上 下
2 / 17

理由2 無下にするから

しおりを挟む
「わたくし……
わたくしはこれ以上、殿下に無下にされることを良しとできませんの」

 ベレナが縋るような視線をマテルジに向けた。マテルジはベルナのそのような表情を見たことがなかったので仰け反った。

「ベレナ様。私もです……」

 ナナリーがハンカチで目尻を抑える。

「「ナナリー様……」」

「私はすでにここ一年ほど、婚約者の義務であるお茶会をキャンセルされております」

 ナナリーが目を細めて婚約者サバルを見た後、憂いを帯びた目で床を見つめた。

「毎回お茶会の用意をしてくれる執事やメイドに申し訳ないので、『予定がつきましたらご連絡ください』とお願いしました。
しかし……一度も連絡はいただけませんでした」

「「まあ! わたくしもですわ……」」

 ベレナとジゼーヌが小さく左右に首を振って自分の眦にハンカチを置く。

 ジゼレーヌが首をもたげる。

「さらに、わたくしは……」

「「ジゼレーヌ様……」」

「わたくしは、パーティーのエスコートもここ一年ほど、突然のお断りをされておりますのよ。婚約者様とご一緒にとお誘いのパーティーが多ございましょう。ですから、パーティーにも参加できておりませんの」

 ジゼーヌは婚約者ライジーノをちらりと見やってからハンカチで眦を押さえた。

「パーティーに参加しないのにドレスを作ることは無駄遣いでしょう。ですから『出席なさるパーティーを教えてください』とお願いいたしましたの。
ですけど……一度も教えてはいただけておりませんわ」

「「まあ! わたくしも(私も)です」」

 ベレナとナナリーが賛同して、小さく頷いた。

「わたくしは先日のお誕生日に、プレゼントも届きませんでしたのよ……」

 ベルナは婚約者マテルジを一瞥もしない。

「こちらからのお誕生日プレゼントへのお手紙もありませんでしたわ」

「「まあ! わたくしも(私も)です……」」

 ベレナの腕にナナリーとジゼーヌが手を置いた。

 三人それぞれの『不実され自慢』かと思いきや、男ども三人が揃って『不実』を働いているようだ。野次馬たちはニヤニヤする者、軽蔑の眼差しを向ける者、クスクス笑いながら話をしている者がいるが、みなその後の展開を興味を持って待っている。

「それはっ! 我々は忙しい身なのだ! 当日に用事ができることもあるだろうっ!」

 サバルが声を荒げて反論した。
 それを聞いたナナリーはウンウンと二度三度首を縦に振る。

「そうですよね。前々から決まっていた日にちにも関わらず、その日に限って、何度も連続で用事ができる……。
そんな偶然は……ありますよねぇ……」

 ナナリーはサバルを肯定した。否定されれば反論できるが、肯定されてはそれ以上言えなくなる。サバルは目をキョドらせて口籠った。

「さらには、毎日毎日予定があって、一年もご連絡することさえもできない。
ことも……ありますよねぇ……?」

「「「プッ!」」」

 ナナリーが口では肯定しながら首を傾げると、野次馬たちは失笑した。

 今度はジゼーヌが頷く。

「そうですわね。わたくしたちのエスコートをキャンセルしたにも拘らず、なぜかエスコートをキャンセルしてきたご本人がパーティーには出席なさる。そのパーティーに呼ばれていないご令嬢を伴って……。
そういうことも…………あることですわよねぇ」

 ライジーノが、アワアワとしている。それを見たジゼーヌはライジーノに笑顔を見せた。

「そして、わたくしたちがパーティー主催者様からご心配してくださるお手紙をもらうことになり、お返事に窮する……。
そういうこともありますわよねぇ」

 ジゼーヌも否定しない。

「そうですわね。毎日毎日、他の方との逢瀬が忙しくて、プレゼントの用意もしないどころか、婚約者の誕生日さえも忘れることは…………偶然、ありますわよねぇ」

 ベレナもサバルを否定しなかった。
 が、男子生徒三人には周りから冷たい視線が飛ぶ。

「そして、『ありがとう』一言のカードも書けないほど忙しいことも…………
ありますわよねぇ」

 ご令嬢三人がウンウンと頷き、そして姿勢を正した。

「「「無下にされることに辛抱できなくて申し訳ありません」」」

 ご令嬢三人は再び頭を下げる。

「「「ですので、婚約を解消してくださいませ」」」
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。

水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。 ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。 翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。 アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。 追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。 しかし皇太子は知らなかった。 聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。 散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。

婚約破棄?それならこの国を返して頂きます

Ruhuna
ファンタジー
大陸の西側に位置するアルティマ王国 500年の時を経てその国は元の国へと返り咲くために時が動き出すーーー 根暗公爵の娘と、笑われていたマーガレット・ウィンザーは婚約者であるナラード・アルティマから婚約破棄されたことで反撃を開始した

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)

ラララキヲ
ファンタジー
 学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。 「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。  私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」 「……フフフ」  王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!  しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?  ルカリファスは楽しそうに笑う。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...