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9 南離宮

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 レイジーナがアランディルスの授乳を極力やりたいと言っているため、南離宮でもレイジーナの隣室は乳母ガレンとソフィアナが交代で使う部屋にした。

「ソフィアナ。隣室にバードルのベッドも用意できた?」

「はい。お気遣いありがとうございます。家族でお世話になれて嬉しいです」

 バードルとはソフィアナの息子であり、アランディルスと同じで生まれたばかりの男の子だ。レイジーナは自分で授乳しているが、万が一出なくなることもあるのでその時のためにソフィアナを雇用している。そしてソフィアナの夫は護衛騎士として雇用した。ソフィアナは男爵家三女、夫は子爵家四男でこれまで子爵家の手伝いをしていた。バードルが生まれたことで自立を考えていた矢先の話であったので即時了承であった。

「わたくしこそ。一緒に子育てができるソフィアナが近くにいてくれて心強いわ。
ガレンもこれまで通りよろしくね」

 ガレンは元はモニエリーカの家のメイドで、モニエリーカが王妃宮を訪問した当日から王妃宮でレイジーナの世話をしてくれた。その一週間後にはソフィアナも通っていた。

「「かしこまりました。妃殿下」」

 南離宮は王都から馬車でまる一日ほどの場所であるが、国王が訪れることも公爵や小公爵が訪れることも終ぞなかった。

 ★★★

 九歳になったアランディルスは大変優秀な王子で、家庭教師たちもいつも感嘆している。先国王と現国王の時代には王族はマナーや社交ばかりを学んでいたので、そこもまた感嘆される理由となっている。

 レイジーナは国王の反感を買うことがないように、建前は「アランディルスの側近となる乳兄弟バードルへの教育のため」としている。もちろんバードルも同様に教育を受けているため優秀である。

 サロンから続く広いデッキに大きなパラソルを付けたテーブルセットがあり、レイジーナはそこがお気に入りの場所であった。庭園より数段高くなっていて、美しい花々を遠くまで見渡すことができ、芝生広場もよく見える。
 少年たちの元気な声を聞きながらゆったりと読書を楽しみ、お茶をいただく。忙しい日々の中で休憩にはここを使う事が多い。

「妃殿下。王子殿下を来年には王子宮へお送りするおつもりなのですね」

 王子宮は王宮の一部で代々第一王子が使い、第一王子以外は王妃宮で生活をすることになっている。王妃宮は王宮から馬車で五分のところにあり、なかなかの広さである。

「そうね。ここへ来る時の約束だもの」

 本をゆっくり閉じてお茶を手にとった。

「そんな……。魔窟へお送りするなど……悲しいです」

 ガレンは芝生広場で剣の訓練をしているアランディルスを眉を下げて哀しげに見た。

「大丈夫よ。対策は考えてあるわ。皆のお陰で信用できる使用人も随分と増えたし」

 アランディルスはすでに三階の部屋を自室として使っている。最近ではレイジーナの差配で南離宮には多過ぎるほどの使用人が働きはじめた。
 だからこそ、ガレンはレイジーナがアランディルスを信のおける使用人とともに王子宮へ行かせるつもりだと確信している。仲間を信用はしているがアランディルスと離れたくはない。

「心配しないで、わたくしもディーと離れたくないもの」

 ガレンはホッと胸を撫で下ろした。

「妃殿下。モニエリーカ様がいらっしゃいました」

「ここへ通してちょうだい」

 レイジーナはモニエリーカを抱きしめて迎え入れた。

「モリー、久しぶりね」

「なかなか来れなくてごめんなさいね。あの子も来たがっているんだけど」

 アランディルスとバードルのところへ走っていく少年の背が見える。モニエリーカの長男スペンサーはアランディルスより一年ほど後に生まれた。レイジーナに挨拶をせずともそちらへ行くことが許されるほどに親しい関係だ。さらに後ろから七歳の次男ディルクも追いかけていった。

「いいのよ。子爵は王城勤務でしょう。家族で王都にいて当然だわ」

 モニエリーカは侯爵家の次男と婚姻し、その侯爵家が持っていた子爵位を譲り受けたため子爵夫人である。実家の侯爵家の名前を使った方が便利なときは遠慮なく侯爵令嬢だと言っている。

「ほら、ご挨拶なさい」

 モニエリーカのスカートを握り隠れている女の子の背を押す。

「おうひちゃま。こんにゃちは」

「ナーシャリー。こんにちは。ご挨拶が上手になったわね。あちらのお部屋にお人形やおやつがいっぱい用意してあるから遊んでいらっしゃい」

「あいっ!」

 モニエリーカの娘ナーシャリーは四歳で、ソフィアナの六歳になる娘シアリーゼと遊ばせるためメイドが手を繋いで連れて行った。
 

☆☆☆☆

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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