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45 変化
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少女たちの茶会の席も変化があった。フローエラが全く参加しなくなったのだ。その代わり、メリンダの周りにはバードルの妹シアリーゼとスペンサーの妹ナーシャリーが付き添っていた。二人はメリンダより年下であるが、王妃からの覚えがめでたい二家の令嬢であるため、間接的にメリンダは一目置かれる存在となっていく。逆に「フローエラは妃殿下に見捨てられるのではないか」という憶測まで飛び交う。
とはいえ、レイジーナは元々茶会やパーティーには参加しないのであくまでも憶測だ。しかし、未来の国王アランディルスの側近バードルの妹シアリーゼと、元侯爵令嬢で現子爵夫人で社交界の流行を牽引しているモニエリーカの娘ナーシャリーが付き添っているというだけでかなりの箔付けになっているのは間違いない。バードルの父親は騎士爵を受けバードルの代では男爵になると噂をされたうえにシアリーゼはアカデミーの一年生で優秀さを見せている。ナーシャリーはすでにオシャレ番長で、メリンダの服装についてアドバイスしていることは二人からの会話ですぐにわかることだった。
「メリンダ様のドレスはブティックリカの特注ですの?」
ブティックリカはモニエリーカの店である。
「いえ、既製品に装飾だけオーダーメイドです。わたくしはあまりわからないのでナーシャリー様に頼り切りなのですが」
「メリンダ様はすでに大人の女性に近いのでデザイナーがそのバランスを上手く取り入れていますのよ」
「既製品でもそこまでできますのね」
「わたくしの家ではデザイナーが来て採寸などで一日潰れてしまいますのよ。さらに後日お直しです。出来上がりも三ヶ月でしょう。本当にあれは疲れますわ」
「ここだけのお話。わたくし、その三ヶ月で太ってしまって着れなくなったことがありますのよ」
「まあ!」「うふふふ」「ありますわよねぇ」
女の子たちは同意して笑う。
「ブティックリカではおおよそのサイズを試着して、サイズがわかればそこから好きなデザインを選びます。細かい直しがあっても三日でお手元へお届けしますわ」
「ナーシャリー様はいつでもブティックを後継できそうですわね」
「まだまだお母様には敵いませんわ」
「メリンダ様はアカデミーで優秀だとお聞きしましたわ。どのようなお勉強をされていますの?
シアリーゼ様とご一緒の時もありますの?」
メリンダが簡潔に説明すると少女たちはその未知な世界に目を輝かせて聞き入った。シアリーゼの一年生なりの説明にも少女たちは心躍らせる。
知識が高く話題が豊富なメリンダは貴族子女たちに人気者になっていた。
そしてその年の半分ほどが過ぎた頃、毎年のように開かれる長期休み前のパーティーで騒ぎが起きた。
アランディルスがフローエラを断罪したのだ。フローエラを取り巻いていた男子生徒たちはそそくさと距離をとり、フローエラは孤立してアランディルスの言葉を受けていた。メリンダはアランディルスを止めようとし、そのメリンダをバードルが引き止める。
一人で毅然と立っているフローエラを見かねたメリンダはバードルを振り切ってアランディルスの袖を引いた。フローエラが眉を寄せる。
「メリンダ様。そのようなお仕草はおやめなさいませ」
もの静かだが威圧の込められた声でフローエラは注意した。
「す、すみません!」
メリンダが慌てて手を離すとフローエラが小さく嘆息する。
「フローエラ! いい加減にしろ!」
「左様でございますか。では、わたくしは退場いたしますわ。アランディルス王子殿下。御前を失礼いたします」
フローエラは優美なカーテシーを披露し踵を返すとその場を辞した。ピンク色の髪がふわりと揺れる。
『さようなら。お兄様……』
颯爽と歩くフローエラの瞳が少し潤んでいたことに気がつく者はいない。ただ一人、フローエラの消えたドアとは別のドアからそっと出て行った者がいることに気がついたのはそれを知っているアランディルスとバードルとシアリーゼだけだ。
学生寮に外出届けを出し専属メイドエクアとともに出かけたフローエラは翌日もその翌日も一週間経っても戻ってこなかった。
さらには、そのパーティーの日以降、フローエラが王妃宮に足を踏み入れることは一度もない。
とはいえ、レイジーナは元々茶会やパーティーには参加しないのであくまでも憶測だ。しかし、未来の国王アランディルスの側近バードルの妹シアリーゼと、元侯爵令嬢で現子爵夫人で社交界の流行を牽引しているモニエリーカの娘ナーシャリーが付き添っているというだけでかなりの箔付けになっているのは間違いない。バードルの父親は騎士爵を受けバードルの代では男爵になると噂をされたうえにシアリーゼはアカデミーの一年生で優秀さを見せている。ナーシャリーはすでにオシャレ番長で、メリンダの服装についてアドバイスしていることは二人からの会話ですぐにわかることだった。
「メリンダ様のドレスはブティックリカの特注ですの?」
ブティックリカはモニエリーカの店である。
「いえ、既製品に装飾だけオーダーメイドです。わたくしはあまりわからないのでナーシャリー様に頼り切りなのですが」
「メリンダ様はすでに大人の女性に近いのでデザイナーがそのバランスを上手く取り入れていますのよ」
「既製品でもそこまでできますのね」
「わたくしの家ではデザイナーが来て採寸などで一日潰れてしまいますのよ。さらに後日お直しです。出来上がりも三ヶ月でしょう。本当にあれは疲れますわ」
「ここだけのお話。わたくし、その三ヶ月で太ってしまって着れなくなったことがありますのよ」
「まあ!」「うふふふ」「ありますわよねぇ」
女の子たちは同意して笑う。
「ブティックリカではおおよそのサイズを試着して、サイズがわかればそこから好きなデザインを選びます。細かい直しがあっても三日でお手元へお届けしますわ」
「ナーシャリー様はいつでもブティックを後継できそうですわね」
「まだまだお母様には敵いませんわ」
「メリンダ様はアカデミーで優秀だとお聞きしましたわ。どのようなお勉強をされていますの?
シアリーゼ様とご一緒の時もありますの?」
メリンダが簡潔に説明すると少女たちはその未知な世界に目を輝かせて聞き入った。シアリーゼの一年生なりの説明にも少女たちは心躍らせる。
知識が高く話題が豊富なメリンダは貴族子女たちに人気者になっていた。
そしてその年の半分ほどが過ぎた頃、毎年のように開かれる長期休み前のパーティーで騒ぎが起きた。
アランディルスがフローエラを断罪したのだ。フローエラを取り巻いていた男子生徒たちはそそくさと距離をとり、フローエラは孤立してアランディルスの言葉を受けていた。メリンダはアランディルスを止めようとし、そのメリンダをバードルが引き止める。
一人で毅然と立っているフローエラを見かねたメリンダはバードルを振り切ってアランディルスの袖を引いた。フローエラが眉を寄せる。
「メリンダ様。そのようなお仕草はおやめなさいませ」
もの静かだが威圧の込められた声でフローエラは注意した。
「す、すみません!」
メリンダが慌てて手を離すとフローエラが小さく嘆息する。
「フローエラ! いい加減にしろ!」
「左様でございますか。では、わたくしは退場いたしますわ。アランディルス王子殿下。御前を失礼いたします」
フローエラは優美なカーテシーを披露し踵を返すとその場を辞した。ピンク色の髪がふわりと揺れる。
『さようなら。お兄様……』
颯爽と歩くフローエラの瞳が少し潤んでいたことに気がつく者はいない。ただ一人、フローエラの消えたドアとは別のドアからそっと出て行った者がいることに気がついたのはそれを知っているアランディルスとバードルとシアリーゼだけだ。
学生寮に外出届けを出し専属メイドエクアとともに出かけたフローエラは翌日もその翌日も一週間経っても戻ってこなかった。
さらには、そのパーティーの日以降、フローエラが王妃宮に足を踏み入れることは一度もない。
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