【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
36 / 62

36 第一王子『新公爵よ。わかってくれ……』

しおりを挟む
「っ!!!」

 ノンバルダは仰け反るほど動揺した。前国王陛下から三枚目の肖像画に描かれた数代前の国王は金髪には程遠いブルネットアッシュの肖像画であったからだ。

「八十年以上前の国王陛下だな。歴代の王妃様の肖像画はここにはないからわからないがこちらの国王陛下と前の国王陛下は髪の色は全く違うな」

 ノンバルダは目を見開いて硬直しておりラオルドの話に頷くこともない。

「おっ! 更に先代になると目はオレンジ色のようだ」

「こちらの国王陛下はグレーの髪をしているぞ」

 ゆっくりと歩みを続けるラオルドにノンバルダは心そぞろに付いていく。
 そして入口のすぐ右側にある最後の三枚の絵を前にしてノンバルダは口をパカリと開けた。

 そこには威厳のある男性が描かれているのだが三人とも茶髪で黒い瞳である。

「実はこの三枚は想像で書かれたものなんだよ」

 殊更感慨深げに見上げていたラオルドをノンバルダは驚きで凝視した。

「恐らく時代的に絵画のテクニックも確立していなかっただろうし、開国して慌ただしかったのだと思う。王家に伝わる史実には髪色も瞳の色も記載されていないんだ。それを描かせたのは五代目の国王陛下だそうだが、髪や瞳の色に拘らなかったためこの色になったと本に書かれている」

「そ、そんな……遺伝の象徴なのに……」

「確かに誰にでもわかりやすい遺伝の象徴ではあるかもしれないね。だけど俺はそれだけではないと思う。
俺は見た目の通り体格はいい。だけどきっとキリアの事務能力も遺伝の一つなんだよ。
それに、遺伝だけで全てが決まるわけじゃない。本人の努力は本人だけのものだ」

 ラオルドが肖像画から目を離しノンバルダに真っ直ぐに正対した。

「ノンバルダは自分の努力をどう思う?」

 ノンバルダはラオルドの視線から逃れるように目を泳がせた。

「そろそろ時間だ。絵画が痛むから長時間の滞在は控えるように言われているのだ」

 ラオルドがノンバルダの返事を待たずに出口へ向かう。

「ノンバルダ」

 ラオルドは振り返ると硬直したノンバルダに声をかける。ノンバルダは心ここにあらずでフラフラと声のする方に足を向けた。
 部屋を出ると護衛にノンバルダを支え馬車まで送るように指示を出し自身の執務室へと戻っていった。

『自分を見つめ直してくれるといいのだが』

 だが、ラオルドの希望が叶うことはなかった。もしかしたら頑なにさせてしまったのかもしれない。

 二週間後に再び面会に来たノンバルダは満面の笑みであった。

「ラオルド! エーティル嬢との距離は縮まったか?」

〰️ 〰️ 〰️

「ノンバルダが肖像画室で何を思い考えたのかはわからない。だが、二週間たって考えが以前と改まっていなかったと感じた」

「ラオルド殿下はご自身の王位継承権についてはどうお考えですの?」
 
「王位に就くことだけが国に役に立つことだとは考えていない。年功序列よりむしろ適材適所であるべきだ。
王位に拘りはない」

「それならば、ラオルド殿下が継承権放棄すればよいのではないですか?
ラオルド殿下も優秀でいらっしゃいますもの。総務局に入りいつか大臣となり未来の国王陛下をお支えしてさし上げればどれほど心強いか。
または騎士団に所属されるのも良いことかと。ラオルド殿下のお力でしたらゆくゆくは団長もありますわね。ラオルド殿下の武術はこのムーガも認めておりますわ」

 ムーガも満面の笑みで力強く頷く。

「それはできない……」

 エーティルは自嘲と憂いの笑みを零すラオルドから視線を外さずにラオルドが次を語るのを待った。
 僅かな間を置き虚無感を帯びた瞳のラオルドは再び口を開いた。

「キリアはとても優秀だ。このまま自然に任せればキリアが王太子になることは間違いない。だが、殺されてしまったら……」

 ラオルドは苦しそうに顔を歪めた。

「っ!」
「殺す!?」

 エーティルは息を呑み、ムーガは顔を引き攣らせた。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...