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8 ピンクさん「ウーウーウー」
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「という訴えだが。近衛よ。どうだったのだ?」
ラオルドの隣にいた近衛隊長と思われる者が一人の兵士に目線を向け顎で指示を出し、その兵士が一歩前へ出た。
「私は食堂前扉の護衛任務をしております。
先程の経緯をご報告させていただきますっ!」
大変に騎士らしいハキハキとした通る声が響く。
「ラオルド第一王子殿下が執務室のある中棟へ繋がる扉から食堂へいらっしゃいました時にそちらのご令嬢がエーティル様を追い抜きラオルド第一王子殿下へ縋り付きに走ってまいりました。
その際、メイドのお一人がご令嬢とエーティル様の間にいつもいるように動き、もうお一人が側近の方々の方を向きエーティル様をお背中でお守りする体制になっておりました」
「「え?」」
護衛の動きを理解していない側近二人が啞然とする。
「お前たち……側近にも関わらず護衛騎士たちの動きも理解していないのか?」
キリアから呆れのため息が漏れた。
「そもそも側近は半年間の近衛団勤務をして護衛について学ぶのではないのか? 第三師団第二部隊長カティド答えよ」
キリアはラオルドの隣に座る者に細めた目を向ける。
「はっ!」
キレのいい返事とともにビシッと立ち上がる男はやはり隊長であったようだ。
「こちらのお二人は護衛訓練は必要なしとの旨の連絡がご実家より入ったと聞いておりますっ!」
「実家? つまり公爵家と侯爵家からということか? 連絡の内容は?」
ドリテンは公爵家三男、ソナハスは侯爵家次男である。
「それぞれ家庭で護衛について学んでいるので訓練をせずとも第一王子殿下の側近になるに問題ないとのご連絡です」
「ほぉ。それは面白い連絡だ。
カティド。ここで模擬戦をやってみよ。側近は体を張った護衛であるべきだな。剣術ではなく体術でよかろう」
「はっ!
第三師団第二部隊員ケイル、第三師団第二部隊員ヨハン。
二人は前へ」
「「はっ!」」
側近たちをここまで連れてきた近衛らしい薄手の甲冑を身に着けた二人が一歩前に出るが明らかに近衛兵の中では若く体が小さいし少年というに値する。
他の者たちの素早い動きで椅子やらテーブルやらが片付けられた。
その片付けの中にはウェルシェも含まれていた。ウェルシェは口にタオルを噛まされて後手を縛られ足を縛られ部屋の隅に芋虫のごとく転がされている。ずっとウーウーと喚いているのだから生命力溢れた芋虫だ。
男爵令嬢が公爵令嬢に直談判しただけでなく第二王子殿下にため口となれば近衛兵が動いていて当然である。
「このスペースがあれば二組ともできよう。
用意せよ」
「「はっ!」」
隊長の命令でケイルはドリテンの、ヨハンはソナハスの相手をすることになった。それぞれ一人ずつ相手の肘をもって移動させているがドリテンとソナハスの方がケイルとヨハンより余程よい体格をしている。
二組は充分に間を開ける場所へ移動してドリテンとソナハスをほどよい場所へ立たせてからケイルとヨハンは対戦によい間合いの場所へ移った。
ケイルとヨハンと向き合ったドリテンとソナハスはガタガタと震えているがキリア第二王子殿下からの命令とあれば拒否はできない。
「では始めっ!」
「「やあ!」」
「ぐえっ!」「ごふっ!」
一秒で決着がついた。側近二人は簡単に投げられてしまったのだ。これにはここまで静観していたラオルドも口をパカンと開けた。
この者たちと視察に行くこともあったがこれまでは大した相手も現れなかった。しかし万が一があればこの者たちに命を預けていたのだ。恐ろしいにもほどがある。
「その体たらくで側近を名乗っていたのか?」
上半身だけ起き上がり腰を擦りながら涙目の側近は言い募る。
「だってだって。屈強な護衛が付くではありませんか。我々が強い必要などないではないですか」
ドリテンの言葉に室内の殺気が増す。
「第三師団第二部隊長カティド。説明せよ」
キリアに促されたカティドは再び立ち上がる。
「確かに護衛は付きますが万が一ということもあります。その際には側近の方々は体を張って殿下の逃走時間を稼ぐのです。
お二人は一秒も稼げておりません。ラオルド第一王子殿下は犯人に捕まると推測できます」
「でもっ! それならメイドを傍に付けて護衛を付けていないエーティル様はどうなのですかっ!?」
ソナハスは踏み板を踏み抜くことが得意なようだ。
メイド二人がニタッとしたことに気がついたのはムーガと本日の近衛兵をしている第三師団第二部隊の面々である。ムーガはため息を吐き近衛兵たちはブルリと震えた。
『先程、キリア殿下が護衛騎士の動きだと説明していたはずだわ。なぜ理解できないのかしら?』
エーティルは驚きのあまり動きを止めていた。
ラオルドの隣にいた近衛隊長と思われる者が一人の兵士に目線を向け顎で指示を出し、その兵士が一歩前へ出た。
「私は食堂前扉の護衛任務をしております。
先程の経緯をご報告させていただきますっ!」
大変に騎士らしいハキハキとした通る声が響く。
「ラオルド第一王子殿下が執務室のある中棟へ繋がる扉から食堂へいらっしゃいました時にそちらのご令嬢がエーティル様を追い抜きラオルド第一王子殿下へ縋り付きに走ってまいりました。
その際、メイドのお一人がご令嬢とエーティル様の間にいつもいるように動き、もうお一人が側近の方々の方を向きエーティル様をお背中でお守りする体制になっておりました」
「「え?」」
護衛の動きを理解していない側近二人が啞然とする。
「お前たち……側近にも関わらず護衛騎士たちの動きも理解していないのか?」
キリアから呆れのため息が漏れた。
「そもそも側近は半年間の近衛団勤務をして護衛について学ぶのではないのか? 第三師団第二部隊長カティド答えよ」
キリアはラオルドの隣に座る者に細めた目を向ける。
「はっ!」
キレのいい返事とともにビシッと立ち上がる男はやはり隊長であったようだ。
「こちらのお二人は護衛訓練は必要なしとの旨の連絡がご実家より入ったと聞いておりますっ!」
「実家? つまり公爵家と侯爵家からということか? 連絡の内容は?」
ドリテンは公爵家三男、ソナハスは侯爵家次男である。
「それぞれ家庭で護衛について学んでいるので訓練をせずとも第一王子殿下の側近になるに問題ないとのご連絡です」
「ほぉ。それは面白い連絡だ。
カティド。ここで模擬戦をやってみよ。側近は体を張った護衛であるべきだな。剣術ではなく体術でよかろう」
「はっ!
第三師団第二部隊員ケイル、第三師団第二部隊員ヨハン。
二人は前へ」
「「はっ!」」
側近たちをここまで連れてきた近衛らしい薄手の甲冑を身に着けた二人が一歩前に出るが明らかに近衛兵の中では若く体が小さいし少年というに値する。
他の者たちの素早い動きで椅子やらテーブルやらが片付けられた。
その片付けの中にはウェルシェも含まれていた。ウェルシェは口にタオルを噛まされて後手を縛られ足を縛られ部屋の隅に芋虫のごとく転がされている。ずっとウーウーと喚いているのだから生命力溢れた芋虫だ。
男爵令嬢が公爵令嬢に直談判しただけでなく第二王子殿下にため口となれば近衛兵が動いていて当然である。
「このスペースがあれば二組ともできよう。
用意せよ」
「「はっ!」」
隊長の命令でケイルはドリテンの、ヨハンはソナハスの相手をすることになった。それぞれ一人ずつ相手の肘をもって移動させているがドリテンとソナハスの方がケイルとヨハンより余程よい体格をしている。
二組は充分に間を開ける場所へ移動してドリテンとソナハスをほどよい場所へ立たせてからケイルとヨハンは対戦によい間合いの場所へ移った。
ケイルとヨハンと向き合ったドリテンとソナハスはガタガタと震えているがキリア第二王子殿下からの命令とあれば拒否はできない。
「では始めっ!」
「「やあ!」」
「ぐえっ!」「ごふっ!」
一秒で決着がついた。側近二人は簡単に投げられてしまったのだ。これにはここまで静観していたラオルドも口をパカンと開けた。
この者たちと視察に行くこともあったがこれまでは大した相手も現れなかった。しかし万が一があればこの者たちに命を預けていたのだ。恐ろしいにもほどがある。
「その体たらくで側近を名乗っていたのか?」
上半身だけ起き上がり腰を擦りながら涙目の側近は言い募る。
「だってだって。屈強な護衛が付くではありませんか。我々が強い必要などないではないですか」
ドリテンの言葉に室内の殺気が増す。
「第三師団第二部隊長カティド。説明せよ」
キリアに促されたカティドは再び立ち上がる。
「確かに護衛は付きますが万が一ということもあります。その際には側近の方々は体を張って殿下の逃走時間を稼ぐのです。
お二人は一秒も稼げておりません。ラオルド第一王子殿下は犯人に捕まると推測できます」
「でもっ! それならメイドを傍に付けて護衛を付けていないエーティル様はどうなのですかっ!?」
ソナハスは踏み板を踏み抜くことが得意なようだ。
メイド二人がニタッとしたことに気がついたのはムーガと本日の近衛兵をしている第三師団第二部隊の面々である。ムーガはため息を吐き近衛兵たちはブルリと震えた。
『先程、キリア殿下が護衛騎士の動きだと説明していたはずだわ。なぜ理解できないのかしら?』
エーティルは驚きのあまり動きを止めていた。
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