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36 第一王子『新公爵よ。わかってくれ……』
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「っ!!!」
ノンバルダは仰け反るほど動揺した。前国王陛下から三枚目の肖像画に描かれた数代前の国王は金髪には程遠いブルネットアッシュの肖像画であったからだ。
「八十年以上前の国王陛下だな。歴代の王妃様の肖像画はここにはないからわからないがこちらの国王陛下と前の国王陛下は髪の色は全く違うな」
ノンバルダは目を見開いて硬直しておりラオルドの話に頷くこともない。
「おっ! 更に先代になると目はオレンジ色のようだ」
「こちらの国王陛下はグレーの髪をしているぞ」
ゆっくりと歩みを続けるラオルドにノンバルダは心そぞろに付いていく。
そして入口のすぐ右側にある最後の三枚の絵を前にしてノンバルダは口をパカリと開けた。
そこには威厳のある男性が描かれているのだが三人とも茶髪で黒い瞳である。
「実はこの三枚は想像で書かれたものなんだよ」
殊更感慨深げに見上げていたラオルドをノンバルダは驚きで凝視した。
「恐らく時代的に絵画のテクニックも確立していなかっただろうし、開国して慌ただしかったのだと思う。王家に伝わる史実には髪色も瞳の色も記載されていないんだ。それを描かせたのは五代目の国王陛下だそうだが、髪や瞳の色に拘らなかったためこの色になったと本に書かれている」
「そ、そんな……遺伝の象徴なのに……」
「確かに誰にでもわかりやすい遺伝の象徴ではあるかもしれないね。だけど俺はそれだけではないと思う。
俺は見た目の通り体格はいい。だけどきっとキリアの事務能力も遺伝の一つなんだよ。
それに、遺伝だけで全てが決まるわけじゃない。本人の努力は本人だけのものだ」
ラオルドが肖像画から目を離しノンバルダに真っ直ぐに正対した。
「ノンバルダは自分の努力をどう思う?」
ノンバルダはラオルドの視線から逃れるように目を泳がせた。
「そろそろ時間だ。絵画が痛むから長時間の滞在は控えるように言われているのだ」
ラオルドがノンバルダの返事を待たずに出口へ向かう。
「ノンバルダ」
ラオルドは振り返ると硬直したノンバルダに声をかける。ノンバルダは心ここにあらずでフラフラと声のする方に足を向けた。
部屋を出ると護衛にノンバルダを支え馬車まで送るように指示を出し自身の執務室へと戻っていった。
『自分を見つめ直してくれるといいのだが』
だが、ラオルドの希望が叶うことはなかった。もしかしたら頑なにさせてしまったのかもしれない。
二週間後に再び面会に来たノンバルダは満面の笑みであった。
「ラオルド! エーティル嬢との距離は縮まったか?」
〰️ 〰️ 〰️
「ノンバルダが肖像画室で何を思い考えたのかはわからない。だが、二週間たって考えが以前と改まっていなかったと感じた」
「ラオルド殿下はご自身の王位継承権についてはどうお考えですの?」
「王位に就くことだけが国に役に立つことだとは考えていない。年功序列よりむしろ適材適所であるべきだ。
王位に拘りはない」
「それならば、ラオルド殿下が継承権放棄すればよいのではないですか?
ラオルド殿下も優秀でいらっしゃいますもの。総務局に入りいつか大臣となり未来の国王陛下をお支えしてさし上げればどれほど心強いか。
または騎士団に所属されるのも良いことかと。ラオルド殿下のお力でしたらゆくゆくは団長もありますわね。ラオルド殿下の武術はこのムーガも認めておりますわ」
ムーガも満面の笑みで力強く頷く。
「それはできない……」
エーティルは自嘲と憂いの笑みを零すラオルドから視線を外さずにラオルドが次を語るのを待った。
僅かな間を置き虚無感を帯びた瞳のラオルドは再び口を開いた。
「キリアはとても優秀だ。このまま自然に任せればキリアが王太子になることは間違いない。だが、殺されてしまったら……」
ラオルドは苦しそうに顔を歪めた。
「っ!」
「殺す!?」
エーティルは息を呑み、ムーガは顔を引き攣らせた。
ノンバルダは仰け反るほど動揺した。前国王陛下から三枚目の肖像画に描かれた数代前の国王は金髪には程遠いブルネットアッシュの肖像画であったからだ。
「八十年以上前の国王陛下だな。歴代の王妃様の肖像画はここにはないからわからないがこちらの国王陛下と前の国王陛下は髪の色は全く違うな」
ノンバルダは目を見開いて硬直しておりラオルドの話に頷くこともない。
「おっ! 更に先代になると目はオレンジ色のようだ」
「こちらの国王陛下はグレーの髪をしているぞ」
ゆっくりと歩みを続けるラオルドにノンバルダは心そぞろに付いていく。
そして入口のすぐ右側にある最後の三枚の絵を前にしてノンバルダは口をパカリと開けた。
そこには威厳のある男性が描かれているのだが三人とも茶髪で黒い瞳である。
「実はこの三枚は想像で書かれたものなんだよ」
殊更感慨深げに見上げていたラオルドをノンバルダは驚きで凝視した。
「恐らく時代的に絵画のテクニックも確立していなかっただろうし、開国して慌ただしかったのだと思う。王家に伝わる史実には髪色も瞳の色も記載されていないんだ。それを描かせたのは五代目の国王陛下だそうだが、髪や瞳の色に拘らなかったためこの色になったと本に書かれている」
「そ、そんな……遺伝の象徴なのに……」
「確かに誰にでもわかりやすい遺伝の象徴ではあるかもしれないね。だけど俺はそれだけではないと思う。
俺は見た目の通り体格はいい。だけどきっとキリアの事務能力も遺伝の一つなんだよ。
それに、遺伝だけで全てが決まるわけじゃない。本人の努力は本人だけのものだ」
ラオルドが肖像画から目を離しノンバルダに真っ直ぐに正対した。
「ノンバルダは自分の努力をどう思う?」
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「そろそろ時間だ。絵画が痛むから長時間の滞在は控えるように言われているのだ」
ラオルドがノンバルダの返事を待たずに出口へ向かう。
「ノンバルダ」
ラオルドは振り返ると硬直したノンバルダに声をかける。ノンバルダは心ここにあらずでフラフラと声のする方に足を向けた。
部屋を出ると護衛にノンバルダを支え馬車まで送るように指示を出し自身の執務室へと戻っていった。
『自分を見つめ直してくれるといいのだが』
だが、ラオルドの希望が叶うことはなかった。もしかしたら頑なにさせてしまったのかもしれない。
二週間後に再び面会に来たノンバルダは満面の笑みであった。
「ラオルド! エーティル嬢との距離は縮まったか?」
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「ラオルド殿下はご自身の王位継承権についてはどうお考えですの?」
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「それならば、ラオルド殿下が継承権放棄すればよいのではないですか?
ラオルド殿下も優秀でいらっしゃいますもの。総務局に入りいつか大臣となり未来の国王陛下をお支えしてさし上げればどれほど心強いか。
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ラオルドは苦しそうに顔を歪めた。
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「殺す!?」
エーティルは息を呑み、ムーガは顔を引き攣らせた。
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