上 下
12 / 17

理由12 貧乏だから

しおりを挟む
この回は性的な表現が出てきます。苦手な方やお若すぎる方は飛ばしてください。


〰️ 〰️ 〰️
〰️ 〰️ 〰️


 ローダン男爵家は催淫剤を密輸密売していた。それはバフベニール王国では禁止薬物である。だが、ローダン男爵は隠れ蓑にされ、販売促進員にされていて、主犯ではない。スザンヌを殺そうとした者たちから主犯まで繋げることができた。

 スザンヌは翌日聴取された。

 聴取は騎士団の聴取室ではなく、客室に事務机が並べられて行われた。なぜなら、誑かされた三人の家族たちが話を聞きたいと希望したからだ。『家族たち』の中には王家も含まれる。
 ただし、隣室で声は出さないことを約束させられている。スザンヌの聴取が今日だけで終わるとは思えず、スザンヌの協力が得られなくなることは避けたいためだ。

 その部屋へ連れてこられたスザンヌは、昨日までの『可愛らしい顔にチャーミングな笑顔で手振りや動作は大きく明るい印象を与え、笑ったり拗ねたりとコロコロ変わる表情はいつまで見ても飽きない姿』ではなかった。あの三人が見たらあ然としたに違いない。
 今日のスザンヌはふてぶてしく口元も歪めて笑っており、まるで稀代の悪女の様である。

 スザンヌはこれまでのことを隠さずに話した。
 家が貧乏だったこと。父親が悪い奴らに騙されてさらに借金が増え、その代わりに貴族に催淫剤を流行らせる役をさせられたこと。学園に入る時に一本盗んできたこと。

 スザンヌの不遇はわかるが禁止薬物を使っていい理由にはならない。

 スザンヌは男子三人をそれぞれデートに誘い出し、怪しい店の怪しいベッドで催淫剤を使っていた。ただし、使ったのは一度だけでそれも微量だという。それでも三人の男は、性行為の感触が忘れられずに堕落したのだった。婚姻前に体を許すご令嬢などスザンヌ以外にはいるはずもなく、当然お相手はスザンヌだけだ。
 スザンヌの寮の部屋からほとんど使っていない催淫剤の瓶が押収されている。

「『私は男爵令嬢だから学園でしか高位貴族と話せない。思い出作りしたい』って甘えてやったら、ホイホイとデートに乗ってきたわ。ほら、あいつらの婚約者って完璧女ばかりでしょう。完璧女たちが甘えるわけないじゃん。だから私が甘えて弱くてカワイイふりしてあげたの。
で、ヤらせてやったら即オチよ。ほんとバカよね。
薬なんて必要なかったかもしれないけど、途中でビビられたら次がなくなっちゃうじゃない。薬入れちゃえば途中止めなんてできなくなるもの」

 完璧女と甘言女。まさにそれこそが三人が陥落した要因なのだろう。

「三人もの男たちとどうするつもりだったのだ?」

「はぁ? 私の狙いはサバルだけっ! 二人は遊びっ!」

「マテルジ殿下は王家だぞ」

「だから何? あんなのべレナと結婚しなくちゃ爵位も仕事もないじゃないの。あれはただの役立たずでしょう? 王族のくせに私と同じクラスだなんて笑っちゃうわ。あれが国王になんてなれるわけないじゃない。
『王族とヤッた』って話がほしかっただけよ」

「モリト公爵令息は? ジゼーヌ嬢を嵌めようとしたのだろう?」

「あれは、ジゼーヌがたまたま隣にいたから名前をだしただけ。私が被害者になれるなら誰でもよかったのよ。ライジーノが近くにいたのも偶然。誰かが『スザンヌがイジメられている』ってサバルに告げ口してくれればそれでよかったの。後から『やったのはナナリーの友人だ』ってサバルに言うつもりだったし」

 聴取係が顔を歪める。そんな理由で冤罪をかけられた方は堪らないだろう。

「でも、あっち―性交渉―の方は、ライジーノが一番上手かったから、回数は一番多く付き合ってやったわ。ねちっこくって、私の様子を見ながらするから私もイケるのよ。
だけどねぇ。ライジーノは性格が暗すぎて普段は一緒にいられないのよね。だから結婚は無理」

 性的な話を自らしてきたスザンヌに対して、近衛たちは口を開けた。

「マテルジは早いだけ。ヤラせる分には早いのは楽だからいいけど、演技は面倒よね。
サバルは単調なのよねぇ。でもね、サバルの単調は調教している最中なの。ふふ、頑張ってくれていたわよぉ。
女も気持ちよくならなきゃ損でしょう? サバルが私好みのテクニックを持っていくって快感だったわぁ」

 聴取を書き留める係の若い近衛が吐き気を催して外に出た。

「ふんっ!」

 スザンヌは鼻で笑う。自分より若い女の子の話で吐き気がするようではぬるい。スザンヌが笑って当然である。

 中年の近衛が入ってきて書き留め係の机についた。聴取が再開される。

「では、ナナリー嬢にぶつかろうとしたのはわざとなのだな」

「あいつ、運動神経良すぎでしょ!? ほんとどんな鍛え方したら手摺りから着地できるのよ。軽くぶつかって落ちるはずだったのに空振りで私が一人で落ちちゃったわ。
サバルは勝手に怒ってくれたらから作戦は成功だったけどねぇ」

 確かにべレナに対しては、スザンヌから『冤罪にされるようなこと』はしていない。マテルジがべレナに怒鳴り込んだだけだ。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

そんなの知らない。自分で考えれば?

ファンタジー
逆ハーレムエンドの先は? ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

処理中です...