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理由3 センスが悪いから
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ジゼーヌがすっと頭を上げた。
「それに……わたくし、これ以上学園の外で恥ずかしい思いはしたくありませんし……」
「「まあ! 何がありましたの?(あったのです?)」」
「仕立て屋さんに『妹さんのお誕生日か何かですか?』と聞かれたのですわ。わたくしは何のことかわからずに、『妹はいません』と答えましたの」
ジゼーヌの兄弟は兄だけである。
「どうやら、あまりに幼いデザインのドレスの発注をライジーノ様がなさったようですの。
わたくしには、幼稚なデザインは似合わないそうなのです」
「「ジゼーヌ様はスタイルがとてもよろしいですものね」」
二人はうんうんと頷いた。ジゼーヌは制服でもわかるほどナイスバディだ。
「ありがとうございます。
ですが、恥ずかしいのはデザインだけではありませんのよ。
『あのドレスでは、入りませんよ』と言われてしまいましたの」
ジゼーヌは首をしょんぼりとさせて、右手を胸に置いた。
スザンヌとジゼーヌは、二人とも体は小さめである。二人の身長は同じくらいでウエストも同じくらいだ。
だが、胸部は凄まじく違いがある。
入り切らないのはジゼーヌの胸だ。
話の流れで野次馬たちの視線がジゼーヌの胸部へ向く。男たちは『ゴクリ』と喉を鳴らした。何人かの男たちは隣の女性から肘鉄を食らっている。肘鉄をしたのは、おそらく婚約者か恋人であろう。
「「まあ! それは辛かったですわね(ですね)」」
ベレナとナナリーは自分の目尻をすっと抑える。
「私は宝石商人との話で恥をかきましたよ」
ナナリーが眉を下げて困り顔をした。
「「まあ! どうなさいましたの?」」
「『先日のイヤリングはどうでしたか?』と聞かれたのです。サバル様がご注文なされたイヤリングを私へのプレゼントだと思ったようなのです」
サバルは思い当たりすぎて挙動不審な動きをする。
「その商人は『今どきハートのイヤリングを探すのは大変だった』と苦笑いしておりました」
「「まあ! 大きなハートのイヤリングは、流行遅れですものねぇ」」
ベレナとジゼーヌは首を縦に振って商人に同意した。
「それに、私の体型にはポテッとしたイヤリングより、繊細な鎖のピアスが似合うと言うのです」
長身のナナリーである。オレンジの髪をキレイにアップしているナナリーの耳元には、金で繊細な鎖、その先に小さな宝石が揺れて輝いている。
「「ええ、そちらはとってもお似合いですわぁ! 流行のデザインですのねっ! ステキっ!」」
「ありがとうございます。
ですが、流行遅れの大きなハートイヤリングをパーティーで付けたなどと思われてしまったのですよ。恥ずかしくて逃げ出したくなりました」
ベレナとジゼーヌはコクリコクリと二度頷いた。スザンヌの耳には今まさに流行遅れの大きなハートのイヤリングが輝いている。
流行に敏感な女子生徒たちのクスクス笑いが響く。
ナナリーとジゼーヌが学園の外での恥を語ったので、ベルナも続く。
「まさか、お二人も恥辱を味わったなんて……。実はわたくしもなんですのよ」
「「どうなさいましたの?」」
「わたくしは香水職人に『好みが変わったのか』と聞かれましたわ」
ベレナが悲しそうに俯く。
「「まあ!」」
「わたくし、花の香りよりハーブ系の香りを好みますの。それも、時と場合で香りも量も分けておりますのよ」
「「わかりますわ(わかります)。ベルナ様はいつもいい香りですもの(ですから)」」
「ありがとうございます。
ですが、その香水職人に『先日マテルジ殿下が香水を買われていましたが、ベレナ様なら使い方は大丈夫ですよね』と確認されましたの」
「「それは不思議ですねぇ」」
「ええ。わたくしも不思議に思い、その香りを試させていただきましたの」
ベルナが少し言い淀み、ギュッとハンカチを握りしめた。
「その香水は香りがキツ過ぎて、とてもとても普段使いできるものではありませんでしたの。だって、長期旅行の際に使う匂い消し用の香水でしたのよ」
香水をよく知る者たちはその場の匂いの原因がわかり顔を顰めた。その香りを知らない者たちもそこに漂うキツイ匂いに気がついている。
「そんな香水を日常的に使っていると思われているなんて……。
わたくし、香水職人に普段は汚くて臭い女だと思われてしまったのですわ」
ベレナが泣く仕草をして、ナナリーとジゼーヌが肩に手を置いた。
最近、スザンヌの香水の匂いは周りの者も眉を寄せていた。スザンヌは普段香水などつけたことがないからわからないのだ。そして『汚くて臭い女』だと自分で吹聴していることもわかっていない。
その香水は今も匂いを振りまいている。
「そ、そんな……。セ、センスなど人の勝手だよねっ!」
ライジーノは恥ずかしいのか怒っているのか目を潤ませて、口調は震えていた。
「「「ええ、そうですわね」」」
三人の淑女はウンウンと頷く。
「婚約者としてのプレゼントでしたら、我慢もいたしますわ」
「どうにかそれを使うこともやぶさかではありません」
「ですが、婚約者でない方へプレゼントをなさり、それでわたくしたちが恥をかくのは困りますわ」
「「「それではフォローができませんもの」」」
「っ!!」
ご令嬢3人はライジーノの言葉を認めながら貶した。ライジーノは二の句を告げなくなる。
「「「わたくし(私)のフォローが足りずに申し訳ありません」」」
ご令嬢三人は再び頭を下げる。
「「「ですので、婚約を解消してくださいませ」」」
「それに……わたくし、これ以上学園の外で恥ずかしい思いはしたくありませんし……」
「「まあ! 何がありましたの?(あったのです?)」」
「仕立て屋さんに『妹さんのお誕生日か何かですか?』と聞かれたのですわ。わたくしは何のことかわからずに、『妹はいません』と答えましたの」
ジゼーヌの兄弟は兄だけである。
「どうやら、あまりに幼いデザインのドレスの発注をライジーノ様がなさったようですの。
わたくしには、幼稚なデザインは似合わないそうなのです」
「「ジゼーヌ様はスタイルがとてもよろしいですものね」」
二人はうんうんと頷いた。ジゼーヌは制服でもわかるほどナイスバディだ。
「ありがとうございます。
ですが、恥ずかしいのはデザインだけではありませんのよ。
『あのドレスでは、入りませんよ』と言われてしまいましたの」
ジゼーヌは首をしょんぼりとさせて、右手を胸に置いた。
スザンヌとジゼーヌは、二人とも体は小さめである。二人の身長は同じくらいでウエストも同じくらいだ。
だが、胸部は凄まじく違いがある。
入り切らないのはジゼーヌの胸だ。
話の流れで野次馬たちの視線がジゼーヌの胸部へ向く。男たちは『ゴクリ』と喉を鳴らした。何人かの男たちは隣の女性から肘鉄を食らっている。肘鉄をしたのは、おそらく婚約者か恋人であろう。
「「まあ! それは辛かったですわね(ですね)」」
ベレナとナナリーは自分の目尻をすっと抑える。
「私は宝石商人との話で恥をかきましたよ」
ナナリーが眉を下げて困り顔をした。
「「まあ! どうなさいましたの?」」
「『先日のイヤリングはどうでしたか?』と聞かれたのです。サバル様がご注文なされたイヤリングを私へのプレゼントだと思ったようなのです」
サバルは思い当たりすぎて挙動不審な動きをする。
「その商人は『今どきハートのイヤリングを探すのは大変だった』と苦笑いしておりました」
「「まあ! 大きなハートのイヤリングは、流行遅れですものねぇ」」
ベレナとジゼーヌは首を縦に振って商人に同意した。
「それに、私の体型にはポテッとしたイヤリングより、繊細な鎖のピアスが似合うと言うのです」
長身のナナリーである。オレンジの髪をキレイにアップしているナナリーの耳元には、金で繊細な鎖、その先に小さな宝石が揺れて輝いている。
「「ええ、そちらはとってもお似合いですわぁ! 流行のデザインですのねっ! ステキっ!」」
「ありがとうございます。
ですが、流行遅れの大きなハートイヤリングをパーティーで付けたなどと思われてしまったのですよ。恥ずかしくて逃げ出したくなりました」
ベレナとジゼーヌはコクリコクリと二度頷いた。スザンヌの耳には今まさに流行遅れの大きなハートのイヤリングが輝いている。
流行に敏感な女子生徒たちのクスクス笑いが響く。
ナナリーとジゼーヌが学園の外での恥を語ったので、ベルナも続く。
「まさか、お二人も恥辱を味わったなんて……。実はわたくしもなんですのよ」
「「どうなさいましたの?」」
「わたくしは香水職人に『好みが変わったのか』と聞かれましたわ」
ベレナが悲しそうに俯く。
「「まあ!」」
「わたくし、花の香りよりハーブ系の香りを好みますの。それも、時と場合で香りも量も分けておりますのよ」
「「わかりますわ(わかります)。ベルナ様はいつもいい香りですもの(ですから)」」
「ありがとうございます。
ですが、その香水職人に『先日マテルジ殿下が香水を買われていましたが、ベレナ様なら使い方は大丈夫ですよね』と確認されましたの」
「「それは不思議ですねぇ」」
「ええ。わたくしも不思議に思い、その香りを試させていただきましたの」
ベルナが少し言い淀み、ギュッとハンカチを握りしめた。
「その香水は香りがキツ過ぎて、とてもとても普段使いできるものではありませんでしたの。だって、長期旅行の際に使う匂い消し用の香水でしたのよ」
香水をよく知る者たちはその場の匂いの原因がわかり顔を顰めた。その香りを知らない者たちもそこに漂うキツイ匂いに気がついている。
「そんな香水を日常的に使っていると思われているなんて……。
わたくし、香水職人に普段は汚くて臭い女だと思われてしまったのですわ」
ベレナが泣く仕草をして、ナナリーとジゼーヌが肩に手を置いた。
最近、スザンヌの香水の匂いは周りの者も眉を寄せていた。スザンヌは普段香水などつけたことがないからわからないのだ。そして『汚くて臭い女』だと自分で吹聴していることもわかっていない。
その香水は今も匂いを振りまいている。
「そ、そんな……。セ、センスなど人の勝手だよねっ!」
ライジーノは恥ずかしいのか怒っているのか目を潤ませて、口調は震えていた。
「「「ええ、そうですわね」」」
三人の淑女はウンウンと頷く。
「婚約者としてのプレゼントでしたら、我慢もいたしますわ」
「どうにかそれを使うこともやぶさかではありません」
「ですが、婚約者でない方へプレゼントをなさり、それでわたくしたちが恥をかくのは困りますわ」
「「「それではフォローができませんもの」」」
「っ!!」
ご令嬢3人はライジーノの言葉を認めながら貶した。ライジーノは二の句を告げなくなる。
「「「わたくし(私)のフォローが足りずに申し訳ありません」」」
ご令嬢三人は再び頭を下げる。
「「「ですので、婚約を解消してくださいませ」」」
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