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21 元家庭教師「夫人に解雇されました」
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マイアスの顔を見ても何が起こっているのか理解しない当主たちはあ然としている。
「私は数年前までそちらの公爵閣下侯爵閣下の邸宅にてご子息方へ武術の家庭教師を務めておりました」
「「あ……」」
当主たちが呟いた。
「見覚えがありますか?」
宰相は問う。
「息子は二十四になりますので家庭教師もかなり前になりますが見覚えはあります……」
「その節はお世話になりました」
衛兵はわざとらしく頭を下げる。
「で、君の雇用期間は?」
「ご子息が十歳から十三歳までの三年ほどです」
「「はあ??」」
当主たちは疑問を口にしたが国王陛下に止められていたことが頭を過ぎり慌てて手で口を押さえた。
「ん? 何か疑問でも?」
「え!? あ、はい。まさか家庭教師が息子の成長途中で仕事を放棄しているとは知らず……」
公爵家当主が発言を許されたので急いで口を開く。
「放棄したのか?」
宰相は再び衛兵に向いた。
「いえ、それぞれのご夫人より解雇されました」
当主たちは口をあんぐり開けるが宰相は見ないふりで話を進めた。
「解雇理由は?」
「ご子息が怪我をすることが許せない、高位貴族家なのだから守られるから必要ないと。元々ご子息たちもやる気がなく週一回の訓練は理由をつけて休みがちでしたし体力作りに出した課題もやっておりませんでしたので、私としても家庭教師である意味を見出せませんでした。ですから解雇を受け入れました」
「そのような理由での解雇なら次の職への紹介状はもらったであろう? なぜ当主たちが君の解雇を知らぬのだ?」
解雇をしたのは夫人でも紹介状は高位貴族家当主の名で出すものである。
「私の不手際だからと言われ紹介状はいただけませんでした。解雇された翌年、王城の採用試験に通りまして現在は王城外衛兵として務めさせていただいおります」
不当な解雇理由に紹介状なしは高位貴族としてあるまじき行為であり聴衆はざわめいていて当主たちは顔を赤くしている。
公爵家当主がサッと手を挙げた。
「どうぞ」
「解雇理由についてはその者からの証言だけでは事実かどうかはわからないと思うのですがっ!」
当主たちは取り繕いに必死になる。
「それはそうですね。現在は衛兵として立派に務めているようですし、解雇理由と万が一の保証金賠償金についてはここでは保留にしましょう」
護衛であれメイドであれ料理人であれ高位貴族家から解雇する場合、理由によってはそれなりに生活の保証と紹介状を渡さなければならない決まりになっている。そうでなければ高位貴族による横柄な解雇が罷り通ってしまうからだ。
「君もそれでよいな。解雇理由について後日改めて聴取する」
そういう決まりがあっても実家のためにも高位貴族に睨まれたくないので使用人たちは不当解雇も泣き寝入りすることが多い。こうして取り上げてもらうことが奇跡である。
「はいっ!」
衛兵は満面の笑みで頷いたがなかったことにできなそうな当主たちは唖然とした。
『頼むぞっ! そんな解雇理由は嘘だと言ってくれよぉ』
心中で夫人に祈った。
「君の王城衛兵採用書類を見るとその年表で間違いはないようだ。
と、するとご子息たちには十三歳から武術の訓練はしていないということになりますな」
公爵家当主は急いで手を挙げた。
「ツツツ妻が他の家庭教師を採用していると思いますっ!」
宰相は別の書類に目を通す。
「ある使用人たちの証言で彼以降の武術の家庭教師は採用されていないそうですよ。
因みに、必要ないという理由で勉学の家庭教師も解雇されているようです」
「嘘だっ!」
「そんなはずはないっ!」
当主二人は思わず叫ぶ。
「なぜそう思うのですか?」
「息子に勉強はどうだと聞いたら楽しいと答えていたからですっ!」
「うちも家庭教師が来ると張り切っていました」
「ああ。なるほど。ダンスと社交と芸術の家庭教師は雇用していたようですよ」
宰相は当主たちを一瞥もせず書類をパラパラと捲りそれが書いてあろう部分を指でトントンと叩いた。
〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️
前半戦あと四話ほどの予定です。
よろしくお願い致します
「私は数年前までそちらの公爵閣下侯爵閣下の邸宅にてご子息方へ武術の家庭教師を務めておりました」
「「あ……」」
当主たちが呟いた。
「見覚えがありますか?」
宰相は問う。
「息子は二十四になりますので家庭教師もかなり前になりますが見覚えはあります……」
「その節はお世話になりました」
衛兵はわざとらしく頭を下げる。
「で、君の雇用期間は?」
「ご子息が十歳から十三歳までの三年ほどです」
「「はあ??」」
当主たちは疑問を口にしたが国王陛下に止められていたことが頭を過ぎり慌てて手で口を押さえた。
「ん? 何か疑問でも?」
「え!? あ、はい。まさか家庭教師が息子の成長途中で仕事を放棄しているとは知らず……」
公爵家当主が発言を許されたので急いで口を開く。
「放棄したのか?」
宰相は再び衛兵に向いた。
「いえ、それぞれのご夫人より解雇されました」
当主たちは口をあんぐり開けるが宰相は見ないふりで話を進めた。
「解雇理由は?」
「ご子息が怪我をすることが許せない、高位貴族家なのだから守られるから必要ないと。元々ご子息たちもやる気がなく週一回の訓練は理由をつけて休みがちでしたし体力作りに出した課題もやっておりませんでしたので、私としても家庭教師である意味を見出せませんでした。ですから解雇を受け入れました」
「そのような理由での解雇なら次の職への紹介状はもらったであろう? なぜ当主たちが君の解雇を知らぬのだ?」
解雇をしたのは夫人でも紹介状は高位貴族家当主の名で出すものである。
「私の不手際だからと言われ紹介状はいただけませんでした。解雇された翌年、王城の採用試験に通りまして現在は王城外衛兵として務めさせていただいおります」
不当な解雇理由に紹介状なしは高位貴族としてあるまじき行為であり聴衆はざわめいていて当主たちは顔を赤くしている。
公爵家当主がサッと手を挙げた。
「どうぞ」
「解雇理由についてはその者からの証言だけでは事実かどうかはわからないと思うのですがっ!」
当主たちは取り繕いに必死になる。
「それはそうですね。現在は衛兵として立派に務めているようですし、解雇理由と万が一の保証金賠償金についてはここでは保留にしましょう」
護衛であれメイドであれ料理人であれ高位貴族家から解雇する場合、理由によってはそれなりに生活の保証と紹介状を渡さなければならない決まりになっている。そうでなければ高位貴族による横柄な解雇が罷り通ってしまうからだ。
「君もそれでよいな。解雇理由について後日改めて聴取する」
そういう決まりがあっても実家のためにも高位貴族に睨まれたくないので使用人たちは不当解雇も泣き寝入りすることが多い。こうして取り上げてもらうことが奇跡である。
「はいっ!」
衛兵は満面の笑みで頷いたがなかったことにできなそうな当主たちは唖然とした。
『頼むぞっ! そんな解雇理由は嘘だと言ってくれよぉ』
心中で夫人に祈った。
「君の王城衛兵採用書類を見るとその年表で間違いはないようだ。
と、するとご子息たちには十三歳から武術の訓練はしていないということになりますな」
公爵家当主は急いで手を挙げた。
「ツツツ妻が他の家庭教師を採用していると思いますっ!」
宰相は別の書類に目を通す。
「ある使用人たちの証言で彼以降の武術の家庭教師は採用されていないそうですよ。
因みに、必要ないという理由で勉学の家庭教師も解雇されているようです」
「嘘だっ!」
「そんなはずはないっ!」
当主二人は思わず叫ぶ。
「なぜそう思うのですか?」
「息子に勉強はどうだと聞いたら楽しいと答えていたからですっ!」
「うちも家庭教師が来ると張り切っていました」
「ああ。なるほど。ダンスと社交と芸術の家庭教師は雇用していたようですよ」
宰相は当主たちを一瞥もせず書類をパラパラと捲りそれが書いてあろう部分を指でトントンと叩いた。
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前半戦あと四話ほどの予定です。
よろしくお願い致します
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