33 / 62
33 新公爵「公爵令嬢をものにしろ」
しおりを挟む
「ノンバルダの言っている意味がわからない」
ラオルドは本当にわからないのではなくそうでない意味であってほしいと思い請うように眉尻を下げるがノンバルダがそれを慮ることはなかった。
「十六なら婚姻に早すぎるという年ではない。エーティル嬢さえ手中にしておけば王太子就任が遅れても確約はあるということになる」
「手中にってっ!」
「遅かれ早かれそうなるのだからいいではないか。それともエーティル嬢との間に子をもうけぬつもりか? だとしても手を出しておかないのは体裁が悪いぞ。やっておけば子ができぬことを相手の責任にもできるしな」
ラオルドはあまりの話の展開に呆然とするしかなかったのだがその表情を見たノンバルダはラオルドが納得したと思った。
「心配するな。ラオルドは私に任せておけばいい。
来月、我が家で交流パーティーを行う。そこで準備をしておく。万が一、エーティル嬢が抵抗しても目撃者が沢山いることになるからどちらにしても大丈夫だ」
ノンバルダはラオルドの返事を待たずに立ち上がった。
「来週招待状を送る。出席の返事はいらないぞ。日時だけしっかりと確認しておいてくれ。くれぐれも第二王子を誘ったりするなよ」
ノンバルダは満足気に笑み颯爽と退室していった。ラオルドは扉が閉まると頭を抱えて蹲った。
一ヶ月後の公爵家のパーティーにはラオルドは体調不良で急遽欠席の手紙を送り赴かなかった。
「ラオルド! なぜパーティーに来なかったのだっ!」
ノンバルダはパーティーから二週間後に許された面会時にいきなり捲し立てた。ラオルドは手で側近たちを下がらせたが敢えて茶は出さない。
「熱を出したんだよ。だからこの二週間面会願いも受理しなかっただろう」
「来るだけでよかったのだっ! 事をせずともよい万全な準備をしておいたのにっ!」
「ノンバルダ。落ち着け。外に聞こえ漏れるぞ。誰かに聞かれたら国家簒奪と思われてしまうかもしれないのだ」
「王太子にラオルドを推すことが国家簒奪になるわけがないっ!」
そういいながらも声を落とすノンバルダはチラリと扉に目線を向け警戒していた。
「俺を推すことが国王陛下のご意思に反するかもしれないじゃないか。何度も言うが、貴族家が一王子に加担することを国王陛下は望まれていない」
「何を悠長なことを! 今日も第二王子とエーティル嬢は茶会をしているそうじゃないかっ!」
「だから、キリアに敬称を付けろ。誰に聞かれるかわからないと言っている。俺に対しては血縁の従兄弟だから許しているのだ。
それに、エーティル嬢は昨日は俺と茶をした。彼女は感情で動いたりしていない」
「つまりエーティル嬢の感情は第二王子で! ん! か! にあるのだな!?」
「そうは言ってないっ! 万が一そうであっても関係ないのだっ! それが彼女の責任であり矜持であるのだっ! 王太子妃になられる方に不敬だぞっ!」
声を潜めながらも強い口調の二人は睨み合ったがラオルドが先に折れた。
「何も決まっていないのに何を慌てているのだ。俺は努力していくし弟たちも努力している。王家が一丸となって国の発展を導いていくつもりだ」
「その中心にラオルドがなるべきだと言っているだけだ」
ノンバルダは立ち上がると胸奥のポケットから小瓶を取り出してテーブルに置いた。
「次回のエーティル嬢との茶会にはこれを使え。間違っても公開庭園で茶会などするなよ。この部屋で茶会をするべきだろうな。人払いも忘れるなよ」
「どういう意味だ」
「エーティル嬢の矜持とやらを守ってやれと言っているのだ」
「何?!」
「王太子妃になられる方として乱れた姿をラオルド以外に見られることは避けたいだろうからな」
皮肉を込めて歪めたノンバルダはくるりと背を向けて出て行った。
ラオルドはその小瓶を側近やメイドに見られないように急いで机の一番下の引き出し奥に隠した。
それは自分のためでもエーティルのためでもなく、ただ従兄弟ノンバルダのために。
だが、その気持ちがノンバルダに伝わることはなかった。
ラオルドは本当にわからないのではなくそうでない意味であってほしいと思い請うように眉尻を下げるがノンバルダがそれを慮ることはなかった。
「十六なら婚姻に早すぎるという年ではない。エーティル嬢さえ手中にしておけば王太子就任が遅れても確約はあるということになる」
「手中にってっ!」
「遅かれ早かれそうなるのだからいいではないか。それともエーティル嬢との間に子をもうけぬつもりか? だとしても手を出しておかないのは体裁が悪いぞ。やっておけば子ができぬことを相手の責任にもできるしな」
ラオルドはあまりの話の展開に呆然とするしかなかったのだがその表情を見たノンバルダはラオルドが納得したと思った。
「心配するな。ラオルドは私に任せておけばいい。
来月、我が家で交流パーティーを行う。そこで準備をしておく。万が一、エーティル嬢が抵抗しても目撃者が沢山いることになるからどちらにしても大丈夫だ」
ノンバルダはラオルドの返事を待たずに立ち上がった。
「来週招待状を送る。出席の返事はいらないぞ。日時だけしっかりと確認しておいてくれ。くれぐれも第二王子を誘ったりするなよ」
ノンバルダは満足気に笑み颯爽と退室していった。ラオルドは扉が閉まると頭を抱えて蹲った。
一ヶ月後の公爵家のパーティーにはラオルドは体調不良で急遽欠席の手紙を送り赴かなかった。
「ラオルド! なぜパーティーに来なかったのだっ!」
ノンバルダはパーティーから二週間後に許された面会時にいきなり捲し立てた。ラオルドは手で側近たちを下がらせたが敢えて茶は出さない。
「熱を出したんだよ。だからこの二週間面会願いも受理しなかっただろう」
「来るだけでよかったのだっ! 事をせずともよい万全な準備をしておいたのにっ!」
「ノンバルダ。落ち着け。外に聞こえ漏れるぞ。誰かに聞かれたら国家簒奪と思われてしまうかもしれないのだ」
「王太子にラオルドを推すことが国家簒奪になるわけがないっ!」
そういいながらも声を落とすノンバルダはチラリと扉に目線を向け警戒していた。
「俺を推すことが国王陛下のご意思に反するかもしれないじゃないか。何度も言うが、貴族家が一王子に加担することを国王陛下は望まれていない」
「何を悠長なことを! 今日も第二王子とエーティル嬢は茶会をしているそうじゃないかっ!」
「だから、キリアに敬称を付けろ。誰に聞かれるかわからないと言っている。俺に対しては血縁の従兄弟だから許しているのだ。
それに、エーティル嬢は昨日は俺と茶をした。彼女は感情で動いたりしていない」
「つまりエーティル嬢の感情は第二王子で! ん! か! にあるのだな!?」
「そうは言ってないっ! 万が一そうであっても関係ないのだっ! それが彼女の責任であり矜持であるのだっ! 王太子妃になられる方に不敬だぞっ!」
声を潜めながらも強い口調の二人は睨み合ったがラオルドが先に折れた。
「何も決まっていないのに何を慌てているのだ。俺は努力していくし弟たちも努力している。王家が一丸となって国の発展を導いていくつもりだ」
「その中心にラオルドがなるべきだと言っているだけだ」
ノンバルダは立ち上がると胸奥のポケットから小瓶を取り出してテーブルに置いた。
「次回のエーティル嬢との茶会にはこれを使え。間違っても公開庭園で茶会などするなよ。この部屋で茶会をするべきだろうな。人払いも忘れるなよ」
「どういう意味だ」
「エーティル嬢の矜持とやらを守ってやれと言っているのだ」
「何?!」
「王太子妃になられる方として乱れた姿をラオルド以外に見られることは避けたいだろうからな」
皮肉を込めて歪めたノンバルダはくるりと背を向けて出て行った。
ラオルドはその小瓶を側近やメイドに見られないように急いで机の一番下の引き出し奥に隠した。
それは自分のためでもエーティルのためでもなく、ただ従兄弟ノンバルダのために。
だが、その気持ちがノンバルダに伝わることはなかった。
18
お気に入りに追加
2,187
あなたにおすすめの小説

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
秋月一花
恋愛
公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。
彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。
その『誰か』とはマーセルという少女だ。
マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。
いつに間にか二人は入れ替わっていた!
空いている教室で互いのことを確認し合うことに。
「貴女、マーセルね?」
「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」
婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?
そしてなぜ二人が入れ替わったのか?
公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。
※いじめ描写有り

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる