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3 公爵令嬢「マナーくらい身につけなさい」
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一度横に体を向けたエーティルがゆっくりと首をもたげるとその濃いオレンジの目はもう優しさを含んでいなかった。側近二人は微動だにできないがピンクさんは愉悦の表情でエーティルを見ている。エーティルの無表情に嫌味の籠もった笑顔で返すとはこのピンクさんはなかなか図太い神経の持ち主のようだ。
「先程は緊急のご様子でしたから咎めませんでした。しかし本来貴女に発言は許しておりません。緊急かと思いきや拍子抜けなお話でしたけど」
エーティルの無表情を負けを認めたと勘違いしてニヤついたピンクさんだが反論されると即座に顔を歪めた。
「なっ! 何よそれっ!」
「ですから口を開くなと申しているのです。意味がわからないのかしら? それとも貴女はわたくしより身分が上ですの?
ご存知ないかもしれませんがわたくしは公爵家の長女ですわ」
ピンクさんはエーティルが第一王子ラオルドの婚姻相手かもしれないとわかっていて話しかけてきたのだから当然エーティルが公爵令嬢であることぐらいは知っているだろう。小馬鹿にされたことに気がついたピンクさんはギリリと奥歯を噛み締めて顔をゆがませる。
「それで? 貴女は?」
「すぐにあんたより上になるわよっ!」
唾を飛ばしまくるピンクさんにエーティルは扇を開いて対応していく。気品も優雅さも段違いの二人の言い争いは注目を浴びている。騒ぎを嗅ぎつけたのか閑散としていたはずの食堂に人が群がってきた。
「まあ、それは楽しみですわ。それまでにマナーくらい身につけておいた方がよろしいわよ」
ピンクさんはわなわなと震えてエーティルを睨む。
ピンクさんは名乗ることも許されていないことに気がついていないが側近二人は気がついているのでどんどん顔色が悪くなる。
野次馬たちはどんどん増えその分だけ噂も広まる。野次馬に来たうちの数名は踵を返して出ていく。エーティルはその後ろ姿を見て誰なのかをさり気なくチェックしている。
『上司や派閥の上役などに報告に走る者は仕事ができる者。良くも悪くも把握しておくべきね。
あら? あの男は指示を出して走らせているわ。使える男ね。どこの所属かしら?』
エーティルは一瞬後ろに意識を向けた。エーティルの後ろに控える優秀なメイドは五歩下がって文官の一人に指示を出しその文官は一つ頷くと野次馬の中に埋もれていった。
『わたくしの側にいる者たちは本当に優秀だわ。その点、当人なのに何もできずに震えているこの二人はダメね。第一王子殿下の側近でしょう? 酷すぎるわ』
エーティルはラオルドの側近二人を視界の隅に入れてはいるため心の中でため息を漏らす。
「このことはもちろん報告いたしますわ。ご同行されているお二人も一蓮托生。もちろん、ラオルド殿下もですわね」
一釘刺したエーティルが再び背を向ける。
『バンッ!』
エーティルの正面で先程エーティルについていた男が下がっていった方向にある扉が兵士によって急ぎめに開かれる。普段は厳かに佇む扉だけに荒々しくやってきた人物に注目が集まった。
「エーティル嬢!」
そこには艶めく銀糸の髪に夏の空を感じさせる青い瞳の麗しい少年が立っていた。長い銀髪を後ろに一つに纏めて三つ編みにしてあるので清潔感もあり、鍛えていることが一目でわかる逞しい胸板は気品ある服の上から見ても盛り上がっている。
「ラオルドさまぁ!!!」
ピンクさんが黄色い奇声を上げながら走り出しエーティルを追い越していく。そしてラオルドに縋り付いた。
「先程は緊急のご様子でしたから咎めませんでした。しかし本来貴女に発言は許しておりません。緊急かと思いきや拍子抜けなお話でしたけど」
エーティルの無表情を負けを認めたと勘違いしてニヤついたピンクさんだが反論されると即座に顔を歪めた。
「なっ! 何よそれっ!」
「ですから口を開くなと申しているのです。意味がわからないのかしら? それとも貴女はわたくしより身分が上ですの?
ご存知ないかもしれませんがわたくしは公爵家の長女ですわ」
ピンクさんはエーティルが第一王子ラオルドの婚姻相手かもしれないとわかっていて話しかけてきたのだから当然エーティルが公爵令嬢であることぐらいは知っているだろう。小馬鹿にされたことに気がついたピンクさんはギリリと奥歯を噛み締めて顔をゆがませる。
「それで? 貴女は?」
「すぐにあんたより上になるわよっ!」
唾を飛ばしまくるピンクさんにエーティルは扇を開いて対応していく。気品も優雅さも段違いの二人の言い争いは注目を浴びている。騒ぎを嗅ぎつけたのか閑散としていたはずの食堂に人が群がってきた。
「まあ、それは楽しみですわ。それまでにマナーくらい身につけておいた方がよろしいわよ」
ピンクさんはわなわなと震えてエーティルを睨む。
ピンクさんは名乗ることも許されていないことに気がついていないが側近二人は気がついているのでどんどん顔色が悪くなる。
野次馬たちはどんどん増えその分だけ噂も広まる。野次馬に来たうちの数名は踵を返して出ていく。エーティルはその後ろ姿を見て誰なのかをさり気なくチェックしている。
『上司や派閥の上役などに報告に走る者は仕事ができる者。良くも悪くも把握しておくべきね。
あら? あの男は指示を出して走らせているわ。使える男ね。どこの所属かしら?』
エーティルは一瞬後ろに意識を向けた。エーティルの後ろに控える優秀なメイドは五歩下がって文官の一人に指示を出しその文官は一つ頷くと野次馬の中に埋もれていった。
『わたくしの側にいる者たちは本当に優秀だわ。その点、当人なのに何もできずに震えているこの二人はダメね。第一王子殿下の側近でしょう? 酷すぎるわ』
エーティルはラオルドの側近二人を視界の隅に入れてはいるため心の中でため息を漏らす。
「このことはもちろん報告いたしますわ。ご同行されているお二人も一蓮托生。もちろん、ラオルド殿下もですわね」
一釘刺したエーティルが再び背を向ける。
『バンッ!』
エーティルの正面で先程エーティルについていた男が下がっていった方向にある扉が兵士によって急ぎめに開かれる。普段は厳かに佇む扉だけに荒々しくやってきた人物に注目が集まった。
「エーティル嬢!」
そこには艶めく銀糸の髪に夏の空を感じさせる青い瞳の麗しい少年が立っていた。長い銀髪を後ろに一つに纏めて三つ編みにしてあるので清潔感もあり、鍛えていることが一目でわかる逞しい胸板は気品ある服の上から見ても盛り上がっている。
「ラオルドさまぁ!!!」
ピンクさんが黄色い奇声を上げながら走り出しエーティルを追い越していく。そしてラオルドに縋り付いた。
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