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しおりを挟む「レイジーナとフローエラはどこへ消えたのだ! 南離宮にいるという報告は間違いだったのか!」
「いえ、王妃宮より南離宮へお移りになったことは間違いございません」
「それも、実は数週間も前から気配がなかったというではないかっ! お前たちの情報はどうなっているのだっ!」
離婚が確定した今、王妃ではなくなったレイジーナが離宮に留まることは無理がある。例えその無理を通したとしても離宮の管理金は国庫を使えるはずもなく、公爵家が負担することになるが、散財が大好きな大人が四人もいればお金が有り余っているはずもない。レイジーナが実家を頼ることはないだろうが……。
レイジーナの兄公爵夫妻はそんなことにも気が付けないほど、立場が下降するだろうということを受け止めることができなかった。公爵は癇癪を起こし邸の調度品を壊しまくり、夫人は泣きながらアカデミーにいる息子たちに手紙を何度も送るが返信がくることはなくアカデミーに乗り込むも門前払いされた。そうしていると公爵家にレイジーナとフローエラの離籍認定書が送られてくる。それには玉璽がしっかりと押されていた。
二代に渡り実娘の教育に失敗したと噂された公爵家は求心力を急激に低下させることになった。社交へ赴くも誰にも相手にされずイライラを撒き散らし、夫人は社交どころか部屋からも一歩も出てこなくなった。
公爵夫妻は国王の助言という名の命令により隠居生活をすることになり、領地の端にあるうら淋しい別荘に監視付きで生活をすることになる。その離れにはレイジーナの両親前公爵夫妻がすでに来ていたことに兄は国王の苛立ちを感じ大人しくせざるを得ない状況を理解することになった。
レイジーナの叔父に当たる男が代理公爵に指名される。そしてフローエラの弟たちはアカデミーを休学して屋敷に戻り、代理公爵による精神的な再教育がなされることになった。弟たちはフローエラの優秀さを見てきており、さらには優秀な女性たちの存在も目にしていて、自分たちが両親に植え付けられてきた姉へのイメージや女性の役割が間違っているのではと考え始めていたので、代理公爵からの教育を柔順に受け入れていく。
「港が見えてまいりましたわ」
薄い黄色のワンピースを着た少女が馬車の窓を開けると肩までの長さの赤いメッシュの入った銀髪がふわふわと揺れる。反対側に座る婦人の青みの入った銀髪もサラサラと風に遊んでいた。
「ふふふ。ローラが嬉しそうでよかった」
ローラは窓を閉めると婦人の隣に腰をかけた。その婦人も派手ではないが上質で気品がある動きやすそうなワンピース姿だ。紺色のワンピースは背中まで伸びる銀髪に似合っている。
「それにしてもあんなに可愛らしかったのにもったいない」
少女の短い髪を撫でた。
「これからまた伸ばします。その時にはおリボンを一緒に選んでもらえますか?」
不安そうに見上げた目で髪が伸びるまでの期間をねだる。
『王都を離れてからまるで幼児退行したみたいだわ。この子が安心するまで何度でも答えてあげよう』
「もちろんよ。モニーに最高のものを見せてもらいましょうね。そうだわ。おリボンは短い髪でも可愛らしいのよ。落ち着いたらお買い物しましょうね。わたくしと色違いのお揃いにしましょう」
「レジー様とお揃いですか?」
明るい笑顔を見てフッと目元を緩ませた。
「ローラ。「お母さん」よ。今日からはわたくしたちのことを知らない者たちもたくさん会うわ」
「わかりました。ごめんなさい」
失敗したことにしょぼくれる少女をそっと抱いた。
「それにわたくしはローラの本当の母親になりたいの。隣国へ行ったらその方法を探しましょうね。モニーも協力してくれるからきっとすぐにそうなるわ」
「本当のお母さん……」
ローラはレイジーナの背中をぎゅっと抱き返した。
ある日の早朝、子爵家から地味な馬車が出立した。到着したのは小さな教会で、黒いドレスに黒い帽子、黒いベールの婦人が降り立ち、一人で中に消える。これは毎月一度の儀式となっている。
祭壇の前で立て膝になり祈る。
「レイ。二人が旅立ったわ。貴女が苦しめられた鎖を断ち切ったの。レジーならローラを守れるわ。だから、わたくしはこの国でディを支えていく。
わたくし、ここへはもう来ない。やっと前を向く決心ができたわ」
婦人は立ち上がってドアへ向かった。ドアに手をかけてから振り向く。
「一年に一回だけ会いにきてあげる。淋しがりなさい。わたくしに相談しなかった罰よ。わたくし、少し怒っているんですからね」
晴れ晴れとした笑顔でそのドアを出て行った。
『神様……いつもモニカの言葉を聞かせてくださってありがとうございます。わたくしの感情を残してくださるお慈悲に感謝いたします。これからもおそばに置いてくださいませ』
金色のものが真っ白な椅子に腰掛ける真っ白な女性のまわりをクルクルとまわってからふわっと消えた。
「銀の子はよく頑張ったわね。管理人としてはこれは嬉しいわ。金の子も随分柔らかい色になった」
女性は優雅に足を組み直して手のひらを上に向ける。女性の手のひらの上に大きめの鏡のようなものが現れた。
「さあ。他の子たちはどうかしら?」
神様と呼ばれる管理人の見守りは続く。
「いえ、王妃宮より南離宮へお移りになったことは間違いございません」
「それも、実は数週間も前から気配がなかったというではないかっ! お前たちの情報はどうなっているのだっ!」
離婚が確定した今、王妃ではなくなったレイジーナが離宮に留まることは無理がある。例えその無理を通したとしても離宮の管理金は国庫を使えるはずもなく、公爵家が負担することになるが、散財が大好きな大人が四人もいればお金が有り余っているはずもない。レイジーナが実家を頼ることはないだろうが……。
レイジーナの兄公爵夫妻はそんなことにも気が付けないほど、立場が下降するだろうということを受け止めることができなかった。公爵は癇癪を起こし邸の調度品を壊しまくり、夫人は泣きながらアカデミーにいる息子たちに手紙を何度も送るが返信がくることはなくアカデミーに乗り込むも門前払いされた。そうしていると公爵家にレイジーナとフローエラの離籍認定書が送られてくる。それには玉璽がしっかりと押されていた。
二代に渡り実娘の教育に失敗したと噂された公爵家は求心力を急激に低下させることになった。社交へ赴くも誰にも相手にされずイライラを撒き散らし、夫人は社交どころか部屋からも一歩も出てこなくなった。
公爵夫妻は国王の助言という名の命令により隠居生活をすることになり、領地の端にあるうら淋しい別荘に監視付きで生活をすることになる。その離れにはレイジーナの両親前公爵夫妻がすでに来ていたことに兄は国王の苛立ちを感じ大人しくせざるを得ない状況を理解することになった。
レイジーナの叔父に当たる男が代理公爵に指名される。そしてフローエラの弟たちはアカデミーを休学して屋敷に戻り、代理公爵による精神的な再教育がなされることになった。弟たちはフローエラの優秀さを見てきており、さらには優秀な女性たちの存在も目にしていて、自分たちが両親に植え付けられてきた姉へのイメージや女性の役割が間違っているのではと考え始めていたので、代理公爵からの教育を柔順に受け入れていく。
「港が見えてまいりましたわ」
薄い黄色のワンピースを着た少女が馬車の窓を開けると肩までの長さの赤いメッシュの入った銀髪がふわふわと揺れる。反対側に座る婦人の青みの入った銀髪もサラサラと風に遊んでいた。
「ふふふ。ローラが嬉しそうでよかった」
ローラは窓を閉めると婦人の隣に腰をかけた。その婦人も派手ではないが上質で気品がある動きやすそうなワンピース姿だ。紺色のワンピースは背中まで伸びる銀髪に似合っている。
「それにしてもあんなに可愛らしかったのにもったいない」
少女の短い髪を撫でた。
「これからまた伸ばします。その時にはおリボンを一緒に選んでもらえますか?」
不安そうに見上げた目で髪が伸びるまでの期間をねだる。
『王都を離れてからまるで幼児退行したみたいだわ。この子が安心するまで何度でも答えてあげよう』
「もちろんよ。モニーに最高のものを見せてもらいましょうね。そうだわ。おリボンは短い髪でも可愛らしいのよ。落ち着いたらお買い物しましょうね。わたくしと色違いのお揃いにしましょう」
「レジー様とお揃いですか?」
明るい笑顔を見てフッと目元を緩ませた。
「ローラ。「お母さん」よ。今日からはわたくしたちのことを知らない者たちもたくさん会うわ」
「わかりました。ごめんなさい」
失敗したことにしょぼくれる少女をそっと抱いた。
「それにわたくしはローラの本当の母親になりたいの。隣国へ行ったらその方法を探しましょうね。モニーも協力してくれるからきっとすぐにそうなるわ」
「本当のお母さん……」
ローラはレイジーナの背中をぎゅっと抱き返した。
ある日の早朝、子爵家から地味な馬車が出立した。到着したのは小さな教会で、黒いドレスに黒い帽子、黒いベールの婦人が降り立ち、一人で中に消える。これは毎月一度の儀式となっている。
祭壇の前で立て膝になり祈る。
「レイ。二人が旅立ったわ。貴女が苦しめられた鎖を断ち切ったの。レジーならローラを守れるわ。だから、わたくしはこの国でディを支えていく。
わたくし、ここへはもう来ない。やっと前を向く決心ができたわ」
婦人は立ち上がってドアへ向かった。ドアに手をかけてから振り向く。
「一年に一回だけ会いにきてあげる。淋しがりなさい。わたくしに相談しなかった罰よ。わたくし、少し怒っているんですからね」
晴れ晴れとした笑顔でそのドアを出て行った。
『神様……いつもモニカの言葉を聞かせてくださってありがとうございます。わたくしの感情を残してくださるお慈悲に感謝いたします。これからもおそばに置いてくださいませ』
金色のものが真っ白な椅子に腰掛ける真っ白な女性のまわりをクルクルとまわってからふわっと消えた。
「銀の子はよく頑張ったわね。管理人としてはこれは嬉しいわ。金の子も随分柔らかい色になった」
女性は優雅に足を組み直して手のひらを上に向ける。女性の手のひらの上に大きめの鏡のようなものが現れた。
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神様と呼ばれる管理人の見守りは続く。
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