを正すため、王立高等貴族院で最も信頼できる若い教師――メイナード先生に、不正の報告をしようとした。 しかし、その行動に気がついたエミリーナは、私を屋上に連れて行き、口封じのために、地面に向かって突き落としたのだった……

処理中です...