21 / 62
21 元家庭教師「夫人に解雇されました」
しおりを挟む
マイアスの顔を見ても何が起こっているのか理解しない当主たちはあ然としている。
「私は数年前までそちらの公爵閣下侯爵閣下の邸宅にてご子息方へ武術の家庭教師を務めておりました」
「「あ……」」
当主たちが呟いた。
「見覚えがありますか?」
宰相は問う。
「息子は二十四になりますので家庭教師もかなり前になりますが見覚えはあります……」
「その節はお世話になりました」
衛兵はわざとらしく頭を下げる。
「で、君の雇用期間は?」
「ご子息が十歳から十三歳までの三年ほどです」
「「はあ??」」
当主たちは疑問を口にしたが国王陛下に止められていたことが頭を過ぎり慌てて手で口を押さえた。
「ん? 何か疑問でも?」
「え!? あ、はい。まさか家庭教師が息子の成長途中で仕事を放棄しているとは知らず……」
公爵家当主が発言を許されたので急いで口を開く。
「放棄したのか?」
宰相は再び衛兵に向いた。
「いえ、それぞれのご夫人より解雇されました」
当主たちは口をあんぐり開けるが宰相は見ないふりで話を進めた。
「解雇理由は?」
「ご子息が怪我をすることが許せない、高位貴族家なのだから守られるから必要ないと。元々ご子息たちもやる気がなく週一回の訓練は理由をつけて休みがちでしたし体力作りに出した課題もやっておりませんでしたので、私としても家庭教師である意味を見出せませんでした。ですから解雇を受け入れました」
「そのような理由での解雇なら次の職への紹介状はもらったであろう? なぜ当主たちが君の解雇を知らぬのだ?」
解雇をしたのは夫人でも紹介状は高位貴族家当主の名で出すものである。
「私の不手際だからと言われ紹介状はいただけませんでした。解雇された翌年、王城の採用試験に通りまして現在は王城外衛兵として務めさせていただいおります」
不当な解雇理由に紹介状なしは高位貴族としてあるまじき行為であり聴衆はざわめいていて当主たちは顔を赤くしている。
公爵家当主がサッと手を挙げた。
「どうぞ」
「解雇理由についてはその者からの証言だけでは事実かどうかはわからないと思うのですがっ!」
当主たちは取り繕いに必死になる。
「それはそうですね。現在は衛兵として立派に務めているようですし、解雇理由と万が一の保証金賠償金についてはここでは保留にしましょう」
護衛であれメイドであれ料理人であれ高位貴族家から解雇する場合、理由によってはそれなりに生活の保証と紹介状を渡さなければならない決まりになっている。そうでなければ高位貴族による横柄な解雇が罷り通ってしまうからだ。
「君もそれでよいな。解雇理由について後日改めて聴取する」
そういう決まりがあっても実家のためにも高位貴族に睨まれたくないので使用人たちは不当解雇も泣き寝入りすることが多い。こうして取り上げてもらうことが奇跡である。
「はいっ!」
衛兵は満面の笑みで頷いたがなかったことにできなそうな当主たちは唖然とした。
『頼むぞっ! そんな解雇理由は嘘だと言ってくれよぉ』
心中で夫人に祈った。
「君の王城衛兵採用書類を見るとその年表で間違いはないようだ。
と、するとご子息たちには十三歳から武術の訓練はしていないということになりますな」
公爵家当主は急いで手を挙げた。
「ツツツ妻が他の家庭教師を採用していると思いますっ!」
宰相は別の書類に目を通す。
「ある使用人たちの証言で彼以降の武術の家庭教師は採用されていないそうですよ。
因みに、必要ないという理由で勉学の家庭教師も解雇されているようです」
「嘘だっ!」
「そんなはずはないっ!」
当主二人は思わず叫ぶ。
「なぜそう思うのですか?」
「息子に勉強はどうだと聞いたら楽しいと答えていたからですっ!」
「うちも家庭教師が来ると張り切っていました」
「ああ。なるほど。ダンスと社交と芸術の家庭教師は雇用していたようですよ」
宰相は当主たちを一瞥もせず書類をパラパラと捲りそれが書いてあろう部分を指でトントンと叩いた。
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
前半戦あと四話ほどの予定です。
よろしくお願い致します
「私は数年前までそちらの公爵閣下侯爵閣下の邸宅にてご子息方へ武術の家庭教師を務めておりました」
「「あ……」」
当主たちが呟いた。
「見覚えがありますか?」
宰相は問う。
「息子は二十四になりますので家庭教師もかなり前になりますが見覚えはあります……」
「その節はお世話になりました」
衛兵はわざとらしく頭を下げる。
「で、君の雇用期間は?」
「ご子息が十歳から十三歳までの三年ほどです」
「「はあ??」」
当主たちは疑問を口にしたが国王陛下に止められていたことが頭を過ぎり慌てて手で口を押さえた。
「ん? 何か疑問でも?」
「え!? あ、はい。まさか家庭教師が息子の成長途中で仕事を放棄しているとは知らず……」
公爵家当主が発言を許されたので急いで口を開く。
「放棄したのか?」
宰相は再び衛兵に向いた。
「いえ、それぞれのご夫人より解雇されました」
当主たちは口をあんぐり開けるが宰相は見ないふりで話を進めた。
「解雇理由は?」
「ご子息が怪我をすることが許せない、高位貴族家なのだから守られるから必要ないと。元々ご子息たちもやる気がなく週一回の訓練は理由をつけて休みがちでしたし体力作りに出した課題もやっておりませんでしたので、私としても家庭教師である意味を見出せませんでした。ですから解雇を受け入れました」
「そのような理由での解雇なら次の職への紹介状はもらったであろう? なぜ当主たちが君の解雇を知らぬのだ?」
解雇をしたのは夫人でも紹介状は高位貴族家当主の名で出すものである。
「私の不手際だからと言われ紹介状はいただけませんでした。解雇された翌年、王城の採用試験に通りまして現在は王城外衛兵として務めさせていただいおります」
不当な解雇理由に紹介状なしは高位貴族としてあるまじき行為であり聴衆はざわめいていて当主たちは顔を赤くしている。
公爵家当主がサッと手を挙げた。
「どうぞ」
「解雇理由についてはその者からの証言だけでは事実かどうかはわからないと思うのですがっ!」
当主たちは取り繕いに必死になる。
「それはそうですね。現在は衛兵として立派に務めているようですし、解雇理由と万が一の保証金賠償金についてはここでは保留にしましょう」
護衛であれメイドであれ料理人であれ高位貴族家から解雇する場合、理由によってはそれなりに生活の保証と紹介状を渡さなければならない決まりになっている。そうでなければ高位貴族による横柄な解雇が罷り通ってしまうからだ。
「君もそれでよいな。解雇理由について後日改めて聴取する」
そういう決まりがあっても実家のためにも高位貴族に睨まれたくないので使用人たちは不当解雇も泣き寝入りすることが多い。こうして取り上げてもらうことが奇跡である。
「はいっ!」
衛兵は満面の笑みで頷いたがなかったことにできなそうな当主たちは唖然とした。
『頼むぞっ! そんな解雇理由は嘘だと言ってくれよぉ』
心中で夫人に祈った。
「君の王城衛兵採用書類を見るとその年表で間違いはないようだ。
と、するとご子息たちには十三歳から武術の訓練はしていないということになりますな」
公爵家当主は急いで手を挙げた。
「ツツツ妻が他の家庭教師を採用していると思いますっ!」
宰相は別の書類に目を通す。
「ある使用人たちの証言で彼以降の武術の家庭教師は採用されていないそうですよ。
因みに、必要ないという理由で勉学の家庭教師も解雇されているようです」
「嘘だっ!」
「そんなはずはないっ!」
当主二人は思わず叫ぶ。
「なぜそう思うのですか?」
「息子に勉強はどうだと聞いたら楽しいと答えていたからですっ!」
「うちも家庭教師が来ると張り切っていました」
「ああ。なるほど。ダンスと社交と芸術の家庭教師は雇用していたようですよ」
宰相は当主たちを一瞥もせず書類をパラパラと捲りそれが書いてあろう部分を指でトントンと叩いた。
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
前半戦あと四話ほどの予定です。
よろしくお願い致します
73
お気に入りに追加
2,186
あなたにおすすめの小説

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」
ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる
婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。
それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。
グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。
将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。
しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。
婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。
一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。
一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。
「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
※誤字脱字、名前間違い、よくやらかします。ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))9万字弱です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる