9 / 62
9 女性騎士「「もちろん殺りますよ」」
しおりを挟む
「だ、そうだがどうする?」
キリアはサナとリタの方は向かずに尋ねる。
「「もちろん殺りますよ」」
言うが早いか二人のメイドは三飛びで被告人席があった辺りへ着いた。
「サナ。リタ。ほどほどに、よ」
「「かしこまりました」」
エーティルがため息とともに二人のメイドに声をかける。
「ケイル、ヨハン。相手をしろ」
隊長がため息とともに指名した。
「いやっ! ちょっと待ってくださいよ! なんで俺たちなんですか?」
「こんなん無理ですよっ! 『殺る』の気合が半端ないしっ! 模擬戦ってわかってますか?」
「私達はいつでも殺る気満々だもん」
リタがニヤリと笑った。
普通の男なら「やる気」と聞こえるので膝丈スカートに黒のハイソックスのメイドに言われたら鼻血を出しそうなセリフだが必死で『やる』を回避しようとしているケイルとヨハンには「殺る」と通じている。
「「隊長!!!」」
半泣きで訴えるケイルとヨハン。
「殿下方の御前だぞ」
「かまわん。その者たちも怪我などしたくはないだろう。しばらくは言葉も無礼講としよう」
二人はペコリとキリアに頭を下げると隊長の元へ行く。
「怪我をさせるわけにはいかないだろうがっ!」
隊長の言う説得理由をそうだろうなとはわかっていた二人。
「せめてっ! せめて甲冑は脱がせてください」
「え? そんなのズルい」
「僕たちには防御の甲冑を着ていたじゃないですかっ!」
他の隊員に襟首を掴まれて端へと片付けられていたドリテンとソナハスが叫ぶ。
『女性には手を抜くのか? 女性には怪我をさせるわけにはいかないのか?』
ドリテンとソナハスは大変に勘違い甚だしい。
「お前ら本当にバカだなっ!」
「甲冑なんてもんは剣や槍や弓を相手にするから防御に役立つ物なんだよっ!
こんな重い物、体術には邪魔でしょうがないだろうがっ!」
「だって、僕たちには使ったではないですかっ!」
「あの方方はお前らの数十倍いや数百倍お強いんだ! お前らごときに脱ぐ必要もなかったんだ! なんなら脱いで再戦か? 今度は手加減しないぞっ!」
「そうだな。背負って投げるだけではなく腹に一発決めてやるっ」
「「ひっ!!」」
側近たちはケイルとヨハンの先程までと違う表情に膝を抱えて小さくなった。確かに先程はキレイに背中から床に投げられたし、投げたケイルとヨハンが側近たちの腕を持って衝撃も和らげていた。
「チッ! 手加減されたことも気が付かないのかよっ」
近衛兵は貴族家の次男以下である。ケイルとヨハンの家も子爵家の者なので本来公爵家侯爵家子息の側近二人にこのような口で話すことは憚られることだがキリアから「無礼講」の許可が出ているので遠慮なく暴言を吐く。
「脱げばどうにかできると思うなら脱げばいいじゃないの」
サナがわざとらしい優しい口調で笑顔だった。
「どうせなら私達が着ようか?」
リタは意地悪そうにニタリと笑った。
「それいいわねぇ」
「「あはははは」」
苦虫を噛み潰したような顔をしたケイルとヨハンだが身のためには小さなプライドなど意味はないのが騎士である。
「では遠慮なく」
二人は甲冑を脱いで丁寧に壁際に置いた。体術には必要ないというだけで実践で剣や槍を主に使う騎士にとって必要不可欠な物なので大事に扱う。
ケイルとヨハンは甲冑を置きながら相談する。
「お前。ねぇさんたちに一蹴りでも入れることができたことある?」
「あるわけないだろう! ケイルは?」
「俺もない。そもそもねぇさんたちにはあまり稽古つけてもらわないし」
「だよな。にぃさんたちが止めるもんな」
「「『あいつら悪ふざけが過ぎるから危ない』って」」
二人は首をガクリと落とす。
「「…………はぁ」」
「隊長もこれまで止めてくれていたのにこのタイミングだもんなぁ」
「殿下命令だから断われないのだろう」
二人は後ろに首を動かした。サナとリタの奥にカティド第三師団第二部隊隊長が憂いを帯びた笑みをしている。
「負けても懲罰王城マラソンは無さそうだな」
二人は再びため息を零す。
『ガシッ!』
二人の間に顔を出した近衛兵が二人の肩に手を乗せた。
「もし勝ったら俺の役職を譲ってやる」
「「本当ですかっ!?」」
この近衛兵は小隊副長である。
「負けても骨は拾ってやるから安心しろ」
二人は副長の手を払って睨みつけた。普段からおちゃらける副長なのでそのような態度をしても怒ることはない。
「鍛錬だと思って思いっきりやってこいっ!」
「「はいっ!」」
二人は立ち上がって位置についた。
リタが手を前に出してクイックイッと指を持ち上げ『来い来い』と煽りサナがそれを面白そうに笑うがケイルとヨハンはサナとリタよりは多少体格はいい。
「三分間攻撃だけさせてあげる。三分以内に私達の後ろにある副裁判長の机に触れてみなさいな。あ、貴方たちを行かせないための攻撃は許してね」
サナが親切な提案をする。
キリアはサナとリタの方は向かずに尋ねる。
「「もちろん殺りますよ」」
言うが早いか二人のメイドは三飛びで被告人席があった辺りへ着いた。
「サナ。リタ。ほどほどに、よ」
「「かしこまりました」」
エーティルがため息とともに二人のメイドに声をかける。
「ケイル、ヨハン。相手をしろ」
隊長がため息とともに指名した。
「いやっ! ちょっと待ってくださいよ! なんで俺たちなんですか?」
「こんなん無理ですよっ! 『殺る』の気合が半端ないしっ! 模擬戦ってわかってますか?」
「私達はいつでも殺る気満々だもん」
リタがニヤリと笑った。
普通の男なら「やる気」と聞こえるので膝丈スカートに黒のハイソックスのメイドに言われたら鼻血を出しそうなセリフだが必死で『やる』を回避しようとしているケイルとヨハンには「殺る」と通じている。
「「隊長!!!」」
半泣きで訴えるケイルとヨハン。
「殿下方の御前だぞ」
「かまわん。その者たちも怪我などしたくはないだろう。しばらくは言葉も無礼講としよう」
二人はペコリとキリアに頭を下げると隊長の元へ行く。
「怪我をさせるわけにはいかないだろうがっ!」
隊長の言う説得理由をそうだろうなとはわかっていた二人。
「せめてっ! せめて甲冑は脱がせてください」
「え? そんなのズルい」
「僕たちには防御の甲冑を着ていたじゃないですかっ!」
他の隊員に襟首を掴まれて端へと片付けられていたドリテンとソナハスが叫ぶ。
『女性には手を抜くのか? 女性には怪我をさせるわけにはいかないのか?』
ドリテンとソナハスは大変に勘違い甚だしい。
「お前ら本当にバカだなっ!」
「甲冑なんてもんは剣や槍や弓を相手にするから防御に役立つ物なんだよっ!
こんな重い物、体術には邪魔でしょうがないだろうがっ!」
「だって、僕たちには使ったではないですかっ!」
「あの方方はお前らの数十倍いや数百倍お強いんだ! お前らごときに脱ぐ必要もなかったんだ! なんなら脱いで再戦か? 今度は手加減しないぞっ!」
「そうだな。背負って投げるだけではなく腹に一発決めてやるっ」
「「ひっ!!」」
側近たちはケイルとヨハンの先程までと違う表情に膝を抱えて小さくなった。確かに先程はキレイに背中から床に投げられたし、投げたケイルとヨハンが側近たちの腕を持って衝撃も和らげていた。
「チッ! 手加減されたことも気が付かないのかよっ」
近衛兵は貴族家の次男以下である。ケイルとヨハンの家も子爵家の者なので本来公爵家侯爵家子息の側近二人にこのような口で話すことは憚られることだがキリアから「無礼講」の許可が出ているので遠慮なく暴言を吐く。
「脱げばどうにかできると思うなら脱げばいいじゃないの」
サナがわざとらしい優しい口調で笑顔だった。
「どうせなら私達が着ようか?」
リタは意地悪そうにニタリと笑った。
「それいいわねぇ」
「「あはははは」」
苦虫を噛み潰したような顔をしたケイルとヨハンだが身のためには小さなプライドなど意味はないのが騎士である。
「では遠慮なく」
二人は甲冑を脱いで丁寧に壁際に置いた。体術には必要ないというだけで実践で剣や槍を主に使う騎士にとって必要不可欠な物なので大事に扱う。
ケイルとヨハンは甲冑を置きながら相談する。
「お前。ねぇさんたちに一蹴りでも入れることができたことある?」
「あるわけないだろう! ケイルは?」
「俺もない。そもそもねぇさんたちにはあまり稽古つけてもらわないし」
「だよな。にぃさんたちが止めるもんな」
「「『あいつら悪ふざけが過ぎるから危ない』って」」
二人は首をガクリと落とす。
「「…………はぁ」」
「隊長もこれまで止めてくれていたのにこのタイミングだもんなぁ」
「殿下命令だから断われないのだろう」
二人は後ろに首を動かした。サナとリタの奥にカティド第三師団第二部隊隊長が憂いを帯びた笑みをしている。
「負けても懲罰王城マラソンは無さそうだな」
二人は再びため息を零す。
『ガシッ!』
二人の間に顔を出した近衛兵が二人の肩に手を乗せた。
「もし勝ったら俺の役職を譲ってやる」
「「本当ですかっ!?」」
この近衛兵は小隊副長である。
「負けても骨は拾ってやるから安心しろ」
二人は副長の手を払って睨みつけた。普段からおちゃらける副長なのでそのような態度をしても怒ることはない。
「鍛錬だと思って思いっきりやってこいっ!」
「「はいっ!」」
二人は立ち上がって位置についた。
リタが手を前に出してクイックイッと指を持ち上げ『来い来い』と煽りサナがそれを面白そうに笑うがケイルとヨハンはサナとリタよりは多少体格はいい。
「三分間攻撃だけさせてあげる。三分以内に私達の後ろにある副裁判長の机に触れてみなさいな。あ、貴方たちを行かせないための攻撃は許してね」
サナが親切な提案をする。
104
お気に入りに追加
2,186
あなたにおすすめの小説

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」
ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる
婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。
それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。
グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。
将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。
しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。
婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。
一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。
一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。
「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる