【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
37 / 62

37 師団長「暗殺?! させませんよっ!」

しおりを挟む
「もちろん、ノンバルダがはっきりと口にしたわけではない。だが、『王子がラオルドだけならこんな話にならないのにな』と呟いていた……」

 ラオルドはその時のノンバルダの妖しい笑みを思い出して頭を抱えて蹲った。

「いやいやいや! そんなこともちろんさせませんよ! そのために俺たち護衛がいるのですから!」

 ムーガが顔の前でブンブンと腕を振って否定してエーティルも逡巡して納得する。

『公爵家当主による王子殿下三人の暗殺なんてどう考えても無理があるわ』

「それはわかっている。お前たち騎士団を信用している。
だが、それを実行したら………………
公爵家はどうなるのだ…………
ノンバルダもそしてノンバルダの弟も俺の従兄弟だ。彼らはどうなるのだ……。彼らの使用人たちは?」

『王子の暗殺を試みるような家! 潰れたっていいだろう?!』

 ムーガはラオルドの言葉に口を開けたいくらい呆れたが我慢しエーティルは悲しげに俯いた。

『ラオルド殿下は本当にお優しすぎるわ。最上位になるのならもっと非情になることもお学びになっていただかなくてはならないわね』

 エーティルはラオルドの良さを否定しなければならないことに心を痛める。

「俺はノンバルダに迫られた時、キリアへのライバル心より、家族として守りたいと大切な家族なのだと思い知った。
それと同時に公爵家も血縁のある一族だと……」

『なるほどな。誰かに容易く相談できるような話じゃないわな。かといってラオルド殿下だけで解決できるとは思えないしなぁ』

 ムーガが頭を回転させている間にもラオルドの話は続いた。

「俺はノンバルダに狂気を見た……。
万が一そうなれば公爵家が没落することになり国が荒れるかもしれない。
何より………………母上が悲しむ……」

『公爵家の爵位剥奪領地没収となると確かに混乱はするわ。でも力のある者たちに割譲すれば数年もすれば元に戻せるでしょう。
でも、王妃陛下の心労は多大なものになってしまうわね。いえ、ご実家の失態となれば王妃陛下のお立場も危うくなるかもしれないわ』

 ノンバルダの策略は成功の有無に関わらず実行してしまえば被害が無いことはありえない。

「俺が継承権を放棄したとしてもここにいたらノンバルダはいつまでも俺を国王にすることを諦めない。広い領地も高い爵位も持っているのにまだそれ以上を望むのだ。彼の欲望に限界がないというより何かに追い立てられているようにさえ見える。
今は亡き叔父上に勝るなど何をもってそう判断するのだ。どれ程を手にすれば納得するというのだ……」

 ラオルドにもエーティルにもノンバルダが何をどこまで望んでいるか見えない。だからこそ、不安がどこまでも広がる。

「だから俺はここにいては駄目なのだ。しかし、王太子にならなかった王子は騎士団や王城勤務をして王太子ひいては国王陛下を支えることになっている。
俺は何とかして王都から離れたい。どこかへ婿入りして出てもいいが条件の合うご令嬢がいない」

「南の辺境伯殿にご令嬢がいらっしゃいましたよね? 確か一人娘のはず」

 ムーガの質問にエーティルが首を振った。

「メルキト殿下が継承権放棄に動いているの。そのご令嬢と懇意にしておられるようだわ」

「なるほどだからですね」

 エーティルが不思議そうにムーガを見た。

「メルキト殿下のやる気が漲りすぎてどうしていいかわからないという話が出ているのです。騎士団に鍛錬にいらしてくれるのですがお怪我を負わせるわけには参りませんし。
ですが、そういうことなら鍛錬に手を抜く必要はないと団長に伝えておきます」

「縁談のことはまだ極秘ですからね」

「わかりました」

『ラオルド殿下はメルキト殿下のことも可愛がっておられるからメルキト殿下のお気持ちを慮れば辺境伯に婿入りなど考えもしないだろう』

 ムーガはここまで聞いたラオルドの家族への思いを鑑みてそう考えたが他に立場の見合うご令嬢は思い浮かばなかった。

「いっその事、俺が国外逃亡でもするべきなのかもしれない……」

 エーティルは驚きのあまり我慢しきれず肩を揺らした。

「それが本気なら俺が手助けしますよ」

 ムーガがニヤケた顔をしてラオルドをみつめた。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

処理中です...