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41 公爵

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 そして翌日入学式を迎えた。入学式の前にフローエラに接見を求めた公爵であったがそれをフローエラに拒否されたにも関わらず、保護者席にて自分の娘であると猛アピールしている。

「これくらいの教養がなくては王妃の座は務まりませんからな。幼い頃から私が直接指導してきたことが良かったのでしょうなぁ」

 フローエラを王妃レイジーナに預けっぱなしなことを知っている高位貴族たちは軽蔑けいべつの眼差しであったが、まわりにチヤホヤする下位貴族たちをはべらせた公爵はホクホク顔だった。公爵のかたわらにはいるべき公爵夫人の姿はなかったが、公爵夫人の息子たちへの溺愛は有名であったため気にする者はいなかった。

 フローエラが新入生代表の言葉を述べると立ち上がって拍手する公爵は学校関係者によって退場させられた。その後ろ姿にフローエラは唖然としていたが、教員に促されて自席に戻る。

「ローラ、大丈夫かい?」

 隣の席のスペンサーが心配して小声で確認してきて、フローエラは我を取り戻した。

「大丈夫。三年会わないうちに随分と変わっていたからびっくりしたの。お父様が私を見ているなんて……なぜか喜べないわ……」

 スペンサーは「あはは」と声だけ笑った。

 入学式を終えたフローエラは学園長室に呼ばれる。そこに待っていた人物に安心して笑顔が輝く。

「レジー様!」

 可愛らしく駆け寄るフローエラをそっと抱きしめた。

「ローラ。とても立派な代表の言葉だったわ」

「見ていてくれたんですか?」

「もちろんよ。あれのせいで雰囲気が壊れてしまったのが悔しいわ。昨日といい今日といい、驚いたでしょう?」

 レイジーナは優しく頭を撫でた。

「大丈夫です。二人の反応は正反対でしたけど、二人共、わたくしがアカデミーの首席でなければ興味を示さないことは同じだと確認できました」

 この三年間公爵夫妻から面会の要請も、手紙のやり取りもない。だから二人共驚いたのだろう。

「貴女の弟は優秀らしいけど、さすがに十二歳でアカデミーに入学は難しいと夫人は思っているのでしょうね。それにディとの繋がりを求めたりディの専攻を見たりして、専攻科目の人気ジャンルが変化したようなの。だから、勉強し直す者が増えて卒業申請は減ると予想されるわ。今年は三十名だったでしょう、来年はもっと……」

 アランディルスたちのときは五十名だったのだから、今年は本当に狭き門であった。

「妃殿下、それだけではありません。再入学試験を受ける者まで現れました」

 学園長は困り顔で笑った。これまでそのような考えをする者がいなかったため、去年の卒業生が今年の受験生の一人であるのを見て学園は大慌てで対応した。垣根のない学力主義を掲げているため拒否はできなかったが、『同一人物の入学は二度まで』と明記することになったのだ。

 そこにノックの音がしてアランディルスが入ってきた。

「母上。僕の時にはいらっしゃらなかったのに」

 ふぅと呆れたように両手を上に向けて近づいてくるとフローエラの髪を笑顔で撫でる。

「頑張ったね」

「王子殿下の妹分が無様であるわけには参りませんもの。ふふふ、お兄様に褒めていただけてホッとしたしましたわ」

「そろそろ保護者たちも帰ったかしら? わたくしも行くわね。ディ。あの約束は忘れないで。ローラ。学生時代を楽しみなさい」

「わかってる」「はい、レジー様」

「ローラ。ミーティングルームまで案内するよ。そろそろ新入生説明会が始まる」

 二人が学園長室を出ていくとレイジーナはソファに座った。学園長が新入生名簿を渡す。

「やはり合格してたのね……ヒロインが……」

 小さな声は学園長までは届かない。そこには『男爵令嬢メリンダ』の名前があった。メリンダはアランディルスたちと同じ年齢だ。

『私が知っている物語とは齟齬そごが生まれているわ。これがどのように作用するかわからない。あの子達が傷つくことがないようにしたいわ』

 レイジーナはアランディルスが十歳になり王子宮へ行ったときに思い出したことがあった。それはこの世界に似ている物語を読んだことがあることだった。 
 
 
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