上 下
2 / 17

疑問2 私は誰かしら?

しおりを挟む
 湖畔を濃い緑の髪に紫の瞳をした可愛らしい少女と銀髪に紫の瞳をした婦人と手を繋いで歩いている。

「ビアちゃん。キレイでしょう。貴女のお母様が好きだった景色よ」

「おばあさま! おかあさまはお空からでもご覧になっていらっしゃるわ」

 オリビアは青空に向かって手を振った。

〰️ 〰️ 〰️

『夢か……。夢の婦人とさっきの老婦人……同一人物だよね』

 虚ろな脳内のまま目を開ける。
 目に映ったのは見たことがない天蓋。そうまるで想像の中の宮殿のベッドのように薄いレースが垂らされている。

「こんなの高級ホテルしかありえないわよ。行ったことないけど……」

 働かない頭で呟いてしまった。

「オリビアお嬢様! 目をお覚ましになりましたか!? 奥様を呼んでまいります」

 おそらくメイドと思われる女性が慌てて部屋を出て行った。私はゆっくりと起き上がる。
 
 ありえないほど大きなベッドに座っている私。肌触りの良い服に着替えさせられている。
 大きな部屋に大きな窓。レースのカーテンが風にゆらめく。外はもう夕方のようで茜色だ。部屋の中には豪華そうな家具が並び壁には大きな絵が飾られていた。それは夢で見た湖畔の絵だ。

『コンコンコン』

 ドアがノックされて静かに開く。メイドが恭しく大きく開けると倒れる前に見た老婦人が目を潤ませて入ってきた。急ぎ足ででも決して走らず近づいてくる。そして私の頭をギュッと自分の胸に押し付けた。

『抱き締められている……』

 私の中の記憶のようなものがキュンッとした。涙が自然に溢れてくる。

「お祖母様。ごめんなさい」

 口から出た言葉に私自身でも驚いた。

「ビアちゃん。いいのよ。もう大丈夫。今日はゆっくりとおやすみなさい。夕食はこちらに運ばせるわ」

 老婦人は私を抱き締めたまま私の頭をずっと撫ぜていた。
 
「ふふふ。ビアちゃんといるとお話したいことがたくさんあって、ビアちゃんをおやすみさせてあげられないわね。明日、たくさんお話ししましょうね」

 私の身体を離した老婦人は懸命に笑顔を作っているようだった。優しい瞳の中に悲しみが浮かんでいる。

「はい」

 老婦人が部屋から出ると、メイドに世話をされて湯浴みをし食事をしベッドへ戻る。
 私は再び深い眠りに落ちた。

〰️ 〰️ 〰️

『お前がエリオナを殺したのだ』

 オリビアと同じダークグリーンの髪の壮年の男は濃茶色の瞳の見開いてオリビアの頬を叩く。

『母上を返せ! お前が代わりに死ねばよかったんだ』

 老婦人と同じシルバーの輝く髪に大きな茶色の瞳の美少年がオリビアを突き飛ばす。


〰️ 〰️ 〰️


 翌朝、私は老婦人と朝食の席で顔を合わせることを避け、ベッドに朝食を運んでもらった。昨日の今日なので疑われることはなかった。

「朝食の後、お祖父様とお祖母様とお話をしたいの。段取りをしてもらえる?」

「かしこまりました。執事長のバレル様にお伝えしておきます」

 メイドが優しく頷いてくれた。

「それと記憶が曖昧なの。朝食の間、話し相手になってもらえるかしら?」

「わたくしでよければよろこんで」

 私の食事の間に色々と教えてもらい、食事の終了を確認して朝食が下げられる。

 メイドの話によるとオリビアのお祖父様はフィゾルド侯爵様。この国はなんとか王国と言っていたがあれもこれもは覚えられないので侯爵様の名前だけしっかりと覚えた。生活様式などを聞いてみたが私の知る現代とはかけ離れるほど不便そうだ。
 服装も髪色も私にとって通常でないので、異世界であることは間違いないだろう。

 メイドが戻って来る前にクローゼットを開けて自分で着られそうな服を探す。昨日はかなり弱っていたので湯浴みも着替えも手伝ってもらったが、平民意識満載で少し元気になった私は着替えを手伝ってもらうのはかなり恥ずかしい。
 ちょうど良さそうなワンピースを見つけたので急いで着替えた。戻ってきたメイドは私の服を見て一瞬驚いたが、すぐに微笑に戻りドレッサーに導いてくれる。化粧とヘアセットをしてもらった。

「バレル様にお聞きしましたら、早々にお時間をいただけるということでした。今から参りますか?」

「そうね。案内してもらえる?」

「はい。ではこちらです」

 私の記憶が曖昧だと伝えていたメイドはにこやかに案内してくれる。メイドに案内されたのは見事な応接室だった。
 メイドに促されてソファへと腰を下ろす。

「旦那様と奥様にお声掛けしてまいります」

 入れ違いに入ってきたメイドはワゴンを押していて、すぐにお茶の用意を始めた。お二人はすぐにいらっしゃるということだろう。

 私は心の中でしっかりと気合を入れた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...