上 下
34 / 42
第一章 小麦姫と熊隊長の青春

32 卒業式

しおりを挟む
 学園に残った4人は、難なく卒業を迎えることができることとなった。
 春、卒業式は隣国ピッツォーネ王国の次期王太子が視察においでになることとなり、例年になく、豪華な卒業式となり、それに伴い、式の後に行われる卒業パーティーも豪華であった。
 卒業パーティーのファーストダンスは、隣国の次期王太子と次期王太子妃が務めるとあって、高位貴族たちはこぞってやってきた。まさか高位貴族たちは、手ぶらでは来ないので、学園には多額の寄付が集まった。

 そんなことは自分たちには関係ないと4人はダンスに興じていた。4人は、卒業後すぐに『ビアータの家』に行くことを決めている。だから、ドレスとタキシードで踊ることなど、もう最後になることだろう。それを惜しいとは思わないが、今を楽しみたいのは、本音であった。

「ビアータ、キレイだよ」

 アルフレードは珍しく饒舌にビアータを褒めた。

「ふふふ、こんなにドレスの似合わない肌の色をしているのに?」

 ビアータはあまりに饒舌すぎるそれをお世辞だととって、笑顔でお茶目に返した。

「そんなビアータが大好きなんだから、仕方ないだろう?」

 アルフレードの今までにない言葉に、ビアータは、ステップを間違えて、アルフレードの足を踏んだ。

「きゃあ!アル!ごめんなさい!」

「ん?今なんかあった?」

 素知らぬ顔で踊りを続けるアルフレードがとっても頼もしかった。

 コルネリオとサンドラも楽しそうに見つめ合って踊っていた。

〰️ 〰️ 〰️

 翌朝、学園前の馬車寄せに4人を迎えに来たのは、デルフィーノの箱馬車だった。アルフレードも、昨日のうちに用意した幌馬車の馭者をしている。デルフィーノは、昨日の卒業式と卒業パーティーに参加していたのだ。奥さんのクレオリアも一緒だった。クレオリアとビアータの挨拶は昨日のうちに終わっており、クレオリアは、一目でビアータを気に入ってしまっていた。

「ビアータ、サンドラ、早く乗って!荷物は男共に任せておけばいいのよっ!」

「「はーい!」」

「ここにいると邪魔になるから、先に行くぞ。1日目の宿はわかるな?」

 デルフィーノがアルフレードに大きな声で確認を入れた。

「ああ、わかったよ。また後で」

 卒業生で溢れかえる馬車寄せと通りのことを考えると、1台でも出てしまった方がいい。残ったアルフレードとコルネリオは、4人分の荷物を幌馬車に積むと、二人で馭者台に座った。

「アルフレード!コルネリオ!幸せになっ!ビアータさんによろしく!」

 Cクラスの仲間が声をかけてくれた。

「ああ、ありがとう!」

「元気でなぁ!」

 この後も、学園を出るまでにたくさん声をかかけられた。
 王都を出るまでに随分と時間がかかってしまった。約束の宿まで、少し飛ばす。

「コルたちは、どうする予定?」

 手綱を持ったアルフレードは飛ばしているので、コルネリオを見る余裕はない。

「実家に着いてからは、アルたちと別行動だな。サンドラの実家に行ってから、あちら(『ビアータの家』)に戻るよ」

 コルネリオも馭者台に括られた綱を握りしめていた。

「うん、それがいいよ。僕も、『ビアータの家』へ戻る前に、ビアータの実家に行くつもりさ」

「結婚の挨拶には行ったのか?」

「うん、婚約した次の週に二人で行ってきたよ。まあ、結婚っていっても、教会に届け出すだけだし」

「だな。俺たちもそうする予定だ。そうだ、一緒に教会行こうぜ。リノも誘ってさ!結婚の日が数日遅れても問題ないだろう?」

「そうだね。じゃあ、とりあえず、『ビアータの家』に集まってからにしようか。3組一緒に教会へ行けるなんて嬉しいな」

「そうだな。アルがプロポーズされてたときはこんなこと想像もしてなかったよな」

 その日の晩に、ビアータとサンドラにその事を伝えると、二人とも賛成してくれた。

〰️ 〰️ 〰️

 3日後昼過ぎ、ファーゴ子爵領都に着いた一行は、いつものようにファーゴ子爵邸……ではなく、宿屋へ赴いた。

「コルネリオとサンドラは、これに乗ってお屋敷へ行きな」

 デルフィーノは、幌馬車から、馬を離して、コルネリオに手綱を渡した。

「え?みなさんは?」

 コルネリオは手綱を受け取りながらもキョロキョロとした。

「俺たちはここに泊まる。なぁに、明日はそちらに行くから、安心しなっ!」

 コルネリオとサンドラは、追い出されるように馬に乗せられ、見送られた。

「明日も忙しいわ。私たちも中で休みましょう」

 クレオリアが誘ってくれたが、ビアータがどうしていいかわからず、立ち止まる。昨日までは、サンドラと同室だったのだ。今夜はどうしたらいいのだろうか?

「ハァーハッハッ!ビアータは可愛いなぁ!大丈夫だ。今日のところはクレオリアと寝てくれ、な」

 デルフィーノは笑い飛ばしたが、ビアータは、真っ赤になって俯いた。後から気がついたアルフレードも、頭をかきながら、赤い顔をして違う方を見ていた。

 各部屋に荷物を置いて、デルフィーノとアルフレードの部屋でお茶をしていた。

 『コンコンコン』

「おっ、やっと着いたか」

 デルフィーノがドアを開けると、そこには、べニートとロマーナがいた。

「兄さん!どうしたの?」

 アルフレードはびっくりしてドアへと向かった。ビアータも口をパカンと開けていた。

「ハハハ!仕事を辞めてきたぞ!」

「で、でも、隣国の王太子ご夫妻がいらっしゃっていたのでは?」

 べニートの都合はロマーナから聞いていた。

「そのご夫妻も明日には王都を出るから、3日くらい、俺がいなくてもどうにかなるさっ。なるように、シフトを調整してきた。実質、俺は休暇中だ!そのために、1月から、無休で働いたからな」

 べニートは胸を張っていた。

「職権乱用だろう、それ。すごいね」

「そういうわけだからっ!アル!俺を雇ってくれ!」

 頭を下げるべニートをアルフレードは困り顔で見つめた。そしてゆっくりと説明する。

「給料はほぼないよ?」

「わかってる」

 頭を下げたままべニートは返事をした。

「何をやらされるかもわからないよ?」

「わかってる」

「兄さんを頼りにしちゃうよ?」

「っっ!わかってる」

 アルフレードはべニートに抱きついた。

「ありがとう!兄さん!」

 クレオリアが立ち上がって歩き、抱き合うべニートとアルフレードの頭を思いっきり叩いた。
 『パーン』『パーン』

「デカイのがっ!邪魔だっ!」

 クレオリアは、べニートの後ろにいた小さな女性の腕を引っ張った。そして、声が裏返る。

「ロマーナ!馬は大変だったでしょう!さぁ、座って!」

 3脚しかない椅子には、女性陣が座った。

「お義母さん、先日は、来ていただいてありがとうございました」

「もう!何を言っているのっ!美味しいご飯、ありがとうねっ!」

 クレオリアは満面笑みをロマーナに向けた。

「ふふふ、喜んでもらえたなら、よかったです。ビアータちゃん、卒業おめでとう!」

「べニートお義兄様も、ロマーナお義姉様も、ビアータって呼んでください」

 ビアータは小首を傾げて可愛らしくおねだりした。本人に可愛らしくしているつもりはない。

「かあ!いつも可愛いなぁ、義妹はっ!じゃあ、俺らのことも、ニト兄、ロマ姉って呼んでくれよ」

「ニト兄さん、ロマ姉さん」

 ビアータは、それぞれの目を見て、名前を呼んだ。

「ふふ、嬉しいわ、ビアータ」

 その後、食堂では、アルフレードとビアータに初めてのワインが振る舞われ、6人で、楽しい夕餉となった。

〰️ 〰️ 〰️

 翌朝、6人は食堂で朝食をとった。みんなが立ち上がる。

「さぁて!ビアータ、部屋に戻りましょう!ロマーナもこっちの部屋よう!」

 クレオリアが、ビアータの背を押し、ロマーナの手を引いて、部屋に向かった。

「お前たちも支度だな」

 デルフィーノがアルフレードとべニートの肩をポンポンと叩いた。

「え?俺も?」

 不思議がるべニート。『パーン』デルフィーノは、何も言わずにべニートの頭を叩いた。

 クレオリアとビアータが昨夜泊まった部屋に女性3人がいた。

「さぁ!二人とも、着替えてちょうだいっ!」

 そう言って、クレオリアが開いたクローゼットには、白色に近いクリーム色のドレスが2着飾られていた。

「お義母さん!私っ!」

 ロマーナは、口に手を当てて驚いていた。ビアータもあ然としている。

「わかっているわ。でも、ここまできたら、覚悟なさいっ!ふふふ」

 ロマーナは、泣き出してクレオリアに抱きついた。小さなロマーナは、クレオリアの腕に抱かれ、ロマーナは、クレオリアの胸で泣いた。

「うちにお嫁に来てくれてありがとう、ロマーナ」

 ビアータも、もらい泣きしていた。

「やだわっ!二人とも!そんな顔で行くつもりなのっ!もう泣くのはおわりよっ!」

 そう言うクレオリアの頬にも涙が伝っていた。

〰️ 

 二人の支度も終わり、クレオリアも決して派手ではないドレスに着替えた。階下に行くと、すでに支度を終えた男3人が食堂で待っていた。

 そして、その後ろには、ビアータの家族がいた。

「お父様!お母様!」

 ビアータは、父親の胸に飛び込んだ。

「ビアータ、卒業おめでとう!よく頑張ったね」

「おめでとう。ビアータ、とってもキレイよ」

 母親はビアータの後ろから頭を撫でた。

「ほんと、孫にも衣装だな」

「何言ってるの!ビアータは、ずっと可愛いわっ!」

「お兄様もお姉様もありがとう!会えて嬉しいわ!」

 二人は昔からこの調子なのだ。ビアータは、アルフレードを兄と姉に紹介した。

「アル君、ビアータみたいなお転婆でいいのか?」

「だからっ!ビアータはそこが可愛いのよっ!」

 兄がからかい、姉がフォローするいつもの三人のスタイルだった。
 

「よぉし、じゃあ行こうか!」

 デルフィーノの掛け声でみんなが箱馬車に乗り込んだ。2台の箱馬車で向かったのは、ファーゴ子爵邸だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

朱に交われば蒼くなる

スケキヨ
恋愛
目を覚ますと、幼なじみのイケメン兄弟の家だった。気だるい身体に痛む腰、胸元に散らばる赤い痕……このシチュエーションはもしや!? でも、どうしよう……昨夜のコトが思い出せない!?  東京から戻ってきた27歳のご無沙汰OL・朱莉(あかり)が久しぶりに再会した地元の仲間たちと繰り広げるほのぼのラブコメ。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...