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38 第一王子「彼らは高官にはできない」
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そして………
すべてはムーガの計画通りに進んだ。
エーティルが皮肉った『本当にいい性格している』者とはムーガのことである。
王太子になれなかった王子の側近たちはそれまでの労をねぎらうことも含め、王城である程度の地位を約束されている。しかし、ラオルドは四人いた側近のうち二人にはその資質はないと感じていた。それがドリテンとソナハスである。
ラオルドはすぐに優秀な側近二人を理由をこじつけて側近を罷免にした。その二人はエーティルによって王城勤務になっている。
作戦としてウェルシェを迎え入れたラオルドはドリテンとソナハスへの側近としてのヒントを至るところに散りばめた。しかし、二人はそれらに気がつくことなくラオルドの愚行もウェルシェの横暴も許してしまった。
「親の力だけで高官になれると思っている者たちがまだまだいるのだな」
ラオルドはムーガに愚痴をこぼすことが増えていた。
優秀な側近だった二人はラオルドの変わりように驚き嘆きラオルドとウェルシェの王城庭園での愚行を悲しげに見ていた者だがその後には王城勤務の首をかけてまでラオルドに苦言を呈する手紙を書いている。ラオルドが二人の忠義をヒシヒシと感じその手紙を握りしめて泣いていたことは誰も知らない。
ラオルドとムーガは頻繁に会い作戦の進行や今後の展望を話しあっていた。
「ムーガはなぜそこまで協力してくれるのだ?」
ラオルドは常々聞きたいと思っていたことを口にした。
「今の俺の主君はエーティル様です。エーティル様のご要望ですから」
「それだけか?」
「あぁ、あと、自分の欲望だけしか見ないヤツにはヘドが出ます」
「ピンポイントな憎悪だな」
「俺も天涯孤独ではないんで」
ムーガが話を濁すのでラオルドはそれ以上は聞かなかった。
また別の日にはムーガからラオルドに質問が出た。
「殿下はエーティル様への未練はないのですか?」
ムーガは書類整理をしながら世間話をするかのように核心を突く質問をしたが、ラオルドはキョトキョトと目を瞬かせてから『プッ』と吹き出した。
「ないない。あははは」
「あのエーティル様ですよ」
「だよなぁ。だからあいつはあんなにも熱い瞳で見るのだろうなぁ」
ラオルドは優しさの籠もる表情を壁の向こうへ向ける。
「まあ、あれは露骨ですけどね」
ムーガも初々しい恋する青年を思い浮かべた。
「ここのところは更にエスカレートしているのだぞ。俺への視線が痛い痛い。
先日などは怒鳴り込んで来たしな」
「へ? 理由は?」
「ほら、俺がウェルシェと戯れているだろう。それを見てな。
『兄上! エーティル嬢を大切になさるおつもりがないのですかっ!? それだけは許しませんよ』ってな」
ラオルドが声を高くしてキリアのマネをした。
「プッ! 似てませんよ。ラオルド殿下に王位は譲れてもエーティル様を蔑ろにすることは認めないということですかね」
「そういうことだろうな」
「で? 何と答えたのです?」
「両方大事にするって答えた。父上もそうしているだろうって言ったら何も言えなくなっていたな。父上のそれは家族愛であって恋愛ではないと思うがな」
「??? そういうものですか」
首を傾げるムーガを見たラオルドがクスリと笑った。
「たぶんな。俺はまだ一人目の嫁も迎えていないからわからん。
とにかく、そんなキリアがエーティル嬢を見つめる瞳を見たら懸想しようなどとは思えなくなっていったのだ」
ラオルドの笑みにはキリアへの家族愛に溢れていた。
「そのお立場であのエーティル様に懸想しないなんてどれほどキリア殿下が好きなのです」
ムーガのからかい言葉もラオルドは心地よく感じている。
「兄弟の仲が良くて羨ましいですよ」
ムーガの目に諦めの色が出ていたのを見たラオルドは世間の噂も含めて『自分の欲望だけしか見ないヤツ』に繋がっているのかもしれないと考え強く聞くことはしなかった。
「キリアに会うより先にエーティル嬢に会っていたら違うかもしれないな」
自分で自分を冷やかすように口にする。
「王宮でご一緒に過ごされて王妃陛下と側妃殿下の仲がよろしいのに弟殿下と会わないわけないでしょう」
「なら、やはり俺にはキリアが優先だ」
「ラオルド殿下はご兄弟の中で一番婚姻が遅そうですね」
ラオルドはムーガにニヤリと笑い返す。
「んー……。 それはどうかなぁ」
ムーガは訝しんでいくつか質問したがラオルドはのらりくらりと明言を避けていきそのうちにムーガがこの話を諦めた。
『完璧だと思っていた男にこのような欠点があるとは愉快だ』
ラオルドが思わず笑いを零した様子にムーガは遠慮なく眉を寄せたが笑いの意味を理解はできなかった。
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
私の中でエンディングが見えてまいりましたので明日からは週末も含め毎日更新します!
最後まで走りきります!
よろしくお願いいたします。
すべてはムーガの計画通りに進んだ。
エーティルが皮肉った『本当にいい性格している』者とはムーガのことである。
王太子になれなかった王子の側近たちはそれまでの労をねぎらうことも含め、王城である程度の地位を約束されている。しかし、ラオルドは四人いた側近のうち二人にはその資質はないと感じていた。それがドリテンとソナハスである。
ラオルドはすぐに優秀な側近二人を理由をこじつけて側近を罷免にした。その二人はエーティルによって王城勤務になっている。
作戦としてウェルシェを迎え入れたラオルドはドリテンとソナハスへの側近としてのヒントを至るところに散りばめた。しかし、二人はそれらに気がつくことなくラオルドの愚行もウェルシェの横暴も許してしまった。
「親の力だけで高官になれると思っている者たちがまだまだいるのだな」
ラオルドはムーガに愚痴をこぼすことが増えていた。
優秀な側近だった二人はラオルドの変わりように驚き嘆きラオルドとウェルシェの王城庭園での愚行を悲しげに見ていた者だがその後には王城勤務の首をかけてまでラオルドに苦言を呈する手紙を書いている。ラオルドが二人の忠義をヒシヒシと感じその手紙を握りしめて泣いていたことは誰も知らない。
ラオルドとムーガは頻繁に会い作戦の進行や今後の展望を話しあっていた。
「ムーガはなぜそこまで協力してくれるのだ?」
ラオルドは常々聞きたいと思っていたことを口にした。
「今の俺の主君はエーティル様です。エーティル様のご要望ですから」
「それだけか?」
「あぁ、あと、自分の欲望だけしか見ないヤツにはヘドが出ます」
「ピンポイントな憎悪だな」
「俺も天涯孤独ではないんで」
ムーガが話を濁すのでラオルドはそれ以上は聞かなかった。
また別の日にはムーガからラオルドに質問が出た。
「殿下はエーティル様への未練はないのですか?」
ムーガは書類整理をしながら世間話をするかのように核心を突く質問をしたが、ラオルドはキョトキョトと目を瞬かせてから『プッ』と吹き出した。
「ないない。あははは」
「あのエーティル様ですよ」
「だよなぁ。だからあいつはあんなにも熱い瞳で見るのだろうなぁ」
ラオルドは優しさの籠もる表情を壁の向こうへ向ける。
「まあ、あれは露骨ですけどね」
ムーガも初々しい恋する青年を思い浮かべた。
「ここのところは更にエスカレートしているのだぞ。俺への視線が痛い痛い。
先日などは怒鳴り込んで来たしな」
「へ? 理由は?」
「ほら、俺がウェルシェと戯れているだろう。それを見てな。
『兄上! エーティル嬢を大切になさるおつもりがないのですかっ!? それだけは許しませんよ』ってな」
ラオルドが声を高くしてキリアのマネをした。
「プッ! 似てませんよ。ラオルド殿下に王位は譲れてもエーティル様を蔑ろにすることは認めないということですかね」
「そういうことだろうな」
「で? 何と答えたのです?」
「両方大事にするって答えた。父上もそうしているだろうって言ったら何も言えなくなっていたな。父上のそれは家族愛であって恋愛ではないと思うがな」
「??? そういうものですか」
首を傾げるムーガを見たラオルドがクスリと笑った。
「たぶんな。俺はまだ一人目の嫁も迎えていないからわからん。
とにかく、そんなキリアがエーティル嬢を見つめる瞳を見たら懸想しようなどとは思えなくなっていったのだ」
ラオルドの笑みにはキリアへの家族愛に溢れていた。
「そのお立場であのエーティル様に懸想しないなんてどれほどキリア殿下が好きなのです」
ムーガのからかい言葉もラオルドは心地よく感じている。
「兄弟の仲が良くて羨ましいですよ」
ムーガの目に諦めの色が出ていたのを見たラオルドは世間の噂も含めて『自分の欲望だけしか見ないヤツ』に繋がっているのかもしれないと考え強く聞くことはしなかった。
「キリアに会うより先にエーティル嬢に会っていたら違うかもしれないな」
自分で自分を冷やかすように口にする。
「王宮でご一緒に過ごされて王妃陛下と側妃殿下の仲がよろしいのに弟殿下と会わないわけないでしょう」
「なら、やはり俺にはキリアが優先だ」
「ラオルド殿下はご兄弟の中で一番婚姻が遅そうですね」
ラオルドはムーガにニヤリと笑い返す。
「んー……。 それはどうかなぁ」
ムーガは訝しんでいくつか質問したがラオルドはのらりくらりと明言を避けていきそのうちにムーガがこの話を諦めた。
『完璧だと思っていた男にこのような欠点があるとは愉快だ』
ラオルドが思わず笑いを零した様子にムーガは遠慮なく眉を寄せたが笑いの意味を理解はできなかった。
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