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理由6 バカをご所望だから
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「だって! 俺はまだ学生だしっ!」
マテルジの形振り構わぬ言い訳にアドムのため息は大きさを増していく。
「『だって、だって』とお前は幼子か?
あのな? お前は何の努力もしていないじゃないか? Dクラスに甘んじているようでは国政には携わらせられないと前から伝えてあるはずだが?」
この学園では成績順にクラス分けされており、AクラスからEクラスまである。高官を目指す高位貴族の次男や三男は最低でもBクラスだ。中級文官ならDクラスでも可能だ。
しかし、王家の者が国政に関わるのに中級文官のようなことはさせられない。だからこそ本人の実力も必要である。
「卒業したら家庭教師を頼もうかと……」
マテルジは泣きそうなほど情けない顔をした。
「ここで一生懸命に学べば余計な予算は必要ないだろう?
卒業した後に、呑気に学生気分を続けるなどありえない。他の卒業生へ示しもつかないということがわからないのか?」
この国では、平民からの税金を多分に使っている学園であるという意識から、学園卒業生の就職や進学や婚姻など進路をはっきりさせることを通常としている。国の繁栄に繋がるようでなければ学園に通う貴族としての意味がないからだ。
研究や他国への留学などで勉強を続ける者もいるが、それはこの学園での勉強より高度なことをする者たちだ。
この時期の食堂では、進路が決まっていない者がツテでもコネでも出会いでもいいから懸命に探しているのだから、卒業後の話でもちきりになるわけだ。
それなのに、『卒業後に家庭教師で勉強し直し』する王族など問題外である。
「そうかっ! お前はそうやって国民の税金の無駄遣いを考えていたのだな。
尚更国政に携わらせられないなぁ」
アドムが目を閉じてウンウンと一人納得していた。マテルジは必死にブンブンと頭を横に降ったが、すでに『家庭教師を頼む予定である』と口にしてしまっているので意味がない。
「国や王家を思いやることができ自分が犠牲になることも厭わないうえに国政で役に立つ者と、成績が悪く更には婚約者でさえも大事にできず冤罪まで起こし損ねあげくに税金でのんびりしようなどと言う者。
国王陛下は、父としてそして為政者として、どちらの者を国に残したいと考える?」
マテルジは青から白に変わった。
隣国の女王はすでに五十歳を越えており、五人ほど愛人たちを離宮に住まわせている。国王女王に限り、一妻多夫や一夫多妻が許されている国なのだ。
『ダニアの園』と呼ばれる離宮は嫉妬の巣窟で、常に争いが絶えず死人も出るらしい。立ち回りが下手な者はすぐに殺されてしまうという噂だ。ダニアの花言葉は『男らしい』だがその噂は全く男らしくはない。
「そ! そうだ! 相手を変えるのは女王様に失礼ですっ! そうでしょう?」
マテルジは縋るようにアドムを見つめる。
「だから、父上は悩んでいたと言っただろう? はっきりと決めていなかったから、まだ婚姻の親書は出していない。あちらはナハトが候補であったことなど知らないのだ。親書はお前が持って行くんだよ。
まさかお前から女王陛下に『僕は代わりです』なんて言えないだろう? そんなことをしてその場で斬られても責任は持たないぞ」
斬られると言われて、マテルジは歯をガチガチとさせた。
「それにな、女王様はバカな方が良いとおっしゃられているのだ。それなら、ナハトからお前に代わったと知れば喜ばれるさ。
お前としても卒業後の仕事は決めていなかったようだからな。卒業せずともできる仕事が決まって万々歳じゃないか。
国と国とを結ぶ高尚な仕事だ。励めよ。
明日出発させる。支度はすでに始めているから安心しろ。
おい、連れて行ってくれ」
アドムが声をかけると近衛騎士が二人現れて、マテルジの両腕を持ち上げ、騒ぎ暴れるマテルジを連れ去った。
アドムは心の中で大きくため息をついた。アドムとてマテルジが可愛くないわけではない。だが、実力もなく更に努力をする姿も見せぬようでは王族として放置はできない。
マテルジにもっと干渉すればよかったとの思いもある。だが、王太子としての仕事が忙しく、それは無理であっただろう。
『私は未来の国王として、実弟をも送り出す判断もするべき立場なのだ。父を見習おう』
アドムはさらに気持ちを引き締め、マテルジの背中に国の繁栄を誓った。
マテルジの形振り構わぬ言い訳にアドムのため息は大きさを増していく。
「『だって、だって』とお前は幼子か?
あのな? お前は何の努力もしていないじゃないか? Dクラスに甘んじているようでは国政には携わらせられないと前から伝えてあるはずだが?」
この学園では成績順にクラス分けされており、AクラスからEクラスまである。高官を目指す高位貴族の次男や三男は最低でもBクラスだ。中級文官ならDクラスでも可能だ。
しかし、王家の者が国政に関わるのに中級文官のようなことはさせられない。だからこそ本人の実力も必要である。
「卒業したら家庭教師を頼もうかと……」
マテルジは泣きそうなほど情けない顔をした。
「ここで一生懸命に学べば余計な予算は必要ないだろう?
卒業した後に、呑気に学生気分を続けるなどありえない。他の卒業生へ示しもつかないということがわからないのか?」
この国では、平民からの税金を多分に使っている学園であるという意識から、学園卒業生の就職や進学や婚姻など進路をはっきりさせることを通常としている。国の繁栄に繋がるようでなければ学園に通う貴族としての意味がないからだ。
研究や他国への留学などで勉強を続ける者もいるが、それはこの学園での勉強より高度なことをする者たちだ。
この時期の食堂では、進路が決まっていない者がツテでもコネでも出会いでもいいから懸命に探しているのだから、卒業後の話でもちきりになるわけだ。
それなのに、『卒業後に家庭教師で勉強し直し』する王族など問題外である。
「そうかっ! お前はそうやって国民の税金の無駄遣いを考えていたのだな。
尚更国政に携わらせられないなぁ」
アドムが目を閉じてウンウンと一人納得していた。マテルジは必死にブンブンと頭を横に降ったが、すでに『家庭教師を頼む予定である』と口にしてしまっているので意味がない。
「国や王家を思いやることができ自分が犠牲になることも厭わないうえに国政で役に立つ者と、成績が悪く更には婚約者でさえも大事にできず冤罪まで起こし損ねあげくに税金でのんびりしようなどと言う者。
国王陛下は、父としてそして為政者として、どちらの者を国に残したいと考える?」
マテルジは青から白に変わった。
隣国の女王はすでに五十歳を越えており、五人ほど愛人たちを離宮に住まわせている。国王女王に限り、一妻多夫や一夫多妻が許されている国なのだ。
『ダニアの園』と呼ばれる離宮は嫉妬の巣窟で、常に争いが絶えず死人も出るらしい。立ち回りが下手な者はすぐに殺されてしまうという噂だ。ダニアの花言葉は『男らしい』だがその噂は全く男らしくはない。
「そ! そうだ! 相手を変えるのは女王様に失礼ですっ! そうでしょう?」
マテルジは縋るようにアドムを見つめる。
「だから、父上は悩んでいたと言っただろう? はっきりと決めていなかったから、まだ婚姻の親書は出していない。あちらはナハトが候補であったことなど知らないのだ。親書はお前が持って行くんだよ。
まさかお前から女王陛下に『僕は代わりです』なんて言えないだろう? そんなことをしてその場で斬られても責任は持たないぞ」
斬られると言われて、マテルジは歯をガチガチとさせた。
「それにな、女王様はバカな方が良いとおっしゃられているのだ。それなら、ナハトからお前に代わったと知れば喜ばれるさ。
お前としても卒業後の仕事は決めていなかったようだからな。卒業せずともできる仕事が決まって万々歳じゃないか。
国と国とを結ぶ高尚な仕事だ。励めよ。
明日出発させる。支度はすでに始めているから安心しろ。
おい、連れて行ってくれ」
アドムが声をかけると近衛騎士が二人現れて、マテルジの両腕を持ち上げ、騒ぎ暴れるマテルジを連れ去った。
アドムは心の中で大きくため息をついた。アドムとてマテルジが可愛くないわけではない。だが、実力もなく更に努力をする姿も見せぬようでは王族として放置はできない。
マテルジにもっと干渉すればよかったとの思いもある。だが、王太子としての仕事が忙しく、それは無理であっただろう。
『私は未来の国王として、実弟をも送り出す判断もするべき立場なのだ。父を見習おう』
アドムはさらに気持ちを引き締め、マテルジの背中に国の繁栄を誓った。
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