【完結】小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする[スピラリニ王国3]

宇水涼麻

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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

28 残念な金脈

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 昨日の様子も見ている子供たちは、朝食に現れた4人をソワソワして、見ている。

「コホン、朝食の前に、何かありますか?コル?リノ?」

 ルーデジオが水をむければ、『ガタ、ガッタン!』二人が慌てて立ち上がる。

「えー、みなさんのおかげで、なんとか、サンドラの攻略を成功いたしました!」

「えー、俺もみんなの応援がとてもよかったから、リリー攻略成功!」

 コルネリオが胸の前で拳を握りしめ、ファブリノがみんなに右手の親指の腹をみせるような仕草をした。

『わぁ!!!』『パチパチ』『おめでとう!』『やったぁ!』
 それぞれの祝いの言葉を向けてくれる。サンドラとリリアーナも立って、みんなに笑顔で『ありがとう、ありがとう』と伝えた。

 半年という約束を待たなかったコルネリオとファブリノであったが、『待たずとも』海路の日和はあったようだ。いや、サンドラとリリアーナが『待っていた』から海路の日和があったのかもしれない。

 朝食が終わったら、手の空いてる者全員でサトウキビの入った木箱を幌なし馬車に積み込み、畑へ向かった。もう一台の幌なし馬車には、桶に水を汲んだ。
 サンドラが用意した畑は、とても広かった。遥か向こうまで、キレイに畝が続いている。サトウキビは、3節ずつ切られている状態だ。畝に沿った溝に、30センチずつ開けて、置いていく。畝を落としてサトウキビを埋めていき、そこに水を撒いた。
 畑いっぱいにサトウキビを植えることができた。

〰️ 

 旧棟の台所には、サンドラ、コルネリオ、ファブリノ、ブルーナ、セルジョロ、チェーザがいた。木箱2つを実験用にとっておいた。

「植えてて思ったんだけどね、これは、皮が硬すぎるわ。これでは絞れないわね。」

 ブルーナが茎を握ってそう言った。
 サンドラが考えてガレアッド男爵領の鍛冶屋に頼んで作ってもらった圧搾器が合った。

「畑を見てきたんだけど、若いときは、もっと柔らかいんだ。もちろん、取れる量は少なくなるんだろうけどね。圧搾の力と平行してやっていくべきだろうね」

「そっか、じゃあ、それは、成長を見ながら、やっていくしかないわね」

 サンドラは少し残念そうだ。

「これの皮を、とりあえず剝いてみよう」

 チェーザがナタで、割くように皮を剝いた。それを8等分する。

「あっちでも、硬いものはこのぐらいに割ってたよ。これを絞ってみようぜ」

 ファブリノが割ったものの太さを確認する。
 コルネリオが手動の圧搾器のハンドルを回す。一本では、ほんの少しだったが、8本圧搾すれば、コップ一杯になった。ファブリノとチェーザが皮剥きをして、コルネリオとサンドラが圧搾器にかけていく。とりあえず、この方法で5本ほど行った。

 セルジョロが、それをフライパンにかけ、遠火でゆっくりと温める。それだけで、甘い香りが漂う。大人たちでさえ、嗅いだことのない甘さに、クラクラした。

「これはすごい!こんなものを口にしたら、何も食えなくなるぞ!」

 フライパンに1番近いセルジョロは困惑していた。

 その間に、さらに細く割ったものを、ナイフで小さくしていき、手で絞ってみた。5本やったが、機械の半分にも満たなかった。

「手絞りは、労力に見合わないわね」

「向こうの子たちは、これを口に入れてました」

 試しに、絞りカスを口に入れてみた。食べることがない甘さが広がる。ただ、食べた後、口に残るカスを吐き出すのが大変だった。

「ねえ!これを小袋に入れてみたらどうかしら?」

「それはいいわね!」

 ブルーナが、針と糸を持ってきて、横幅1センチ、縦幅3センチ程の袋を作って、絞りカスを入れた。サンドラも手伝い、人数分を作った。みんなで一斉に口へ運ぶ。布から甘い汁が出てきて、いつまででも舐めていたくなる。

「これは、まずいな…」

 コルネリオが眉間に皺を寄せた。

「え?こんなに美味しいのに!」

 サンドラは喜んでくれるとばかり思っていたので驚いた。

「ハハハ、違うよ、サンドラ、これは売り方が難しいってことさ、なぁ、コル」

 チェーザがフォローしてくれる。

「ええ、そうです。全く流通していない甘さですから。」

「ちょっと一本使うよ」

 チェーザは、新しいサトウキビを一本取り出し、先程のように皮剥き、何回も縦割りしていく。厚さが3ミリほどになったところで、1センチ幅に切った。できあがったのは、厚さ3ミリの小さな小さな板だ。

「口にしてみて」

 チェーザの言うとおりに、みんなが口に入れる。ジワァと甘さが広がった。

「これなら、手間もかからないし、いいんじゃないの?」

 ブルーナは賛同したが、セルジョロからすぐに否定された。

「いや、ダメだ。サンドラ、残念だが、これは、全部今この国で売れないものだ」

 セルジョロは、そう言って、煮詰めていた汁を薄いバットにあけて伸ばした。トロトロとしていて、サンドラが思い描いていたものとは違う。

「セルさん、どういうこと?」

「こんなものを出してしまったら、ここが襲われる」

 その一言で、みんな納得してしまった。スピラリニ王国にない美味しさを守る子供たち。それは餌食になるに決まっているのだ。

「そ、そんな…」

 サンドラは、その場に崩れ落ちた。ファブリノとコルネリオも うなだれる。

「セルさんの言ってることは最もだ。だが、諦めるのは、早いぞ。みんなでもっと話し合おう!サトウキビができるのは早くて12月だろう?それまでには、お前らも正式に帰ってくるわけだし、それから話し合っても遅くないさ」

 チェーザがサンドラの肩に手を置いた。

「そうだな。俺も結論付けるのを急いでしまって、悪かった。これをみんなの課題にしよう。ほら、そろそろ固まったぞ」

 セルジョロがパッドに伸ばしたものを包丁の柄で叩く。パリパリと割れた。

「小さいものにしておけよ。美味すぎて体に毒だ」

 セルジョロの指示通り、小さな欠片を口に入れる。ほんの少しの苦味と強烈な甘さに、みんなは倒れそうになった。

「これは、俺が預かる。誰にも出しはしないよ。俺だって中毒にはなりたくないからな、食べたりしない。とにかく、今夜、大人たちには試食してもらい、春までの宿題にしよう。チェーザさん、その板も試食用意頼むわ」

「はいよ」

 夜になり、旧棟の談話室に集まった。試食した全員が目を見開いてびっくりしていた。

「なるほど、これは我々では扱えないのは納得ですね」

 ルーデジオも困った顔をする。

「そうなんだよ。もったいないんだけどな」

「ジャムに少し入れたらどうかしら?」

 グレタは女性らしい意見を出した。

「この美味い果物はどこのだって噂になって、同じことだ」

 ジーノが首を左右に振った。

「まあ、セルさんの言うように、春までの宿題にしましょう。ビアータ様とアル殿なしで決めていいことではないというのが、わたくしの意見です」

 みんな、これに納得した。サンドラたちは、翌週、サトウキビの試食を持って、王都に戻ることにした。

〰️ 〰️ 〰️

 ファブリノは、自分の部屋にコルネリオとサンドラとリリアーナを呼んだ。テーブルにコルネリオとサンドラが、ベッドにファブリノとリリアーナが座った。

「帰りなんだけど、少し遠まりになるんだけどさ、俺の実家に寄ってくれないかな」

 ファブリノが二人にお願いした。

「僕もリノの実家のこと、気になっていたんだよね。リノって、全く話さないだろう」

「そうね。リノの家のこと何もしらないわね」

「うん、実は家とはうまくいってない」

 コルネリオとサンドラの意見に率直すぎる答えを出したファブリノに、三人は何も言えなくなる。

「おいおい、頼むよ、暗くなるなよ。俺にとっては、ラッキーなんだからさ」

 そんな三人にコルネリオは笑ってみせた。

「どうして?」

 サンドラは、自分が苦しんでいたので、ラッキーだという気持ちがわからない。

「俺の親は、兄貴が全てなんだよ。俺は存在しててもいけないんだ」

 ファブリノは簡潔に説明した。

「な、なんだよ、それっ!」

「俺は貴族のくせに、中等学校へ行ってない。それでわかるだろう?」

 コルネリオが固まった。いくら男爵家の次男でも、貴族が中等学校に行ってないというのは、かなり珍しい。

「執事を辞職したおじぃが、いや、俺のために執事を辞職してくれたおじぃが親たちに秘密で、僕に勉強を教えてくれたんだ。それがなければ、俺はEクラスだったろうさ」

 リリアーナが、ファブリノの肩にちょんと頭を乗せる。

「その方は?」

 コルネリオは少し下を向いたまま尋ねた。

「俺が学園にあがる前の年に、おじぃは亡くなった」

 コルネリオもサンドラも肩を揺らした。リリアーナはギュッと目を瞑った。

「ラッキーだっていうのは、何も気にすることなく、ここにいられるってことなんだ。
でも、今日の話によると、もしかしたら、ここは化けてしまうかもしれないだろう。ここが化けてしまったときに、あいつらの餌食になりたくないんだ。だから、先に縁を切る!」

「リノ!そ、そんな」

 サンドラは縋るような目をファブリノに向けた。自分が率先して進めたものが、ファブリノから家族を奪うことになるなんて、想像していなかった。

「だから、もしかしたら、俺は後2ヶ月の卒業も待てず、平民になるかもしれない。
リリー、大事なこと、黙っていてごめん。ここが、大化けするかもなんて、考えてなかったからさ」

 ファブリノはリリアーナに小さく頭を下げた。

「ふふ、そんなズルいこと考えて行動してないから、ステキに見えたんだと思うわ。あなたが誰の息子かなんて関係ないわよ」

 リリアーナはファブリノを覗き込んで笑顔を見せた。

「ありがとう、リリー」

「そういえば、私達ってまだそういう話もしていなかったのね。戻ってきたら、私の話もするわね」

 リリアーナはわざとクスクスと笑ってみせた。大したことではないと言いたかったのだ。

「ああ、もっともっと話をしよう」
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