6 / 62
6 第二王子「公爵令嬢は王太子妃になられる方だ」
しおりを挟む
第三裁判室へ入ると裁判官が座る席には黄金の髪に新緑眼の美青年が座っていた。ラオルドに似た雰囲気ではあるがラオルドよりかなり細めな体躯である。
「キリア! なぜお前がそこにいる!?」
ラオルドが声を荒らげ一歩近寄ろうとするがラオルドの隣にいる近衛兵が腕一本で押さえる。
「第一王子殿下はそちらの席へ。エーティル嬢はこちらにお座りください」
キリアは第二王子である。普段はラオルドを『兄上』と呼ぶが今日は公的な敬称で呼んだ。
ラオルドには被告の弁護人が座る席を指示し、エーティルを自分の隣に呼ぶ。近衛兵は押すようにしてラオルドを弁護人席へ連れて行った。
側近の青年たちとウェルシェは被告人席へ座らされた。
「国王陛下はエーティル嬢のお父上である公爵閣下と対談中ですので代理で私が参りました」
公爵に捕まったとあれば無理は通せない。無理を通すと公爵がここへ直々に来ることになりかねないしそうなると弁明の余地もないことは明白だ。ラオルドは国王陛下が同席していないことに納得するしかなかった。
エーティルが座るとムーガとメイドは後ろに控える。キリアとエーティルが座る段より一段下の裁判官席には十人もの裁判官が座っている。
キリアが話を始めた。
「第一王子殿下は王太子権に関する決まりに法りその権利を放棄したとみなされました。
今後のお立場といたしまして騎士団所属か王城総務部所属かを選べます。一週間後にお聞きしますのでそれまでに決断してください」
「どうしてラオルド様がそんなところへ行くのよっ!
王太子の勉強でも騎士団はないでしょっ!」
被告人席から立ち上がったウェルシェが叫ぶ。近衛兵が動こうとするがキリアがそれを止めた。
キリアは隣に座るエーティルに声をかけた。
「どうしてこういう状況になったのか調査の一環としてかの者たちに発言を許します。エーティル嬢には不快なお気持ちにさせてしまうかもしれませんがご了承ください」
「ええ。大丈夫ですわ。わたくしも知りたいですもの」
キリアが首肯し前を向き直す。
「第一王子殿下」
キリアに呼ばれたラオルドは返事もしない。顔を歪めて目を瞑っている。
キリアは聞こえているとみなして話を進める。
「侍らせていた者に王太子権に関する決まりを説明していないのですか?」
「いえっ! いたしましたっ!」
ラオルドの代わりにウェルシェの隣に座る側近の一人ドリテンが答えた。もう一人ソナハスも思っきり頭を上下に振り仲間に賛同している。
「何!? 何のこと?」
ウェルシェは叫んだ側近を睨む。もうすでにエーティルに詰め寄った時の儚げな少女はここにいない。
「何度も言ったではないかっ! エーティル様が王太子妃になられるのだと。お前がエーティル様を差し置いて王太子妃になるなど誰も考えていない」
ドリテンとウェルシェが喧嘩腰に話をしていく。
「そんなのあんたが決めつけないでよっ! ラオルド様が私を選んでくれるに決まっているでしょう!」
「だからそれがありえないと説明しただろう?!」
『ダンダン』
キリアたちの一段下に座る副裁判長と思わしき裁判官たちの真ん中に座る男が小槌を叩いた。
「勝手な言動はお控えください」
ウェルシェは口をとがらせて側近と別の方を向いた。
「そこの者。よく聞け。ともかく大切なことはエーティル嬢と婚姻する者が王太子になるということだ」
キリアがゆっくりとした物言いで説明する。
「わかっているわよっ! だからエーティルとラオルド様は婚約しているんでしょう!?」
ウェルシェがエーティルを呼び捨てにしてメイド二人が殺気立つ。エーティルはそれらを後ろに手を翳して抑えた。メイドたちは目を伏せて御意を表したが殺気は消えきっていない。
キリアは今はエーティルが呼び捨てにされたということよりウェルシェがどのように理解し側近たちがどのようにフォローしてきたのかを知りたいためにメイドたちを黙らせた。
「キリア! なぜお前がそこにいる!?」
ラオルドが声を荒らげ一歩近寄ろうとするがラオルドの隣にいる近衛兵が腕一本で押さえる。
「第一王子殿下はそちらの席へ。エーティル嬢はこちらにお座りください」
キリアは第二王子である。普段はラオルドを『兄上』と呼ぶが今日は公的な敬称で呼んだ。
ラオルドには被告の弁護人が座る席を指示し、エーティルを自分の隣に呼ぶ。近衛兵は押すようにしてラオルドを弁護人席へ連れて行った。
側近の青年たちとウェルシェは被告人席へ座らされた。
「国王陛下はエーティル嬢のお父上である公爵閣下と対談中ですので代理で私が参りました」
公爵に捕まったとあれば無理は通せない。無理を通すと公爵がここへ直々に来ることになりかねないしそうなると弁明の余地もないことは明白だ。ラオルドは国王陛下が同席していないことに納得するしかなかった。
エーティルが座るとムーガとメイドは後ろに控える。キリアとエーティルが座る段より一段下の裁判官席には十人もの裁判官が座っている。
キリアが話を始めた。
「第一王子殿下は王太子権に関する決まりに法りその権利を放棄したとみなされました。
今後のお立場といたしまして騎士団所属か王城総務部所属かを選べます。一週間後にお聞きしますのでそれまでに決断してください」
「どうしてラオルド様がそんなところへ行くのよっ!
王太子の勉強でも騎士団はないでしょっ!」
被告人席から立ち上がったウェルシェが叫ぶ。近衛兵が動こうとするがキリアがそれを止めた。
キリアは隣に座るエーティルに声をかけた。
「どうしてこういう状況になったのか調査の一環としてかの者たちに発言を許します。エーティル嬢には不快なお気持ちにさせてしまうかもしれませんがご了承ください」
「ええ。大丈夫ですわ。わたくしも知りたいですもの」
キリアが首肯し前を向き直す。
「第一王子殿下」
キリアに呼ばれたラオルドは返事もしない。顔を歪めて目を瞑っている。
キリアは聞こえているとみなして話を進める。
「侍らせていた者に王太子権に関する決まりを説明していないのですか?」
「いえっ! いたしましたっ!」
ラオルドの代わりにウェルシェの隣に座る側近の一人ドリテンが答えた。もう一人ソナハスも思っきり頭を上下に振り仲間に賛同している。
「何!? 何のこと?」
ウェルシェは叫んだ側近を睨む。もうすでにエーティルに詰め寄った時の儚げな少女はここにいない。
「何度も言ったではないかっ! エーティル様が王太子妃になられるのだと。お前がエーティル様を差し置いて王太子妃になるなど誰も考えていない」
ドリテンとウェルシェが喧嘩腰に話をしていく。
「そんなのあんたが決めつけないでよっ! ラオルド様が私を選んでくれるに決まっているでしょう!」
「だからそれがありえないと説明しただろう?!」
『ダンダン』
キリアたちの一段下に座る副裁判長と思わしき裁判官たちの真ん中に座る男が小槌を叩いた。
「勝手な言動はお控えください」
ウェルシェは口をとがらせて側近と別の方を向いた。
「そこの者。よく聞け。ともかく大切なことはエーティル嬢と婚姻する者が王太子になるということだ」
キリアがゆっくりとした物言いで説明する。
「わかっているわよっ! だからエーティルとラオルド様は婚約しているんでしょう!?」
ウェルシェがエーティルを呼び捨てにしてメイド二人が殺気立つ。エーティルはそれらを後ろに手を翳して抑えた。メイドたちは目を伏せて御意を表したが殺気は消えきっていない。
キリアは今はエーティルが呼び捨てにされたということよりウェルシェがどのように理解し側近たちがどのようにフォローしてきたのかを知りたいためにメイドたちを黙らせた。
146
お気に入りに追加
2,187
あなたにおすすめの小説

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
秋月一花
恋愛
公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。
彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。
その『誰か』とはマーセルという少女だ。
マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。
いつに間にか二人は入れ替わっていた!
空いている教室で互いのことを確認し合うことに。
「貴女、マーセルね?」
「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」
婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?
そしてなぜ二人が入れ替わったのか?
公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。
※いじめ描写有り

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!

氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる