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31 姉という仕事

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「フローエラ様。これは私の娘です。フローエラ様より二つほど年は下になります」

 ソフィアナがシアリーゼの背を押して前に出す。

「シアリーゼです。フフフ?」

 ソフィアナに助けを求めるシアリーゼに対して、ソフィアナが膝をついて耳元に優しく呟く。

「フローエラ様、よ」

「ふりぉえら様! こんにちわ!」

 公爵令嬢として教育されているフローエラは慌てることなく笑顔を作る。

「シアリーゼ。はじめまして」

「そうだわ! シアが呼びやすいように、フローエラを今日からここではローラと呼びましょう! シア。貴女はローラお姉様と呼びなさい。
ローラ。あの子をシアと呼んであげて」

「ローラおねぇさまっ!」

 レイジーナの提案にシアリーゼがソフィアナのスカートを握ったままぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。フローエラはびっくりしている。

「ローラは、イヤ?」

「ちちちちがいますっ! あの……愛称をつけていただいたのは初めてでびっくりしてしまって」

「ローラ様。わたくしどもも、そうお呼びしてもよろしいですか?」

 フローエラの足元にいるガレンがそう問うとフローエラはキョトンとした目のままうなずいた。それからシアリーゼの方を向く。

「し……し……シア?」

「はいっ! ローラおねぇさま!」

 フローエラは頬を染めて少し俯きかげんで笑顔を見せた。

「「「まあ!」」」

 大人たちが感嘆の声を洩らす。自然な笑顔はそれほどまでに可愛らしいものだった。先程のシアリーゼに挨拶した作り笑顔とは全く異なる。

「うふふ。では、まずは二人に仲良くなってもらうためにわたくしは仕事場へ参りましょう」

 レイジーナが立ち上がるとフローエラは慌てて首を上げた。その憂う瞳を見たレイジーナはもう一度座り、フローエラの手を握った。

「ローラ。貴女はここへどうして来たと聞いているの?」

「わたくしは妃殿下のお手伝いをしながら王子殿下と仲良くなるようにと言われました」

「そうよ。では、お仕事をお手伝いしてね。ローラの一つ目のお仕事は、シアのお姉さんになること。できる?」

「えっと……」

 俯いたフローエラは不安そうに目をキョドキョドさせた。

『これまで兄弟姉妹としての関係を経験していないからわからなくて怖いのね』

 フローエラには二人の弟がいるが、公爵家でどのように付き合っていたかはレイジーナにはわかっている。

「大丈夫よ。わからないことはソフィに聞きなさい。ソフィはシアの母親だからシアのことは何でも知っているわ」

 フローエラに親子関係をわかりやすくするための衣装である。ソフィアナがにっこりとして首肯する。

「それから、このお仕事はすぐにできるようになるものではないわ。それはわかっているからゆっくりとお勉強してちょうだい」

『まだ九歳だというのに、お仕事だとかお勉強だと表現しなければ受け止められないなんて……』

 ガレンは思わずフローエラの手を握る。

「ローラ様。わたくし、ガレンもお手伝いしたいのですが、許していただけますか?」

「わかりました。頑張ります。ガレン。わたくしにたくさん教えてください」

「では、ガレン、ソフィ。あとはよろしくね。シア。ローラお姉様にたくさん遊んでもらうのよ」

「はいっ!」

「ローラ。お夕飯にまた会いましょう」

 レイジーナがフローエラの頬に自分の頬を付けてから立ち上がり、優雅に部屋を出て行った。フローエラはガレンに話しかけられるまで呆けていた。フローエラにとって頬を付けるスキンシップも初めてのことだった。
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