24 / 62
24 第一王子元側近たち『『公爵家の指導は厳しいですぅ』』
しおりを挟む
エーティルは固まっているキリアを見てスッと立ち上がる。
『キリア殿下にも考えるお時間が必要よね』
「わたくしの戯言です。あまりお気に留めなくても問題ありません。
わたくしはそろそろ帰宅いたします。次回の参内は父上と相談して決めますのでご了承くださいませ」
エーティルはカーテシーをして俯くキリアの返事を待たずに退室した。
扉の外にはサナとリタとコークレルが待っておりコークレルはエーティルに頭を一つ下げると部屋へ戻り扉を閉めた。
エーティルはサナを前にリタを後ろにつかせて歩き出す。
「このヒントでキリア殿下がご理解いただけるといいのだけど」
「キリア殿下でしたら大丈夫かと思われます」
「そうね」
エーティルはそのまま馬車寄せへ行き公爵邸へ帰っていった。
それから一週間。とある公爵邸の図書室で執事長と思われる者が新人の執事のような格好をした男二人の指導をしていた。
「明日までにこれとこれを読破しなさい。これらには我が国の歴史と王族に纏わる決まり事が書かれています」
「ふぇぇ」「無理ですぅ」
「端から端まで読めとはいいませんよ」
「「いいのですかっ?」」
「ええ。王族に仕える者なら必ず学んでいるべきことですのでお二人でしたら斜め読みで十分でございましょう」
「はへ?」「ほへ?」
「明日の午後からこれらについて筆記試験を行います。九割の正解でなければ書き取りです」
「「ひゃあぁぁぁ」」
「エーティル様とブランジッド様は十歳で満点をお取りになりました」
ブランジッドはエーティルの五つ下の弟で次期公爵の予定であり現在十四歳である。今指導されている二人はラオルドの元側近ドリテンとソナハスであり、二人はラオルドより四つ年上の二十四歳だ。
この二人はこの先何十冊という本の書き取りを課せられることになっていく。
二人が初級文官試験にも不合格で武術もできないことは王城中に知れ渡ってしまった。ということは全貴族家に知れ渡ってしまった。
そのような状況で一年間王城で再教育をしたとしても王城勤務ができるとは思えないと心配したエーティルは二人を引き取ることにしたのだった。
公爵家当主と侯爵家当主は渋っていたが本人たちが周りの視線に耐えられずエーティルにお世話になることを決めた。
こうして二人がエーティルの公爵邸に到着した二日後、自警団演習場に変声期を迎えたばかりの可愛らしい男の子の声が響いていた。
「ねぇ? 君たちやる気ある? 演習場十周できない体力で王子殿下のお手伝いや視察の同行や鍛錬の付き合いができていたの?」
ブランジッドは腰に手を当てて仁王立ちで自分より余程背の高い二人を睨みつける。
「それは他の者が」
「他の者がって! なら君たちのお仕事は何? そうやって他人任せにするからここに来ることになったんでしょう? 側近を名乗るならそれくらいは他人任せにしないでこなそうよ」
「ですが……」
「言い訳はここでの鍛錬ができるようになってから姉様に言って。僕だって姉様の頼みじゃなかったら君たちのおもりなんてしたくないんだから」
できるようになってもエーティルに意見できるとは思えないドリテンとソナハスは暗鬱な気持ちになる。そんなものは無視してブランジッドは話を進める。
「僕より足が長い分演習場十周を僕より早く走れるはず。そのようになるまで毎朝走り込みね。
ベン。毎朝この人たちを起こしに行ってね」
「坊っちゃん。わかりました。でも今朝もなかなか起きなかったと隊のやつらから報告が来ていますよ」
ベンと呼ばれた自警団の団長は目尻を引き攣らせた。隊では二人の扱いがまだ浸透しておらず遠慮がある。
「水でもかければ起きるんじゃない? その日の夜は水布団で寝なきゃならなくなるけどね」
「「ひゃい?」」
「え? それともビンタで起こされたいの?」
片眉を上げながら聞くブランジッドに二人は泣き顔になってブンブンと横に首を振った。
「今、『何でこんなことになっちゃったんだ』って思ったでしょう?」
「「っ!」」
「君たち本当に他責思考だね」
「「はぁ??」」
「ねぇ? 本当に勉強してる?
他責思考! すべてを他人の責任にする人のこと。
君たちが勉強してないのは君たちの責任。
君たちが武術の基本もできていないのは君たちの責任。
君たちが起きられないのは君たちの責任。
君たちがここに居らされるのは君たちの責任なの。
君たちはずっとずっと自分以外のせいにしてきたんだね。
社会が厳しいせい。朝が早いせい。勉強が難しいせい」
二人はかなり年下のブランジットの言葉に気圧される。
「さっきも『他の者が』って言ったよね?
他の者がやらないせいじゃないよ。君たちが仕事に見合う努力をしなかったせいなの。
布団に水をかけられるのもビンタされるのも朝が早いからじゃないし、起こしに来る者がいるからじゃない。君たちが起きられないせいだから」
ブランジットは両手を腰に置いて見上げているし声も荒らげていないが迫力があり二人よりずっとずっと大人だった。
『キリア殿下にも考えるお時間が必要よね』
「わたくしの戯言です。あまりお気に留めなくても問題ありません。
わたくしはそろそろ帰宅いたします。次回の参内は父上と相談して決めますのでご了承くださいませ」
エーティルはカーテシーをして俯くキリアの返事を待たずに退室した。
扉の外にはサナとリタとコークレルが待っておりコークレルはエーティルに頭を一つ下げると部屋へ戻り扉を閉めた。
エーティルはサナを前にリタを後ろにつかせて歩き出す。
「このヒントでキリア殿下がご理解いただけるといいのだけど」
「キリア殿下でしたら大丈夫かと思われます」
「そうね」
エーティルはそのまま馬車寄せへ行き公爵邸へ帰っていった。
それから一週間。とある公爵邸の図書室で執事長と思われる者が新人の執事のような格好をした男二人の指導をしていた。
「明日までにこれとこれを読破しなさい。これらには我が国の歴史と王族に纏わる決まり事が書かれています」
「ふぇぇ」「無理ですぅ」
「端から端まで読めとはいいませんよ」
「「いいのですかっ?」」
「ええ。王族に仕える者なら必ず学んでいるべきことですのでお二人でしたら斜め読みで十分でございましょう」
「はへ?」「ほへ?」
「明日の午後からこれらについて筆記試験を行います。九割の正解でなければ書き取りです」
「「ひゃあぁぁぁ」」
「エーティル様とブランジッド様は十歳で満点をお取りになりました」
ブランジッドはエーティルの五つ下の弟で次期公爵の予定であり現在十四歳である。今指導されている二人はラオルドの元側近ドリテンとソナハスであり、二人はラオルドより四つ年上の二十四歳だ。
この二人はこの先何十冊という本の書き取りを課せられることになっていく。
二人が初級文官試験にも不合格で武術もできないことは王城中に知れ渡ってしまった。ということは全貴族家に知れ渡ってしまった。
そのような状況で一年間王城で再教育をしたとしても王城勤務ができるとは思えないと心配したエーティルは二人を引き取ることにしたのだった。
公爵家当主と侯爵家当主は渋っていたが本人たちが周りの視線に耐えられずエーティルにお世話になることを決めた。
こうして二人がエーティルの公爵邸に到着した二日後、自警団演習場に変声期を迎えたばかりの可愛らしい男の子の声が響いていた。
「ねぇ? 君たちやる気ある? 演習場十周できない体力で王子殿下のお手伝いや視察の同行や鍛錬の付き合いができていたの?」
ブランジッドは腰に手を当てて仁王立ちで自分より余程背の高い二人を睨みつける。
「それは他の者が」
「他の者がって! なら君たちのお仕事は何? そうやって他人任せにするからここに来ることになったんでしょう? 側近を名乗るならそれくらいは他人任せにしないでこなそうよ」
「ですが……」
「言い訳はここでの鍛錬ができるようになってから姉様に言って。僕だって姉様の頼みじゃなかったら君たちのおもりなんてしたくないんだから」
できるようになってもエーティルに意見できるとは思えないドリテンとソナハスは暗鬱な気持ちになる。そんなものは無視してブランジッドは話を進める。
「僕より足が長い分演習場十周を僕より早く走れるはず。そのようになるまで毎朝走り込みね。
ベン。毎朝この人たちを起こしに行ってね」
「坊っちゃん。わかりました。でも今朝もなかなか起きなかったと隊のやつらから報告が来ていますよ」
ベンと呼ばれた自警団の団長は目尻を引き攣らせた。隊では二人の扱いがまだ浸透しておらず遠慮がある。
「水でもかければ起きるんじゃない? その日の夜は水布団で寝なきゃならなくなるけどね」
「「ひゃい?」」
「え? それともビンタで起こされたいの?」
片眉を上げながら聞くブランジッドに二人は泣き顔になってブンブンと横に首を振った。
「今、『何でこんなことになっちゃったんだ』って思ったでしょう?」
「「っ!」」
「君たち本当に他責思考だね」
「「はぁ??」」
「ねぇ? 本当に勉強してる?
他責思考! すべてを他人の責任にする人のこと。
君たちが勉強してないのは君たちの責任。
君たちが武術の基本もできていないのは君たちの責任。
君たちが起きられないのは君たちの責任。
君たちがここに居らされるのは君たちの責任なの。
君たちはずっとずっと自分以外のせいにしてきたんだね。
社会が厳しいせい。朝が早いせい。勉強が難しいせい」
二人はかなり年下のブランジットの言葉に気圧される。
「さっきも『他の者が』って言ったよね?
他の者がやらないせいじゃないよ。君たちが仕事に見合う努力をしなかったせいなの。
布団に水をかけられるのもビンタされるのも朝が早いからじゃないし、起こしに来る者がいるからじゃない。君たちが起きられないせいだから」
ブランジットは両手を腰に置いて見上げているし声も荒らげていないが迫力があり二人よりずっとずっと大人だった。
85
お気に入りに追加
2,187
あなたにおすすめの小説

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
秋月一花
恋愛
公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。
彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。
その『誰か』とはマーセルという少女だ。
マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。
いつに間にか二人は入れ替わっていた!
空いている教室で互いのことを確認し合うことに。
「貴女、マーセルね?」
「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」
婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?
そしてなぜ二人が入れ替わったのか?
公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。
※いじめ描写有り

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる