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第二章 小麦姫と熊隊長の村作り

2 北からの移住者

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 ノーリスとケイトは、1週間後、ファーゴ子爵夫妻とともにファーゴ子爵領へ行った。家のことは、まだ言わなかった。
 調理組には、ロマーナとフランカ、他に二人の女の子が加わった。

 フランカは、リリアーナが教会に引っ越す時に、ソル棟の四人部屋へ移っていた。もう青あざはキレイに消えたし、ここでは殴られないと体も心も理解したようだ。それでも時々、大きな声や意味なく振り上げた誰かの手にビクッとしている。これはゆっくりと治していくしかないだろう。

〰️ 〰️ 〰️

 6月に牛が3頭、9月に馬が2頭増えるので、デルフィーノとべニート、ついでにファブリノも大工組に参加して大忙しだ。
 畑組ジーノと酪農組ラニエルは、小川を東にも伸ばしたいと言っている。家庭用は井戸で充分だが、酪農や畑には、川がある方が断然手っ取り早い。

 女の子たちは、狩り組と一緒に森へ行き、野いちごやキノコをたくさん取った。狩り組の弓も随分と上達したので、チェーザは、木こりに戻った。いつまでも木の買い付けにお金をかけてはいられない。木こりも急ピッチだ。レンガ組もしかり。

〰️ 〰️ 〰️


 6月、牛が生まれてまもなく、幌馬車が8台ソル棟の前に止まった。丁度、昼時、みんなが揃い、天気がいいので、バーベキュー広場でサンドイッチを食べていた。

「おお!思っていたより、早かったじゃないか!」

 デルフィーノが両手を広げて迎えた。

「急かされちまってさぁ!道中もだぜぇ。参った参った!」

 馭者をしていたのは、去年の夏も手伝ってくれた大工さんたちであった。参ったと言いながら、怒っている様子はない。

「本当に、暖かいのねぇ!」

「ええ、過ごしやすそうね」

 幌馬車の後ろから降りてきたのは、色白で細身、それでいて腕の筋肉の張りが見た目でわかるし、細身のパンツスタイルがとても似合う、すぐに姉妹だとわかる女性二人だった。

「ダリダ!!」

「フェリダ!!」

 木こりのチェーザとレンガ職人のコジモが青い顔で立ち上がった。

「あら、チェーザ、元気そうね?もしかして、ここまで来れば、私から逃げられるとでも、思ったの?」

 姉と思われるショートカットの女性が怖いくらいの笑顔をチェーザに向けた。

「コジモも、諦めが悪いのね。どうして、私からは逃げられないって、わからないのかしら?」

 妹と思われるボブスタイルの女性がこれまた素晴らしい笑顔をコジモに向けた。

 チェーザもコジモも24歳、少し結婚適齢期からは過ぎてしまったが、男なのだ、問題ないだろう。女性二人は、ロマーナと同じくらいか?だとしたら、押し掛け嫁か?

「ち、違う!ここが面白くてさ。でも、まだ、俺の家はないんだよ。家ができたら、領主様(デルフィーノ)にダリダを連れてきてもらうように頼むつもりだったんだ」

 チェーザが手をうるさく動かしながら言い訳をしていた。

「俺もだぞ。ここはまだまだ不便だ。フェリダに苦労はさせられない」

 コジモも、慌てて言い訳をしている。

「全く、相変わらずね。面白いなら、私達も参加させてくれたらいいでしょう」

 ダリダからは『ふんっ!』と聞こえた気がする。

「私たちが山育ちなのは知っているでしょう?何が不便よ。こんなにキレイなところに住んだことなんてないわよ」

 フェリダの言葉に『ん?』と思った女子は多いだろう。ここは、町と比べれば本当に自然の中で、決してキレイではない。匂いも家畜の匂いでいっぱいだ。

「で、でも、ほら、ダリダは山が好きだったし……」

「あら?来るときに、大きな森があったわよ。山である必要ないでしょう」

 確かに山は遠いが森は近い。山も遠いとはいえ、1日もかからずに行ける距離だ。
 ダリダは冷たい視線をチェーザに向けた。青くなっているチェーザがチラリとむけた視線の先には、イノシシの革が乾かされていた。

「炭作りが忙しくてさ、フェリダに来てもらっても、寂しい思いさせるかなぁって」

 コジモが、苦しい言い訳をした。レンガ組は、最近、炭焼き小屋も始めたのは事実だ。ソベルデスバーは、着々と自立している。

「はあ?これだけの人とランチを楽しんでいて、何を言ってるの?もう少しマシなことは言えないの?」

 フェリダが腰に手を当てて、呆れたとため息をついた。

 二人が向き合って頷いた。チェーザとコジモが肩を揺らして、腰を引いた。

「「いけっ!」」

 ダリダとフェリダが声をかけると幌の中から、大きな何かが出てきて、チェーザとコジモを襲った。襲われた二人は尻もちをついてしまい、その大きな何かに顔をベロベロと舐められていた。大きな犬だった。

「この子ったら、あなたのタオルを離そうとしないのよ」

「この子もコジモの靴下が大好きなの」

 ダリダとフェリダが見せた布はすでに元が何であったかわからなくなっていた。

「二人とも、もう許してあげて、チェーザもコジモもとっても信頼されているんだから。イメージが壊れちゃうわ」

 クレオリアがやっと仲裁に入った。

「「奥様、ご無沙汰しております!」」

 二人はキレイな礼をとった。

「ここでは、奥様はなしよ。クレオでいいわ。様付けもなしね」

「「はい!クレオさん!」」

 大好きな奥様に名前呼びを許可されて、二人は目を輝かせて喜んだ。

「みんな、騒がせてごめんね。チェーザとコジモの恋人たち、ダリダとフェリダよ」

 二人がみんなに向かって手を振った。今度の笑顔は怖くなかった。恋話の大好きな女の子たちは、すでに、想像話で盛り上がっていた。

 チェーザとコジモが、犬を撫でながら起き上がった。ダリダとフェリダを手招きして、近くに座らせた。それを見た女の子たちは、またきゃあきゃあと話だし、チェーザとコジモは顔を赤くして、ダリダとフェリダは、女の子たちに再び手を振った。

「それと」

 クレオリアが『こいこい』と手で合図すると、5人の子供たちがクレオリアの側に来た。ダリダたちと一緒に来たらしい子供たちが、クレオリアに呼ばれて、みんなの前に並んだ。

「この子たちは、北の孤児院出身なの。仲良くしてあげてね」

「「「はーい!」」」

 ジャンの指示で、10歳の子どもたちが、丁度年齢が合いそうな3人の男の子と女の子を連れて行く。
 二人の女の子は、去年ルケッティ子爵領から来た木こりのチェーザの弟子の男の子たちに、席の案内をされていた。この二人はどう見ても15歳以上だ。

 その夜から、ダリダとフェリダはベルデ棟、新しい子供たちはソル棟で生活することになった。

〰️ 〰️ 〰️

 クレオリアは、職人の弟子の男の子オルランドたちの席についた女の子二人について、ステラ棟に集まった大人たち(アルフレードたちはもう大人たちに含まれる)に説明していた。

「あの女の子二人は、浮浪孤児で山道で丸まっていたところをダリダたちが見つけたの。路地裏や山小屋の資材置き場で生活していたみたい。木こり見習いだったオルランドたちは、時々、食べ物をあげていたらしいの。それが、去年、オルランドたちはこちらに来てしまったでしょう。この1年は大変だったみたいだわ。孤児院を出てから5年だって言ってたから、16歳か17歳くらいね」

 みんなで相談して、詳しいことはリリアーナとファブリノに任せることにした。

 こうしたところにも、すでに分担が決まりつつあった。ルーデジオたちは、それも嬉しく見守っているのだ。
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