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20 生誕祭
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自分が情報通だと誇示したい者とそれを担ぎ上げたい者と情報を得たい者たちとでドロドロとした内容がサラサラとした会話でされていく。
「お聞きになりまして? 本日は妃殿下もいらっしゃるそうですわ」
「ええ。三日ほどの前に入宮されて、なんでも陛下との謁見は一分だったとか」
「まあ。お時間がたくさんあって羨ましいですわね。妃殿下は王子殿下のご教育にもご興味はないそうで、先日はとうとう家庭教師を首になさったのでしょう」
「まあ! 陛下に社交をお任せなさっていらっしゃって、そちらにもお手をおかけにならないのですか? ご自身のお心任せでいらっしゃれるなんて伸び伸びしていらっしゃるのですね。
しかしながら、王子殿下が心配ですわね。お可哀想に」
「王子殿下には王宮から社交講師方が向かわれているようですわ。王子殿下は素晴らしい社交講師の皆様を唸らせていらっしゃるほどのお力があると聞いております。きっとステキな貴公子におなりですわよ」
「王宮からということは陛下のご指示ですわね。でも、明日からは王子殿下はご自由ですもの。陛下が更にご差配なさるでしょうから不安はなくなるのではないかしら」
「それにしても妃殿下は余程お時間をお使いになることがお上手なのでしょうね」
「ルネジー商会の方と頻繁にお会いになっているそうですから、お買い物は長けていらっしゃるようですわよ」
「ブティックリカのオーナーでいらっしゃるモニエリーカ様とご懇意なのでしょう? ブティックリカはとても素晴らしいお店ですもの。多くをお持ちでも困らないのではなくて?」
「「羨ましいですわねぇ。おほほほ」」
これはレイジーナとモニエリーカによる情報操作であるが、貴婦人たちは「レイジーナは南離宮に引き篭もり金と時間を持て余した飾りにもならない王妃だ」と認識している。
「妃殿下はこれから社交をお始めになるのかしら?」
「なさらないのではなくて? 公爵家のご令嬢でいらっしゃった時もいつもあちらにいらっしゃった方ですもの」
ニヤリとして壁にチラリと視線を投げると他の婦人も得たりと笑う。
「妃殿下というお役割も(暇すぎて)大変ですわよね」
貴族の間では、王家には社交以外に仕事がないことが周知されていた。それでも国の御旗としての存在があることは国民、特に情報があまり与えられていない平民の心を引き付け繋ぎ止め働かせるためには必要な存在だ。
「ええ。(暇すぎる役割だから)なかなかできるものではありませんわ」
「(暇すぎるのは嫌だから)わたくしには無理ですわ」
「「ねぇ!! おほほほ」」
そこに王族の入場を表すラッパの音が鳴り響き真ん中のレッドカーペットに沿って立つ貴族たちの視線が大扉へ注目が集まった。
執事服の二人が厳かな仕草で扉を開けると、誰もが息をするのも忘れて瞠目した。
艶めく銀糸の髪が凛々しく後ろに撫でつけられているためキリリとした眉が精悍さを表しその下の大きな紫の瞳は少し吊り目であるが幼さを残しているアンバランスさが絶妙に魅力となっている。ほんのりと上げた口角に優しさを感じさせ、まさに完璧な王子がそこにいた。
美しい彫像が一歩前へ歩むと、我に返ったギャラリーが慌てて頭を下げた。
ダンススペースの手前までゆっくりと進む。そしてレッドカーペットが途切れると今度は心地よい靴音を響かせながら中央壇となっている玉座の前で止まった。一度皆が頭を上げる。
それに合わせてもう一度ラッパの音が鳴り響くと今度は右手側の国王専用扉が重々しく開かれた。
観衆たちは再び時が止まったように息を止めていた。
まるで天から啓示をもたらすために神が下界へ来たのではないかと思わせるような完璧な美しさを持つ二人がそこにいた。
ただし……、二人ともアランディルスのような柔和さは一切なく、伺いしれない表情がまた、下々に関心のない神のように見えるのだった。あまりの神々しさに茫然と頭を下げていく。しきたりであるとか、敬意であるとか、そのようなものではなく、ただ、頭を下げるべきだと本能が言っているかのようで、まるで波が引く様相で会場中が礼をしていった。
誰も顔をあげていないタイミングを見計らったかのように二人は歩きはじめ、壇上に上がると玉座にゆっくりと腰を落とした。
「お聞きになりまして? 本日は妃殿下もいらっしゃるそうですわ」
「ええ。三日ほどの前に入宮されて、なんでも陛下との謁見は一分だったとか」
「まあ。お時間がたくさんあって羨ましいですわね。妃殿下は王子殿下のご教育にもご興味はないそうで、先日はとうとう家庭教師を首になさったのでしょう」
「まあ! 陛下に社交をお任せなさっていらっしゃって、そちらにもお手をおかけにならないのですか? ご自身のお心任せでいらっしゃれるなんて伸び伸びしていらっしゃるのですね。
しかしながら、王子殿下が心配ですわね。お可哀想に」
「王子殿下には王宮から社交講師方が向かわれているようですわ。王子殿下は素晴らしい社交講師の皆様を唸らせていらっしゃるほどのお力があると聞いております。きっとステキな貴公子におなりですわよ」
「王宮からということは陛下のご指示ですわね。でも、明日からは王子殿下はご自由ですもの。陛下が更にご差配なさるでしょうから不安はなくなるのではないかしら」
「それにしても妃殿下は余程お時間をお使いになることがお上手なのでしょうね」
「ルネジー商会の方と頻繁にお会いになっているそうですから、お買い物は長けていらっしゃるようですわよ」
「ブティックリカのオーナーでいらっしゃるモニエリーカ様とご懇意なのでしょう? ブティックリカはとても素晴らしいお店ですもの。多くをお持ちでも困らないのではなくて?」
「「羨ましいですわねぇ。おほほほ」」
これはレイジーナとモニエリーカによる情報操作であるが、貴婦人たちは「レイジーナは南離宮に引き篭もり金と時間を持て余した飾りにもならない王妃だ」と認識している。
「妃殿下はこれから社交をお始めになるのかしら?」
「なさらないのではなくて? 公爵家のご令嬢でいらっしゃった時もいつもあちらにいらっしゃった方ですもの」
ニヤリとして壁にチラリと視線を投げると他の婦人も得たりと笑う。
「妃殿下というお役割も(暇すぎて)大変ですわよね」
貴族の間では、王家には社交以外に仕事がないことが周知されていた。それでも国の御旗としての存在があることは国民、特に情報があまり与えられていない平民の心を引き付け繋ぎ止め働かせるためには必要な存在だ。
「ええ。(暇すぎる役割だから)なかなかできるものではありませんわ」
「(暇すぎるのは嫌だから)わたくしには無理ですわ」
「「ねぇ!! おほほほ」」
そこに王族の入場を表すラッパの音が鳴り響き真ん中のレッドカーペットに沿って立つ貴族たちの視線が大扉へ注目が集まった。
執事服の二人が厳かな仕草で扉を開けると、誰もが息をするのも忘れて瞠目した。
艶めく銀糸の髪が凛々しく後ろに撫でつけられているためキリリとした眉が精悍さを表しその下の大きな紫の瞳は少し吊り目であるが幼さを残しているアンバランスさが絶妙に魅力となっている。ほんのりと上げた口角に優しさを感じさせ、まさに完璧な王子がそこにいた。
美しい彫像が一歩前へ歩むと、我に返ったギャラリーが慌てて頭を下げた。
ダンススペースの手前までゆっくりと進む。そしてレッドカーペットが途切れると今度は心地よい靴音を響かせながら中央壇となっている玉座の前で止まった。一度皆が頭を上げる。
それに合わせてもう一度ラッパの音が鳴り響くと今度は右手側の国王専用扉が重々しく開かれた。
観衆たちは再び時が止まったように息を止めていた。
まるで天から啓示をもたらすために神が下界へ来たのではないかと思わせるような完璧な美しさを持つ二人がそこにいた。
ただし……、二人ともアランディルスのような柔和さは一切なく、伺いしれない表情がまた、下々に関心のない神のように見えるのだった。あまりの神々しさに茫然と頭を下げていく。しきたりであるとか、敬意であるとか、そのようなものではなく、ただ、頭を下げるべきだと本能が言っているかのようで、まるで波が引く様相で会場中が礼をしていった。
誰も顔をあげていないタイミングを見計らったかのように二人は歩きはじめ、壇上に上がると玉座にゆっくりと腰を落とした。
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