【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
30 / 62

30 公爵令嬢「殿下はお優しい方よ」

しおりを挟む
 町からしばらく走ると二階建ての宿屋風の家屋が見えてきた。

「まさかあれか?」

「ムーガ様も隠れ家を知らないのですか?」

「ああ。ラオルド殿下の所有で時々利用されている建物だそうだ」

「へ? ラオルド様が用意してくださったのですか?」

「そうだ」

 二人は馭者台から建物を見上げた。
 低い塀で囲まれた小綺麗な外観の建物である。

「赤茶色の屋根の二階建てに馬車置き場と馬のつなぎ場……。
間違いなくここだな……」

「ムーガ様が用意したっていうならわかるけど……」

「だなぁ。王族が使っているとは……」

「思えないですねぇ」

 それほどこじんまりとした家屋であったが平民なら中流より少し上である。

『王都から馬を飛ばせば三時間ほどの距離だ。ラオルド殿下は本当の休養に使っているのかもしれないな』

 ムーガは気を張って執務を熟すラオルドを思い浮かべた。ここまでは遠回りしてから王都へ戻ってくるような道順を選んだ。

『いつかラオルド殿下のお気持ちがキリア殿下に届くことを願おう』

 ムーガとヴィエナは馭者台から降り立った。


〰️ 〰️ 〰️


 一年程前のことである。

 エーティルはラオルドに覇気がなく憔悴していることに気がついた。
 だが、ラオルドもさすがの第一王子である。王城に勤める者たちの前ではそれを一切見せない。エーティルも個人的なお茶会での笑顔に不自然さを感じたぐらいである。

 何でも納得しなくては気がすまないエーティルはムーガに調査を依頼した。

「わたくしの杞憂ならそれでいいの。
それから。
もし本当にお元気がないとわかったとしても無理に理由を調べることまではしなくていいわ」

「その程度でしたら専属メイドに聞けばすぐに答えが出ます」

「調査をしているとわかられることはダメよ。ラオルド殿下はお優しい方だから心配をかけたと気に病むわ」

「難儀なお方ですね」

「それがラオルド殿下の素晴らしいところの一つですもの」

「わかりました。ではメイドの雑談として情報を取らせます」

 ムーガは子爵令嬢であるサナを調査に派遣した。小一時間で戻ってきたサナからの報告をエーティルに伝える。

「そう。やはりお元気がないのね」

「はい。ですがラオルド殿下がお隠しになろうとなさっておいでなのでその意志に合わせているようです」

「何も言わずとも主の意思を慮ることができるのは優秀だわ。そんなメイドからよく聞き出せたわね」

「サナにはラオルド殿下に注意が必要な来客があったときに護衛メイドをさせておりますのでメイド仲間との情報共有として話したと思われます」

「まあ! 他の王子殿下にも?」

「はい。サナだけではありませんのでいつかエーティル様にそれらの者たちをご紹介することもあるかと思います」

「ふぅ。陛下はわたくしによくムーガをくれたものね」

「エーティル様のご価値かと」

「うふふ。褒め言葉として受けておくわ」

 ムーガはにこやかに頭を垂れた。

 そして、エーティルとラオルドとの定例茶会の日となりエーティルの執務室へラオルドを迎え入れた。

「こちらへ招いてくれるとは珍しいな。俺の伴侶になると決心でもしたのか?」

「それはわたくしが決めることではないことをよくご存知ではありませんか。ふふふ」

「君の希望なら父上は聞き届けてくれるかもしれないだろう?」

 二人は互いに冗談だとわかっているので穏やかな雰囲気である。

「まあ! では次回にお会いできましたときに甘えてみようかしら」

「是非その結果を教えてくれ」

 ラオルドがエーティルの誘いでソファに座ると二人のメイドを見て驚き他のメイドがいないのかとキョロキョロした。

「護衛騎士だけとはどういうことかな?」

 一転して険しい顔になる。

 エーティルの執務室には人払いがされ警備はムーガの部下だけになりメイドはサナとリタが務めていることにラオルドは訝しんだ。

「本日はラオルド殿下にお聞きしたいことがございましてこういう形にさせていただきましたの」

 エーティルは真剣な眼差しで見返した。


〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️

『またしても予想と違うぅ!』と思われましたらご感想やエールをいただけますと作者が『よっしゃあ!!』となり悶えます。

よろしくお願い致します
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...