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理由13 逃げたかったから
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「お二人とは性的なつながりだけを求めていたのか?」
「マテルジには何も求めてないってばっ! 学園にいる王族だから拒否できなかったの。
あ! ダンスは上手いからパーティーは一番楽しかった! まわりも注目するし、気持ちよかったわぁ。
次のパーティーにはドレス買ってくれるって言っていたけど、無理ねぇ」
『バンッ!!』
「当たり前だっ! マテルジ殿下が今後パーティーにご出席されることはないっ!」
近衛は思わず机を叩いた。スザンヌはその様子に怖がるでもなく妖艶に口角を上げる。
「そうなんだぁ。ざんねーん」
書き留め係の中年近衛兵が聴取係の青年近衛兵の肩に手を置いた。青年近衛兵は立ち上がり外に出ていく。代わりに中年近衛兵が入室してきてスザンヌの前の椅子に座る。
「男を煽るのも絆させるのもお手のものか?」
ため息とともにスザンヌに軽蔑の目を向けた。
「そんなことないわ。お母さんに比べればまだ未熟よ。
でも、サバルはちゃんと落としにいったわ。サバルはナナリーに負けているって卑屈になっていたから楽だったわぁ。だって、私はサバルに勝てるものないし」
「っ!!」
団長の子息をバカにされ近衛の顔が歪む。だが、ナナリーの優秀さも理解しており複雑な気持ちになった。
「それに、マテルジは本人もべレナと結婚しなきゃやれることないってわかっていたわよ。婚約破棄なんて望んでいなかったと思うわ。私とは学園の間だけだって言われたし」
近衛はマテルジが少しは王家らしい考えであったことにホッとした。そんなことでホッとされるほどマテルジの評価は低い。
「ライジーノは人嫌いだもの。王城勤務くらいしかできないって思っていて、領地はジゼーヌと管理人に任せて維持できれば充分だって言っていたわ。私と王都で会うって話していたから、婚約破棄するつもりはなかったでしょうね。私が領地経営なんてできるわけないし」
『王城勤務』はすごいことなのだが、酷い言われように近衛はびっくりした。
「だけどさぁ! サバルに『家を捨ててもいい』って言われた時はビビったわぁ。サバルって特別に強いわけじゃないけど、兵士としてならどこでも生きていけるんでしょう?
でも、それじゃ意味ないし、必死で止めたわよ」
「アシャード侯爵子息がよかったんだろう?」
「侯爵にならないなら、ダメじゃん。侯爵になるサバルと結婚すれば貧乏からも抜けられるから意味があるのよ。騎士団の家ならあいつらも来れないし」
「あいつらって、お前の父親を嵌めたやつらか?」
「そうよ。犯罪者集団なんだから騎士団家には来れなくて当然でしょう?
あんなやつらに一生食われていくなんて冗談じゃないわよ」
スザンヌは鼻息を荒くした。
「さらにあいつらは殺し屋も私に回してきたんでしょう? あのとき第二王子が捕まえたやつらよ」
昨日学園前で捕まえられた者たちが殺し屋だったことはその場でスザンヌが知るところとなっていた。アドムたちはローダン男爵が雇ったと思っていたが、スザンヌは父親からの刺客ではないと考えているようだ。
「お前はやつらの顔を知っているようだからな。殺し屋は父親が仕向けたとは思わないのか?」
「あはは!! あんな小物にそんな大それたことできるわけないでしょう? お母さんの浮気も咎められない小心者なのよ」
ローダン男爵はギャンブルのため、夫人は愛人のために家にはほとんどいなかった。スザンヌが八歳になる頃には最後のメイドも辞めていった。スザンヌは時々父親に金をもらって一人で生きてきた。
「でもあいつ―ローダン男爵―が犯罪者集団に嵌められたタイミングと、私の学園入学のタイミングが同時でよかったわよ。そうでなければ私も男を取らされていたわよね」
「かもな……」
中年近衛は自分の子供たちと同じくらいの年齢の『ご令嬢』の言葉に、口籠った。
スザンヌは、自分からマテルジたちに体を許すのはよくとも、犯罪者集団たちに娼婦のようにされるのは嫌らしい。
「『私も』か……。両親のことは知っているのだな?」
ローダン男爵夫妻は、催淫剤を流行らせるため、貴族たち相手であるが娼婦や男娼のようなことをさせられていた。スザンヌの両親だけあって顔の見目はいい。さらに夫人は体型も素晴らしい。
「ええ。お母さんから聞いているわよ。お母さんは喜んでいたみたいだけどね」
何でもないことのようにそれを言うスザンヌに、近衛は尚更悲しくなった。
「とにかく、あいつらと同じ刑罰地にしないでよね。ヤられちゃうか、殺されちゃうわ」
それからしばらく聴取を受けてスザンヌは牢へと戻された。
隣室ではあの男たちの家族が聞きたくもない性癖を聞かされて苦虫を噛み潰したり、気を遠くしたりしていた。
まだ若いアドムとナハトはある意味気持ちを新たにしている。
アシャード侯爵夫妻はサバルがスザンヌに本気で狙われていたことより、サバルが家を捨てることを考えていたことにショックを受けた。
「マテルジには何も求めてないってばっ! 学園にいる王族だから拒否できなかったの。
あ! ダンスは上手いからパーティーは一番楽しかった! まわりも注目するし、気持ちよかったわぁ。
次のパーティーにはドレス買ってくれるって言っていたけど、無理ねぇ」
『バンッ!!』
「当たり前だっ! マテルジ殿下が今後パーティーにご出席されることはないっ!」
近衛は思わず机を叩いた。スザンヌはその様子に怖がるでもなく妖艶に口角を上げる。
「そうなんだぁ。ざんねーん」
書き留め係の中年近衛兵が聴取係の青年近衛兵の肩に手を置いた。青年近衛兵は立ち上がり外に出ていく。代わりに中年近衛兵が入室してきてスザンヌの前の椅子に座る。
「男を煽るのも絆させるのもお手のものか?」
ため息とともにスザンヌに軽蔑の目を向けた。
「そんなことないわ。お母さんに比べればまだ未熟よ。
でも、サバルはちゃんと落としにいったわ。サバルはナナリーに負けているって卑屈になっていたから楽だったわぁ。だって、私はサバルに勝てるものないし」
「っ!!」
団長の子息をバカにされ近衛の顔が歪む。だが、ナナリーの優秀さも理解しており複雑な気持ちになった。
「それに、マテルジは本人もべレナと結婚しなきゃやれることないってわかっていたわよ。婚約破棄なんて望んでいなかったと思うわ。私とは学園の間だけだって言われたし」
近衛はマテルジが少しは王家らしい考えであったことにホッとした。そんなことでホッとされるほどマテルジの評価は低い。
「ライジーノは人嫌いだもの。王城勤務くらいしかできないって思っていて、領地はジゼーヌと管理人に任せて維持できれば充分だって言っていたわ。私と王都で会うって話していたから、婚約破棄するつもりはなかったでしょうね。私が領地経営なんてできるわけないし」
『王城勤務』はすごいことなのだが、酷い言われように近衛はびっくりした。
「だけどさぁ! サバルに『家を捨ててもいい』って言われた時はビビったわぁ。サバルって特別に強いわけじゃないけど、兵士としてならどこでも生きていけるんでしょう?
でも、それじゃ意味ないし、必死で止めたわよ」
「アシャード侯爵子息がよかったんだろう?」
「侯爵にならないなら、ダメじゃん。侯爵になるサバルと結婚すれば貧乏からも抜けられるから意味があるのよ。騎士団の家ならあいつらも来れないし」
「あいつらって、お前の父親を嵌めたやつらか?」
「そうよ。犯罪者集団なんだから騎士団家には来れなくて当然でしょう?
あんなやつらに一生食われていくなんて冗談じゃないわよ」
スザンヌは鼻息を荒くした。
「さらにあいつらは殺し屋も私に回してきたんでしょう? あのとき第二王子が捕まえたやつらよ」
昨日学園前で捕まえられた者たちが殺し屋だったことはその場でスザンヌが知るところとなっていた。アドムたちはローダン男爵が雇ったと思っていたが、スザンヌは父親からの刺客ではないと考えているようだ。
「お前はやつらの顔を知っているようだからな。殺し屋は父親が仕向けたとは思わないのか?」
「あはは!! あんな小物にそんな大それたことできるわけないでしょう? お母さんの浮気も咎められない小心者なのよ」
ローダン男爵はギャンブルのため、夫人は愛人のために家にはほとんどいなかった。スザンヌが八歳になる頃には最後のメイドも辞めていった。スザンヌは時々父親に金をもらって一人で生きてきた。
「でもあいつ―ローダン男爵―が犯罪者集団に嵌められたタイミングと、私の学園入学のタイミングが同時でよかったわよ。そうでなければ私も男を取らされていたわよね」
「かもな……」
中年近衛は自分の子供たちと同じくらいの年齢の『ご令嬢』の言葉に、口籠った。
スザンヌは、自分からマテルジたちに体を許すのはよくとも、犯罪者集団たちに娼婦のようにされるのは嫌らしい。
「『私も』か……。両親のことは知っているのだな?」
ローダン男爵夫妻は、催淫剤を流行らせるため、貴族たち相手であるが娼婦や男娼のようなことをさせられていた。スザンヌの両親だけあって顔の見目はいい。さらに夫人は体型も素晴らしい。
「ええ。お母さんから聞いているわよ。お母さんは喜んでいたみたいだけどね」
何でもないことのようにそれを言うスザンヌに、近衛は尚更悲しくなった。
「とにかく、あいつらと同じ刑罰地にしないでよね。ヤられちゃうか、殺されちゃうわ」
それからしばらく聴取を受けてスザンヌは牢へと戻された。
隣室ではあの男たちの家族が聞きたくもない性癖を聞かされて苦虫を噛み潰したり、気を遠くしたりしていた。
まだ若いアドムとナハトはある意味気持ちを新たにしている。
アシャード侯爵夫妻はサバルがスザンヌに本気で狙われていたことより、サバルが家を捨てることを考えていたことにショックを受けた。
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