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疑問16 伯爵家はどうなるのかしら?
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ノイデル伯爵からの復讐を警戒するサーディルの意見に、お祖父様は頭を振って否定する。
「いや。ヤツは方法は間違えたかもしれぬが、エリオナを愛しんでいたことは確かだ。だからこそ、シズの言い分に打ちのめされただろう。それをさらにオリビアへ八つ当たりするほどの愚か者ではないと思う」
愛する妻を殺したのは自分であるというのはノイデル伯爵にとって何より辛いことに違いない。
「『エリオナの頑張りを否定し続けた』という事実もまた衝撃だったろうしな」
お祖父様はノイデル伯爵にそれを言ったお祖母様を愛しげに見つめた。お祖母様も優しく微笑んで答える。
「逆に自害をしてしまわぬかと思うほどだ。執事を一人向かわせノイデル伯爵家の執事に見張りをするように指示はした」
オリビアは会場でのノイデル伯爵の姿を思い出していた。まるで抜け殻のようであった。
しかし、オリビアにとってもっと気になることがあったのだ。
「お父様はわたくしとシズに気がつきもしませんでしたわね」
「そうね。彼の目にはエリオナしか見えていないのよ。ジリーがあのように育ってしまったのも、父親からの愛情がないからだわ。『母親がいれば愛されていたかもしれない』という気持ちが貴女への虐待に繋がってしまったのだと思うわ」
お祖母様はもう一人の孫であるジリーを思い悲しそうな顔をした。ジリーを思いやるお祖母様の言葉にサーディルは眉を寄せた。
「だとしても、父親からの愛情がないのはビアも一緒なのです。ビアと手を取り合って助け合い思いやる兄妹の形もあったのではないですか?」
「そうだな」
お祖父様は目を閉じて頷く。きっとジリーの姿を思い描いているのだろう。
「確かに兄として妹に寄り添うことが理想的ではある。だが、自分より弱い者を助けながら生きるのは大変なのだ。ジリーは安易な生き方を選んだ。その報いはこれから受けるだろう」
お祖父様もお祖母様も悲しそうに目を伏せたままだった。
オリビアはお祖父様の『ノイデル伯爵家やジリーが報いを受ける』という言葉に首を傾げた。
「報い……ですか?」
オリビアがいなくなっただけでノイデル伯爵家の何かが変わるわけではないと思ってるようだ。
「今日の騒ぎで『ノイデル伯爵家の男は女に手を上げる者だ』と判断されてしまったわ。さらにジリーは多くの女性と同時にお付き合いする者だということも知られてしまったのよ。そんな家に娘を嫁がせたい親などいないでしょうね……」
「親戚とはいえ他家で騒ぎを起こしたことも敬遠される要因となろう。
ジリーは女性に関して父親と反対の男になろうと、知らず知らずに行動してしまったのだろうな」
お祖父様もお祖母様もお辛そうだ。
ジリーは『一途に妻エリオナを思い苦しんでいる父親』を見てきたので、どうしても一人だけを愛するということができないでいたのだろうと思われた。お祖父様お祖母様を見ていれば、一人と愛し愛されることは良いことだと思えるはずなのに。
「え!? ではノイデル伯爵家は?」
オリビアはまさかノイデル伯爵家の衰退、没落までは考えていなかった。
「伯爵の弟に子供がいただろう。家が潰れることはあるまい」
「使用人たちは?」
オリビアは使用人たちにも不当な扱いを受けていた。サーディルにとってはそちらも赦せない存在のようだ。
「それはこちらからは口出しはできん。だが、女主人もおらず、しばらく当主が腑抜けでは執事が動くことになろう。あの執事ならその間に何かしらすることはありえるな」
執事はオリビアへの虐待に加担はせず、隙を見つけてはオリビアの元へ例の手助けしたメイドを向かわせていた。ノイデル伯爵に逆らうことはできず直接オリビアを庇うことはできなかったが、メイド一人にオリビアの命を救うことなど不可能なのだから、陰ながら執事の働きは大きかったと想像できた。
「だが、オリビアを庇っていたメイドは引き抜く。情報の出処だとバレてしまうのも時間の問題だろう。明日にでも伯爵家を辞めさせよう」
「お祖父様。ありがとう」
オリビアもそれを危惧していたので、お祖父様の判断にホッと胸を撫で下ろす。
「いや。ヤツは方法は間違えたかもしれぬが、エリオナを愛しんでいたことは確かだ。だからこそ、シズの言い分に打ちのめされただろう。それをさらにオリビアへ八つ当たりするほどの愚か者ではないと思う」
愛する妻を殺したのは自分であるというのはノイデル伯爵にとって何より辛いことに違いない。
「『エリオナの頑張りを否定し続けた』という事実もまた衝撃だったろうしな」
お祖父様はノイデル伯爵にそれを言ったお祖母様を愛しげに見つめた。お祖母様も優しく微笑んで答える。
「逆に自害をしてしまわぬかと思うほどだ。執事を一人向かわせノイデル伯爵家の執事に見張りをするように指示はした」
オリビアは会場でのノイデル伯爵の姿を思い出していた。まるで抜け殻のようであった。
しかし、オリビアにとってもっと気になることがあったのだ。
「お父様はわたくしとシズに気がつきもしませんでしたわね」
「そうね。彼の目にはエリオナしか見えていないのよ。ジリーがあのように育ってしまったのも、父親からの愛情がないからだわ。『母親がいれば愛されていたかもしれない』という気持ちが貴女への虐待に繋がってしまったのだと思うわ」
お祖母様はもう一人の孫であるジリーを思い悲しそうな顔をした。ジリーを思いやるお祖母様の言葉にサーディルは眉を寄せた。
「だとしても、父親からの愛情がないのはビアも一緒なのです。ビアと手を取り合って助け合い思いやる兄妹の形もあったのではないですか?」
「そうだな」
お祖父様は目を閉じて頷く。きっとジリーの姿を思い描いているのだろう。
「確かに兄として妹に寄り添うことが理想的ではある。だが、自分より弱い者を助けながら生きるのは大変なのだ。ジリーは安易な生き方を選んだ。その報いはこれから受けるだろう」
お祖父様もお祖母様も悲しそうに目を伏せたままだった。
オリビアはお祖父様の『ノイデル伯爵家やジリーが報いを受ける』という言葉に首を傾げた。
「報い……ですか?」
オリビアがいなくなっただけでノイデル伯爵家の何かが変わるわけではないと思ってるようだ。
「今日の騒ぎで『ノイデル伯爵家の男は女に手を上げる者だ』と判断されてしまったわ。さらにジリーは多くの女性と同時にお付き合いする者だということも知られてしまったのよ。そんな家に娘を嫁がせたい親などいないでしょうね……」
「親戚とはいえ他家で騒ぎを起こしたことも敬遠される要因となろう。
ジリーは女性に関して父親と反対の男になろうと、知らず知らずに行動してしまったのだろうな」
お祖父様もお祖母様もお辛そうだ。
ジリーは『一途に妻エリオナを思い苦しんでいる父親』を見てきたので、どうしても一人だけを愛するということができないでいたのだろうと思われた。お祖父様お祖母様を見ていれば、一人と愛し愛されることは良いことだと思えるはずなのに。
「え!? ではノイデル伯爵家は?」
オリビアはまさかノイデル伯爵家の衰退、没落までは考えていなかった。
「伯爵の弟に子供がいただろう。家が潰れることはあるまい」
「使用人たちは?」
オリビアは使用人たちにも不当な扱いを受けていた。サーディルにとってはそちらも赦せない存在のようだ。
「それはこちらからは口出しはできん。だが、女主人もおらず、しばらく当主が腑抜けでは執事が動くことになろう。あの執事ならその間に何かしらすることはありえるな」
執事はオリビアへの虐待に加担はせず、隙を見つけてはオリビアの元へ例の手助けしたメイドを向かわせていた。ノイデル伯爵に逆らうことはできず直接オリビアを庇うことはできなかったが、メイド一人にオリビアの命を救うことなど不可能なのだから、陰ながら執事の働きは大きかったと想像できた。
「だが、オリビアを庇っていたメイドは引き抜く。情報の出処だとバレてしまうのも時間の問題だろう。明日にでも伯爵家を辞めさせよう」
「お祖父様。ありがとう」
オリビアもそれを危惧していたので、お祖父様の判断にホッと胸を撫で下ろす。
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