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理由7 騎士とは言えないから
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マテルジと入れ違いに、胸板の分厚い偉丈夫が入ってきた。それを見た瞬間にサバルが逃げ出そうとした。
そんなサバルに向かって投げ縄が飛んできて、サバルは即座に捕縛されてしまう。その際、テーブルに頭をぶつけてクラクラと足をふらつかせた。
その偉丈夫が足取り覚束ないサバルに近寄ると右頬を叩き、床に倒して馬乗りになり今度は左頬を叩いた。それからすっと立ち上がり片足をサバルの腹にガツンと乗せる。
「グエッ!!」
「おいっ! この期に及んで逃げだそうとしたのか? 敵前逃亡は戦において最大の罪だ。どこまでも罪を重ねるのが好きなようだな」
その偉丈夫はサバル・アシャードの父親にして、王国騎士団の団長たる侯爵閣下だ。
「戦における罪人は労役だぞ。今回は下男で許してやる」
「げ、下男?」
「女性に怪我を負わせるようなヤツが騎士になれるわけがないだろうがっ!」
アシャード侯爵はサバルの頭にゲンコツを落とす。サバルは縄で腕が固定されているので頭を抱えることもできず歯を食いしばって痛がった。アシャード侯爵の立ち位置から振りかぶったゲンコツに野次馬たちも痛さを想像して顔を顰める。
「しばらくは、団で労役下男として仕事をさせてやる。使えないと判れば捨てる。
真面目にやれば、いつか門兵にはしてやろう。
卒業を待たずに仕事が決まってよかったのぉ」
アシャード侯爵閣下が縄をつけたままのサバルの襟首を掴み立たせると、サバルは失禁していた。アシャード侯爵閣下は眉を寄せて後ろに控えていた騎士に投げ渡した。サバルは躓き転ぶ。騎士は動けなくなっているサバルを……いや縄の部分を引っ張り引き摺っていった。
「ナナリー。すまんかったな」
アシャード侯爵は頭を掻きながらナナリーへ謝罪の言葉を放った。立場として学生たちの前で頭は下げられない。
「大丈夫です!」
アシャード侯爵の立場を理解しそれでも謝辞を述べてくれたアシャード侯爵に、ナナリーは微笑んで答えた。
ナナリーはその体躯と運動神経を十二分に使いこなし、騎士団訓練所に稽古へと出向いていた。アシャード侯爵閣下は、息子サバルの婚約者というより一人の騎士団員希望者としてナナリーと接している。サバルより真面目に騎士団訓練所に通うナナリーのことをアシャード侯爵はとても可愛がっていた。
ただし、ナナリーは卒業後はサバルと早々に婚姻して家に入る予定であった。サバルがアシャード侯爵家の跡取り息子であるからだ。
「侘びと言ってはなんだが、お前さんの希望を通しておいた。卒業したら近衛へ行け」
「本当ですかっ!!」
ナナリーの顔がパッとさらに明るい笑顔になった。
近衛とは、王宮近衛騎士団で主に王族の護衛をしている。ナナリーは『サバルとの間に後継者を出産した後でもいいから』という決意とともに近衛騎士団へ入団することを常々アシャード侯爵に相談していた。
「王妃陛下も期待していると言っていたよ」
アドム王太子が付け加える。
「あれれ?? 俺は王太子妃がナナリーを狙っているって聞いてるぜぇ」
アシャード侯爵閣下はニヤリと笑いアドムを目を細めて見やる。アシャード侯爵閣下は、王太子にその口調を許されているほど信用されていた。
女性近衛騎士はまだ八人だけで、交代制であるし、ほぼ王妃陛下の護衛しかできない。
「それはそうさ。私だって、私の愛する妻を守り、彼女を心身ともに支えてくれる女性騎士はほしいよ。
特に外交に行く際には必要だろう? 団長こそその必要性をわかっていて、ナナリーの存在を喜んでいるのではないのか?」
アドムもニヤリと笑った。
「まあな。五年後かと考えていたが、な」
ナナリーは目を見開いた。アシャード侯爵はサバルとナナリーの婚姻後でも、ナナリーの夢を叶える予定だったようだ。
「ナナリーのおかげで鍛錬に来る女性は増えた。彼女らの先駆者になってくれ」
「「「きゃあ!!!」」」
ナナリーに憧れて鍛錬に通うようになった淑女たちは学園の生徒たちである。ナナリーが自分たちのリーダーになりそうなことに彼女らから喜びの声がかかった。
特に子爵家男爵家のご令嬢にとって、卒業後の仕事に選べるものが増えることはとても喜ばしいことだ。女性がすべて刺繍好きとは限らない。
ナナリーは嬉しさのあまり涙ぐみ、ベレナとジゼーヌから祝福の言葉を受けていた。野次馬からも「おめでとう」「頑張ってください」「ナナリーお姉様!」と拍手が送られる。
アシャード侯爵閣下は、ナナリーの肩をポンと叩いて食堂を後にした。
そんなサバルに向かって投げ縄が飛んできて、サバルは即座に捕縛されてしまう。その際、テーブルに頭をぶつけてクラクラと足をふらつかせた。
その偉丈夫が足取り覚束ないサバルに近寄ると右頬を叩き、床に倒して馬乗りになり今度は左頬を叩いた。それからすっと立ち上がり片足をサバルの腹にガツンと乗せる。
「グエッ!!」
「おいっ! この期に及んで逃げだそうとしたのか? 敵前逃亡は戦において最大の罪だ。どこまでも罪を重ねるのが好きなようだな」
その偉丈夫はサバル・アシャードの父親にして、王国騎士団の団長たる侯爵閣下だ。
「戦における罪人は労役だぞ。今回は下男で許してやる」
「げ、下男?」
「女性に怪我を負わせるようなヤツが騎士になれるわけがないだろうがっ!」
アシャード侯爵はサバルの頭にゲンコツを落とす。サバルは縄で腕が固定されているので頭を抱えることもできず歯を食いしばって痛がった。アシャード侯爵の立ち位置から振りかぶったゲンコツに野次馬たちも痛さを想像して顔を顰める。
「しばらくは、団で労役下男として仕事をさせてやる。使えないと判れば捨てる。
真面目にやれば、いつか門兵にはしてやろう。
卒業を待たずに仕事が決まってよかったのぉ」
アシャード侯爵閣下が縄をつけたままのサバルの襟首を掴み立たせると、サバルは失禁していた。アシャード侯爵閣下は眉を寄せて後ろに控えていた騎士に投げ渡した。サバルは躓き転ぶ。騎士は動けなくなっているサバルを……いや縄の部分を引っ張り引き摺っていった。
「ナナリー。すまんかったな」
アシャード侯爵は頭を掻きながらナナリーへ謝罪の言葉を放った。立場として学生たちの前で頭は下げられない。
「大丈夫です!」
アシャード侯爵の立場を理解しそれでも謝辞を述べてくれたアシャード侯爵に、ナナリーは微笑んで答えた。
ナナリーはその体躯と運動神経を十二分に使いこなし、騎士団訓練所に稽古へと出向いていた。アシャード侯爵閣下は、息子サバルの婚約者というより一人の騎士団員希望者としてナナリーと接している。サバルより真面目に騎士団訓練所に通うナナリーのことをアシャード侯爵はとても可愛がっていた。
ただし、ナナリーは卒業後はサバルと早々に婚姻して家に入る予定であった。サバルがアシャード侯爵家の跡取り息子であるからだ。
「侘びと言ってはなんだが、お前さんの希望を通しておいた。卒業したら近衛へ行け」
「本当ですかっ!!」
ナナリーの顔がパッとさらに明るい笑顔になった。
近衛とは、王宮近衛騎士団で主に王族の護衛をしている。ナナリーは『サバルとの間に後継者を出産した後でもいいから』という決意とともに近衛騎士団へ入団することを常々アシャード侯爵に相談していた。
「王妃陛下も期待していると言っていたよ」
アドム王太子が付け加える。
「あれれ?? 俺は王太子妃がナナリーを狙っているって聞いてるぜぇ」
アシャード侯爵閣下はニヤリと笑いアドムを目を細めて見やる。アシャード侯爵閣下は、王太子にその口調を許されているほど信用されていた。
女性近衛騎士はまだ八人だけで、交代制であるし、ほぼ王妃陛下の護衛しかできない。
「それはそうさ。私だって、私の愛する妻を守り、彼女を心身ともに支えてくれる女性騎士はほしいよ。
特に外交に行く際には必要だろう? 団長こそその必要性をわかっていて、ナナリーの存在を喜んでいるのではないのか?」
アドムもニヤリと笑った。
「まあな。五年後かと考えていたが、な」
ナナリーは目を見開いた。アシャード侯爵はサバルとナナリーの婚姻後でも、ナナリーの夢を叶える予定だったようだ。
「ナナリーのおかげで鍛錬に来る女性は増えた。彼女らの先駆者になってくれ」
「「「きゃあ!!!」」」
ナナリーに憧れて鍛錬に通うようになった淑女たちは学園の生徒たちである。ナナリーが自分たちのリーダーになりそうなことに彼女らから喜びの声がかかった。
特に子爵家男爵家のご令嬢にとって、卒業後の仕事に選べるものが増えることはとても喜ばしいことだ。女性がすべて刺繍好きとは限らない。
ナナリーは嬉しさのあまり涙ぐみ、ベレナとジゼーヌから祝福の言葉を受けていた。野次馬からも「おめでとう」「頑張ってください」「ナナリーお姉様!」と拍手が送られる。
アシャード侯爵閣下は、ナナリーの肩をポンと叩いて食堂を後にした。
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