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33 ドレス
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フローエラの部屋に衣装ケースを運びクローゼットの前にそれを広げるとエクアが押さえていた怒りを爆発させて声を上げた。
「なんなんですっ? これっ!」
「エクア。声を荒げないの。ローラが怯えているわ」
扉が開かれその前にレイジーナとフローエラがいた。レイジーナの少し後ろに立つフローエラは口を押さえて顔を青くしていた。エクアは猛ダッシュでフローエラの前に行き跪いて、フローエラの肘に触れる。
「ローラ様。申し訳ありません」
ガレンが実兄公爵には「侍女見習いだから」と言って呼び捨てにしていたが、それはあくまでも建前である。実際はレイジーナの姪として丁寧にそれでいて親しげに扱われており、使用人たちは「ローラ様」と呼んでいる。
悲しげに顔を歪めたエクアがフローエラの顔を覗き込むように見上げた。
「私は今日、ローラ様のお荷物が届くと聞いて、ローラ様の可愛らしさを更に引き立てられるのだととても……とっても楽しみにしていたのです。それで……その……」
エクアは項垂れて手を床に落とした。
「確かにこれはがっかりする気持ちもわかるわ」
いつの間にかクローゼットの前にいるレイジーナがケースからひらりと出した一枚のドレスは黒に近い紺色で襟は白だがそれ以外の装飾はほとんどない。ドレスというよりは修道服である。
「どれもこれも……地味ねぇ」
茶色やグレーのドレスを一枚一枚持ち上げて落としていくレイジーナのおどけるような言葉にメイドたちは小さく笑ったがフローエラは下を向いてしまった。
「ローラ様……」
エクアが目に涙を溜める。
しなやかな動きでレイジーナがフローエラの前に来て、フローエラの視線になるように膝を抱えた。
「ローラ。わたくし、貴女のドレスがこのようなものであったことがとっっっっても嬉しいわ!」
フローエラとエクアが驚きの形相でレイジーナを見た。
「わたくしがお手伝いしているお洋服のお店があるのよ。そのお洋服たちを是非ローラに着てもらいたいなって思っていたの。でも、お兄様が用意したものとお色やデザインが被ってしまっては困るでしょう。あれならぜっっっったいに同じではないわ」
レイジーナの言葉にフローエラはキョトンとして、エクアは目をキラキラと輝かせた。
「さあ! ローラ! 小ダンスホールへ行きましょう!」
立ち上がったレイジーナがフローエラの手をサッと握ってそのまま引いていくと、エクアたちも後ろについていく。ガレンはその後姿を慈愛あふれる瞳で見送った。
「さてと。とっとと処分してしまいましょう!」
「「はいっ!」」
残ったメイドたちは明るく返事をした。
小ダンスホールへの扉の前でレイジーナが止まる。
「ローラ。この扉を開けてごらんなさい」
フローエラはコクリと頷くと前に進み扉に手を当てる。フローエラが押すタイミングを見計らって護衛騎士二人が両開き扉を押し開けた。
「うわぁ」
フローエラの前にはパステルカラーがあふれるほどに咲き乱れている。きらきらしてまぶしくて女の子をわくわくさせるような空間になっていた。
「すごい……」「すてきぃ」
エクアたち若いメイドも感嘆の声を上げた。
フローエラたちが呆けていると奥にいたメガネを掛けた女性がこちらに気がついた。開いた扉の中央に立つ少女を見ると驚いた後には顔が緩むのを止められないとばかりににやけさせ小走りにやってくる。フローエラは呆けから硬直に変わったがそれもお構いなしでずんずんと近寄ってきた。
「まあまあまあまあ! レイジーナ様ったらこぉんな天使ちゃんをどこに隠していらっしゃったのですぅ?
赤みのさす銀色の御髪がふわふわですし、そのぱっちりきらきらおめめは赤紫水晶でできていらっしゃるの? 桃色のつやつやほっぺを食べちゃいたいわ」
これまで「食べちゃいたいくらいかわいい」という表現をされたことがないフローエラは本当に食べられてしまうと慌てて頬を隠した。
「まあああああ! お仕草までお可愛らしいなんて」
メガネの女性は立ちくらみのようなポーズをする。
「ああ! 大丈夫ですか?」
派手なアクションを見慣れていないので今度は手を口に当てて驚きながらもその女性の心配をした。レイジーナがフローエラに並んで立つ。
「ケイティ。落ち着いてちょうだい。ローラがパンクしてしまうわ。
ローラ。彼女はわたくしがお手伝いしているお洋服のお店のデザイナーなの」
「デザイナー?」
全てを父親の言う通りにしてきたフローエラはドレスを作る際にもデザイナーに会ったことがない。これまではメイドに採寸されて終わりだったのだ。
「デザイナーっていうのはね、どんなお洋服にするか考える人のことよ」
ケイティが隣に手を伸ばすと助手がスケッチブックを手渡した。
「ローラ様。わたくしはこのように作りたいものを絵にするのです」
膝をついてスケッチブックを広げて見せる。
「すごぉい……」
フローエラの顔がぱあと明るくなった。
「なんなんですっ? これっ!」
「エクア。声を荒げないの。ローラが怯えているわ」
扉が開かれその前にレイジーナとフローエラがいた。レイジーナの少し後ろに立つフローエラは口を押さえて顔を青くしていた。エクアは猛ダッシュでフローエラの前に行き跪いて、フローエラの肘に触れる。
「ローラ様。申し訳ありません」
ガレンが実兄公爵には「侍女見習いだから」と言って呼び捨てにしていたが、それはあくまでも建前である。実際はレイジーナの姪として丁寧にそれでいて親しげに扱われており、使用人たちは「ローラ様」と呼んでいる。
悲しげに顔を歪めたエクアがフローエラの顔を覗き込むように見上げた。
「私は今日、ローラ様のお荷物が届くと聞いて、ローラ様の可愛らしさを更に引き立てられるのだととても……とっても楽しみにしていたのです。それで……その……」
エクアは項垂れて手を床に落とした。
「確かにこれはがっかりする気持ちもわかるわ」
いつの間にかクローゼットの前にいるレイジーナがケースからひらりと出した一枚のドレスは黒に近い紺色で襟は白だがそれ以外の装飾はほとんどない。ドレスというよりは修道服である。
「どれもこれも……地味ねぇ」
茶色やグレーのドレスを一枚一枚持ち上げて落としていくレイジーナのおどけるような言葉にメイドたちは小さく笑ったがフローエラは下を向いてしまった。
「ローラ様……」
エクアが目に涙を溜める。
しなやかな動きでレイジーナがフローエラの前に来て、フローエラの視線になるように膝を抱えた。
「ローラ。わたくし、貴女のドレスがこのようなものであったことがとっっっっても嬉しいわ!」
フローエラとエクアが驚きの形相でレイジーナを見た。
「わたくしがお手伝いしているお洋服のお店があるのよ。そのお洋服たちを是非ローラに着てもらいたいなって思っていたの。でも、お兄様が用意したものとお色やデザインが被ってしまっては困るでしょう。あれならぜっっっったいに同じではないわ」
レイジーナの言葉にフローエラはキョトンとして、エクアは目をキラキラと輝かせた。
「さあ! ローラ! 小ダンスホールへ行きましょう!」
立ち上がったレイジーナがフローエラの手をサッと握ってそのまま引いていくと、エクアたちも後ろについていく。ガレンはその後姿を慈愛あふれる瞳で見送った。
「さてと。とっとと処分してしまいましょう!」
「「はいっ!」」
残ったメイドたちは明るく返事をした。
小ダンスホールへの扉の前でレイジーナが止まる。
「ローラ。この扉を開けてごらんなさい」
フローエラはコクリと頷くと前に進み扉に手を当てる。フローエラが押すタイミングを見計らって護衛騎士二人が両開き扉を押し開けた。
「うわぁ」
フローエラの前にはパステルカラーがあふれるほどに咲き乱れている。きらきらしてまぶしくて女の子をわくわくさせるような空間になっていた。
「すごい……」「すてきぃ」
エクアたち若いメイドも感嘆の声を上げた。
フローエラたちが呆けていると奥にいたメガネを掛けた女性がこちらに気がついた。開いた扉の中央に立つ少女を見ると驚いた後には顔が緩むのを止められないとばかりににやけさせ小走りにやってくる。フローエラは呆けから硬直に変わったがそれもお構いなしでずんずんと近寄ってきた。
「まあまあまあまあ! レイジーナ様ったらこぉんな天使ちゃんをどこに隠していらっしゃったのですぅ?
赤みのさす銀色の御髪がふわふわですし、そのぱっちりきらきらおめめは赤紫水晶でできていらっしゃるの? 桃色のつやつやほっぺを食べちゃいたいわ」
これまで「食べちゃいたいくらいかわいい」という表現をされたことがないフローエラは本当に食べられてしまうと慌てて頬を隠した。
「まあああああ! お仕草までお可愛らしいなんて」
メガネの女性は立ちくらみのようなポーズをする。
「ああ! 大丈夫ですか?」
派手なアクションを見慣れていないので今度は手を口に当てて驚きながらもその女性の心配をした。レイジーナがフローエラに並んで立つ。
「ケイティ。落ち着いてちょうだい。ローラがパンクしてしまうわ。
ローラ。彼女はわたくしがお手伝いしているお洋服のお店のデザイナーなの」
「デザイナー?」
全てを父親の言う通りにしてきたフローエラはドレスを作る際にもデザイナーに会ったことがない。これまではメイドに採寸されて終わりだったのだ。
「デザイナーっていうのはね、どんなお洋服にするか考える人のことよ」
ケイティが隣に手を伸ばすと助手がスケッチブックを手渡した。
「ローラ様。わたくしはこのように作りたいものを絵にするのです」
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「すごぉい……」
フローエラの顔がぱあと明るくなった。
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