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 レイジーナもまたニルネスの様子次第だと判断していた。

『わたくしが監査局へ王妃宮の経理調査を依頼に行った時に唯一耳を傾けてくれたのはルネだった。それだけでも感謝しているわ。
だからこそ、ルネの「なぜ」に答えるのは困惑する。答えてしまったらルネを巻き込んでしまうだろうから』

 二人は暗黙なのに互いの視線の交わりに了承を得たと確信したレイジーナが心を決めて口を開く。

「ルネは陛下の汚れきった生活が普通だと思う?」

「それは……」

 いきなり直球な話にニルネスは困惑する。

『覚悟をしたつもりだったのに……』

 自己嫌悪をしたニルネスが口を開くより先にレイジーナが話を進めた。
 
「貴方の立場でイエス・ノーを口にすることが簡単でないことはわかっているわ。だから心で判断してくれていいわよ」

『まだ私に猶予をくださるのか……。本当にお心がお広い……』

「ここからはわたくしの見解。わたくしの独り言」

 スゥーと息を吸う。

「わたくしにはあの方はただただ堕落しているようにしか見えないわ。ワインを捨てるように飲み、食べもしない豪華な料理を並べさせ、外に出もしないのにゴテゴテした服を着て、似合いもしない化粧をして、香油のにおいをまき散らし、美的センスも悪いくせに絵画を並べたて、ずっとベッドにいるくせに豪奢なソファを買い求め、月に一度乗ることもないような豪華な馬車を用意させ、体は一つしかないのに自分専用の高級馬を二十頭も飼っているのよ。さらには剣術もできないくせにキラキラするだけの剣をひけらかしながら帯剣しているなんて、かえって恥ずかしいわよっ!
あいつが贅沢をやめれば王都民全員にワンピースかオーバーオールを配れるわ」

 半分からは興奮のため立ち上がって一気に捲し立てたレイジーナははぁはぁはぁと肩で息をした。ソフィアナが冷えた水を差し出すと腰に手を当てて一気飲みすると、カツンと鳴らしてテーブルへ置く。

「淑女らしくなくてごめんなさいね」

 上から圧迫するように謝るとニルネスはたじろいだ。

「と、とんでもございません。それにしても随分とお詳しいようで……」

「ん? あら? そう言われればそうね?」

『おしゃべりすぎたわ。疲れていて威圧的になってしまった。そんな風になるつもりはなかったのに……。まだまだ感情のコントロールが下手ね。我慢についてはもう少しレイを見習わなきゃ』

 冷静になったレイジーナは優雅な所作で腰を下ろして思い返してみた。

 確かに国王が本当にそのような生活をしているのかは現レイジーナは見たことがない。あくまでも前世での極悪貴族はこうであるという印象が勝っている。だけど、レイジーナはそれらがどうしても偽りであるようには思えなかった。

『きっとレイも同じように感じていた部分があるのだわ。あのシーン……ううん、レイはもっと際どいシーンを目にしている……のね』

 南離宮の直談判へ赴いた時の国王の姿を見た自分の記憶とレイの記憶を掘り下げてみたレイジーナは確信があった。

『絶対にクズに決まっているわ!』

「んー……。一年近くにいた印象とそこここからの情報と……あとは勘ね。ルネの様子を見るとそのものピシャリみたいね」

 罠に落ちたような感覚になったニルネスは苦笑いである。
 
「素晴らしいご推察です」

「とはいえ、わたくしも王妃用公費を受けとっているし、ディーも王子用公費を受けているのですから強く言える立場ではないのですけどね。
とにかくタダメシ喰らいはおかしいと思うの。かと言って、わたくしが政務をすれば間違いなく大きな揉め事になるでしょう」

 口を開こうとするニルネスを手で制した。

「わたくしは独り言だと言ったでしょう」

 ニルネスは目尻を下げて首を振った。

『この方はどこまで私を慮ってくれるのか。この方の泥を一緒に被りたい……』

「いえ、私は、しっかりと共用いたしました」

『良かった……。彼以上に頼れる存在はないわ』

 レイジーナが安堵している間、ニルネスは眉を寄せていた。
 
「私は妃殿下はすぐにでも政務をできるお力はあると思いますが……。確かにスムーズには参りませんし、陛下がお許しになるとは思えません」

『政治は詳しくないけど、このくらい未発展なら前世の記憶で上手くできるとは思う。でも……そう……できない』

「妃殿下は、それゆえ、多くの税金を納めることを望まれているのですね。妃殿下は事業における収益ですでに妃殿下と王子殿下への付与金に近い税金を納めておいでですし、関連事業の税金を含めれば超えております。現時点で大変にご立派です。本当は皆がそれを知らないことが悔しくはあります」

 真剣な眼差しでレイジーナを見つめるニルネスからは本当に心配している気持ちが伝わる。
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