【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻

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21 ファーストダンス

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  貴族たちの様子を玉座から見たレイジーナは呆れ笑いを隠していた。

『敬意などないのに随分とうやうやしい態度ですこと。その気持がわからなくはないですけどね』

 レイジーナがチラリと隣を見ると十年前に執務室で面会したときとは明らかに様子の違う国王がそこにいた。

『これが本来の社交用の姿なのね。十年経っても容姿は全く変わっていないし、本当に動く調度品みたいだわ。余程の名工による作品よね』

 黙って表情の一つも変えずにふんぞり返る国王に呆れ半分感心半分の視線を投げるが国王がレイジーナに興味を持つことはない。

「直れ」

 アランディルスの斜め前にいた進行係が声を張ると一斉に頭が上がり、それを見た国王は足を組み直し小さく頷いた。アランディルスが玉座に一礼して背を向けた。

「本日はアランディルス王子殿下の十歳のご生誕祭でございます。王子殿下がご無事にこの日を迎えられたことに臣下一同喜びを感じております」

 貴族たちが礼をとったり頭を上げたりと進行係の言葉に合わせて動く。

「我らは王子殿下の気高く神聖なるお姿を心に止め益々の王家の繁栄に助力してまいります」

「ありがとう」

 アランディルスの言葉は決められたこの一言だけだ。

「ではアランディルス王子殿下。ファーストダンスをお願いいたします」

 前方に陣取る高位貴族の令嬢たちが気色めいて半歩前に出たり、当主が前に押し出したりする。

『娘を王妃調度品にしてでも恩恵がほしいのは、いつになっても変わらないのね』

 レイジーナはその集団に自分の兄がいることにはとっくに気がついていたが、案の定、誰よりも強く押し出している姿にげんなりとした。

『今日のわたくしの姿にも気が付かずよくやるわね。本当に誰も気が付かないの? レイはそんなに影が薄かったの?』

 レイジーナの髪は公爵家が多く持つシルバーではなく、レイジーナの祖母の家系の真紫であるが誰一人として驚く者はいなかった。

 そして公爵に押されている少女に目が行く。レイジーナはその少女を見た瞬間、激しい頭痛に襲われ耐えきれずに小さく俯く。ドレスを纏い後ろに控えていたソフィアナが透かさず近づく。

「妃殿下。お加減が優れないのですか?」

 小さな仕草のはずなのにすぐに気がついてくれる侍女がいてくれることに喜びを感じるが、それと同時にソフィアナの声に目だけを動かしてすぐに前に向き直りレイジーナに心を動かさない国王に冷めた気持ちになる。頭痛はすぐにおさまったためソフィアナに微笑する。

「なんでもないわ。ありがとう」

 そうこうしているうちにぐるっと令嬢たちを見回したアランディルスがクルリと振り返り玉座に向かってきた。

「王妃殿下。今宵のファーストダンスをお願いできますでしょうか?」

 レイジーナは予定と異なるアランディルスの行動にびっくりして、慌てて国王に返事を求めた。

「よかろう。朕からの贈り物と心得よ」

「ありがたきことと存じます」

 アランディルスが胸に手を当てて頭を垂れるとその仕草の美しさに令嬢たちが息を零した。
 レイジーナがソフィアナのサポートで壇下へ下りるとその手をアランディルスに委ねた。アランディルスのエスコートでダンスホールの真ん中へ躍り出る。タイミングよく音楽が奏でられダンスがスタートした。

 二人の優雅さにあちらこちらで息を飲んだり感嘆のため息だったりが溢れていた。アランディルスのリードはとても素晴らしく、まだレイジーナの方が身長が高いにも関わらずそれを感じさせない大きなダンスとなっていた。

「どうしてこんなことしたの? 顔が好みって理由でいいから誰かを選べって言われていたでしょう?」

 レイジーナは笑顔を貼り付けたままアランディルスに苦言を呈する。

「だから、一番好みの顔を選んだでしょう?」

 いたずらが成功したかのようにアランディルスの声が弾んだので、レイジーナは預けている手を少し動かしてつねった。それもまた嬉しそうに見つめてくる。本当にまるで恋人同士のようである。

『この子が容姿に左右されないことはわかっているわ。だからって母親をだしにしなくても』
 
「誰かに「自分は特別」って思われるのは面倒くさい。ファーストダンス以外なら次官たちがすでに十人選んであるだろう。その子たちで充分だよ」
 
 王宮庶務局によってアランディルスのお相手になる候補者は決まっている。お相手は未来の王妃になるのだから、家柄や派閥などが考慮されているのだろう。

「誰でもいいさ」

 レイジーナは再びつねる。
 
「大丈夫だよ。誰でも大切にする。父上とは同じにならないよ」

「頼もしいわ」

 二人が笑みを深めてフィニッシュすると大歓声が沸き起こった。
 アランディルスはエスコートの手をソフィアナに預ける。

「では行ってきます」

 まるで仕事へ行くかのようなアランディルスの挨拶に呆れながらも頼もしく思いその背中を見つめた。ダンススペースはすでに他の貴族たちで溢れていてアランディルスの合流を待っている。
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