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4 離宮

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 一ヶ月後にはモニエリーカから使用人を確保したとの連絡を受け、レイジーナは早速国王の元を訪れることにした。

「ひ! 妃殿下!!」

 呆れ顔のメイドを数名連れて歩けば、廊下ですれ違う者たち、誰もが慄き道を開けていく。

 国王の執務室前にいる護衛騎士二人は慄くがさすがに動かない。

「開けて」

「陛下は只今執務中でございまして……」

「だから? わたくしは急用なの」

「…………わかりました。聞いてまいりますのでしばしお待ちください」

 護衛騎士の一人が執務室へ消える。

「帰りは陛下に護衛を借りるから貴女たちはもういいわ」

「え?! でも!」

 メイド長にしっかりと見張れと命令されているメイドたちは慌てて言い訳を募ろうとしたが、レイジーナはバシッと扇をメイドたちに向けた。

「わたくしとメイド長。どちらの命令を聞くのかしら?」

 まさかメイド長からの命令だと知られていると思わなかったメイドたちは驚愕して硬直した。

『あら? カマをかけただけなのだけど、本当に監視命令が出ていたのね』

 チラチラと目を合わせあったメイドたちは軽く頭を下げるともと来た廊下を帰っていった。
 タイミングよく執務室のドアが開く。

「妃殿下。どうぞお入りください」

 レイジーナが入ると気だるそうに机に踏ん反り返る国王がいた。襟元ははだけ濡羽色の髪も乱れていて手でかきあげなんとか整えている。

『あんな仕草もかっこいいなんて、すごいわね。全く惚れないけど。
それにしてもこんな昼日中から房事の真っ最中だったみたい。元気ねぇ。国王は二十歳、確かに元気な年齢ではあるわね。でも、こんな様子で国が回るなんて、国が強いのか部下が優秀なのか……?』

 レイジーナは拳分だけ開けられている休憩室への扉を無表情で一瞥すると国王へ目線を戻した。それを見た国王はこれまでにないレイジーナの様子に眉を寄せて訝しむ。
 レイジーナはわざと礼儀を無視して話を始めた。

「陛下はお忙しいようですので、要件だけお話いたしますわ。わたくし、来週には離宮へ移ります」

「何?」

「それとも、手が空いたわたくしが王城へしゃしゃり出て権威を振りかざしてもよろしいのかしら?」

 国王は少し考えてから無表情を作って答える。

「西離宮を使え」

「いえ、一番小さな南離宮を使います。そちらでしたら改めて大きな改装も必要なさそうですし」

 無表情を崩して頬を引きつらせる。南離宮に愛人青年を囲っているとの情報はモニエリーカからすぐに報告された。現在住人がいるため屋敷の管理は行き届いていると予想できる。

「数日中に現在南離宮を使っている者を西離宮へ使用人とともに移してください。五日後にはわたくしの掃除婦を向かわせます」

「……手配しよう」

『使われていない西離宮を数日でキレイにするつもりってどんな暴君よ。できる自信があるなんて呆れるわ。言ったわたくしがそういうのも変だけど。何日かは何処かに泊めておくのかもしれないわね』

「では、お願いいたします」

 レイジーナは踵を返して数歩歩くとくるりと振り返った。

「王子は連れていきます」

「何?! それはならぬ!」

『抱きたくもない女を抱いて手に入れたモノだものね』

 レイジーナは分かりやすいため息を吐き出した。

「王子は十になるまでは王妃宮で育てられる慣わしではありませんか。それが南離宮になるだけです。十になれば慣わし通り王子宮へ送ります。それとも陛下はお側に王子を置けますの?」

『無理よね。奥宮は愛人青年との愛の巣と化しているのだから』

 奥宮とは王宮の中で国王が使う宮で、表宮は王家が集まるときなどに使われている。

「その約定は果たせよ」

「王子のためには当然です。だからといって南離宮へいらしてくださらなくて結構ですわ。西離宮と間違えて南離宮へいらっしゃらないでくださいませね。もうそちらには陛下のご興味をそそる者はいなくなるのですから」

 隣の休憩室からガタンと大きな音がした。慌てて立ち上がりそちらに目をやる国王の返事を待たずにレイジーナは部屋を離れた。

『あらまあ。愛人一号さんは愛人二号さんがいることを知らなかったのかしら。二号さんだけじゃないのだけどねぇ。広い西離宮になったらもっと増えるかもしれないわね。こわっ』

 扉の前にはすでに手配された新たな護衛騎士が二人いた。

「まあ。気が利くのね。ではお願いね」

 軽甲冑を着た逞しい護衛騎士に前と後ろを挟まれて王妃宮へと戻っていく。

『国王も王妃も仕事をしていない国だなんて恐ろしいわ。わたくしにとってはラッキーだけど』

 レイジーナは未来に思いを馳せながら歩いていた。
 
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