【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
22 / 62

22 宰相「貴方たちの子息は筆記テストもダメなようです」

しおりを挟む
「まあ、武術の家庭教師も勉学の家庭教師もご本人ができるというのなら必要ないものなので家庭教師がいるかいないかで判断はできませんけど」

 宰相の言葉に当主たちはブンブンと首を縦に振った。再び手を挙げ宰相が発言を促す。

「第一王子殿下の側近は数名が首になっていますよね? 我が息子はそうならなかった。仕事ができるからではないのですか?」

「先程申したようにその首になったとされる者たちは殿下と共に名前のあった者たちですよ。彼らは採用試験を経て勤務しておりますので部署変更しただけで解雇はされておりません。
どうしてそちらの任を解いたのかは第一王子殿下からまだ何も聞いておりませんのでわかりかねます」

「我らの息子は第一王子殿下から信頼されているのでは?」

「そうですよっ! 事務能力や武力だけでなく第一王子殿下の信頼は我らの息子にあるということなのではないのですか?」

「だといいですね。それについては後程第一王子殿下にお聞きすることにいたしましょう」

 二人は『よしっ!』と互いに頷きあった。

「ですが、お二人はドリテンとソナハス両名の武術について自分より優秀な者が見ている、家庭教師が良いと言えば問題ないと発言しておりますが誰のことなのでしょうか?」

「それは……」
「誰……」

 喜びもつかの間。今度は自分の行動に指摘が入りしどろもどろになる。

「ああ。すみません。話が逸れましたな。それが誰であるかは関係ありませんでしたな。ホッホッホ」

 二人が肩を落としてホッとする。

「お二人が推薦人として採用者の武術を確認する義務を怠ったのですねということです」

 当主たちは顔を赤から青にした。上げられたり下げられたりと大変に忙しい。心臓が保てばよいが。

「えー、次に事務能力についてですが」

 文官の一人が後ろから宰相へ別の書類を渡す。宰相がそれを確認している間、場が静まった。

「これはこれは……」

 宰相が顔を上げる。

「王太子妃様になられることがお決まりであられるエーティル様のご指示でドリテンとソナハス両名に文官試験の筆記テストを受けさせその結果が出たようです」

 宰相はテストを見せるように前に出す。

「初級試験を不合格という結果になっておりますぞ」

 聴衆は一層ざわめき当主たちは膝から崩れ落ちた。心臓は保ったが膝は保たなかった。

「いくらご自身方のご三男ご次男とはいえこのような者を第一王子殿下の側近に推薦したとなると、国家を揺るがすつもりだったのですかな?
それとも第一王子殿下を傀儡にし裏で簒奪を企てておいでだったのですかな?」

 宰相は濃い眉の奥の瞳から睨みつけた。

「まさかっ! そのようなこと考えたこともありませんっ!」
「ないですっ! ないですっ!」

 当主たちは膝立ちで慌てて手を振り首を振り懸命に否定した。

『ゴンっ!』

 小槌の音で誰もが口を閉ざす。

「宰相。そこまででよい」

「はい」

 宰相は国王陛下の言ににっこりとして頷いた。

「二人共。ワシとてそなたたちが宰相の言うような企てをしていたとは思っておらん。
だが、推薦人という立場を利用し能力のない者を送り込んだことは事実だ。
これはこの二人だけに申しているのではない。推薦人が賄賂を受け取り採用させていることも知っている。推薦枠を売りその後も金銭授受している者もおると報告されている」

 数人の聴衆が青褪める。能力がない者たちからこそたくさんの賄賂を受け取れるので余計にそれが横行していた。

「ここに揃う者たちは推薦人または高位役職につきし者たちであるな。
心して聞け。本日をもって推薦人制度を廃止とする」

 国王陛下の厳かな声に誰もが息を呑んだ。

「そして、推薦雇用で勤務している三十歳以下の者たちは文官採用試験の筆記テストを行い能力に見合った役職にせよ。
武官は実技テストを行うように」

 これまでは推薦雇用者の方が断然昇進している。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

処理中です...