【完結】小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする[スピラリニ王国3]

宇水涼麻

文字の大きさ
上 下
15 / 42
第一章 小麦姫と熊隊長の青春

13 門番のおじさん

しおりを挟む
 ファーゴ子爵夫人から、たくさんのお菓子をもらい、朝早くに出立した。昨夜のコルネリオとサンドラの約束通り、今日から馬2頭も一緒だ。1頭は、馬車に付け、1頭をコルネリオたち3人で交代で乗ることにした。

「まさかお三方とも乗馬を嗜まれるとは、驚きました」

 ルーデジオはとても嬉しそうだ。ルーデジオはサンドラを馬の前に乗せたことがある。あの頃は、サンドラは乗馬ができなかったはずだ。

「ハハハ、ルーさん、ビアータが一人で頑張っていたわけじゃないんですよ。その間、僕たちは、王都で乗馬を習っていたんです」

 コルネリオもファブリノも、『ビアータの家』の詳しくことは何も知らない。ただ、アルフレードが馭者をできるようになりたいと思ったように、コルネリオたちは乗馬が役にたつだろうと予想して、行動していたのだ。詳しいことを知っているサンドラもレッスンに参加したのだから、3人の考えに間違えはないだろう。

「それはそれは。ホホホ、お嬢様もよいご友人をお持ちで嬉しい限りですな」

 夜は、手前の町に泊まり、お昼前には、ガレアッド男爵領の1番大きな町に着いた。

「ここから、ビアータの家までどれくらい?」

 ファブリノは、サンドラの行動に疑問を持ち始めていた。

「2時間ってところね。お昼ご飯になるものを買ってすぐに出るわ」

「え?男爵なのに、領都に屋敷がないの?」

 コルネリオも、領都にあるものだと思い込んでいたので、びっくりしている。

「いえ、ガレアッド男爵家のお屋敷はあるわよ。ほら、あの丘に見える大きなお屋敷がそうよ」

 町中からでも見えるお屋敷は男爵家にしてはかなり立派で、この領地が繁栄していることがよくわかるものだった。

「あそこじゃないのか?」

 ファブリノは、手を額にかざして、屋敷のある丘を見上げる。

「ふふ、楽しみにしていて」

 サンドラは、パン屋で、ふかふかのパンや少し硬いパンを大量に買い込んだ。昼食分はサンドイッチを買い、みんなに配る。

「あと、2時間ほどで着くからね。頑張りましょうね」

 サンドラは、子どもたちに優しく声をかけた。子供たちも不安な顔は全くない。
 この5日、サンドラは、馬車の中で、本を読んだり、算数をやったり、子どもたちの面倒をとてもよく見ていた。コルネリオは、そんなサンドラの役に立ちたくて、こちらも一生懸命やっていた。ファブリノも元々気のいいヤツなので、文句も言わず手伝った。

 1時間ほどで、国境の関所に着いた。馬車に乗るサンドラを見て、中年の衛兵が話かけた。

「おお、サンドラ、おかえり!ビアータだけじゃなくて、お前も男と帰ってきたのか。若い奴らが泣くだろうよ」

 衛兵は、馬にのるファブリノとサンドラの向かい側に座るコルネリオをチラチラと見た。ルーデジオは馭者台でクスクスと笑っている。

「いつもそんなこと言って、声をかけられたことなんて一度もないわ。ふふふ、私に声をかけてくれるのは、おじさんだけよ」

 サンドラの軽口に、コルネリオとファブリノは、少しホッとした。それほど衛兵の視線はキツイものだった。

「若い奴らは気がちぃせぇからなぁ。だから都会のあんちゃんに姫さんたちを取られちまうんだ。ああ、情けねぇ。なあ、ルーさん」

 中年衛兵のため息に、ルーデジオは優しく笑った。ルーデジオも、関所でのビアータとサンドラの噂や、若い衛兵たちの話は聞いている。彼らは、時々、『ビアータの家』に手伝いに来てくれているのだ。それでも、誰も、ビアータとサンドラに個人的に声をかけられないままだったのは、彼らが『自分は平民だ』と、自虐していたことは否めない。

「どっちのあんちゃんか知らんが、サンドラを泣かせたら、俺らが許さねぇぞ」

 中年衛兵が、またキロリと睨む。

「はいっ!」

 コルネリオが大きく返事をして、衛兵と目を合わせて頷いた。これには、ファブリノとルーデジオは大笑いで、さすがの衛兵も苦笑いしていた。サンドラは真っ赤だ。

「もう、そうじゃないってばっ!じゃあ、またねっ!」

 サンドラは、中年衛兵に手を振った。関所のはずが、軽口をたたいて終わりだ。

「今の関所だよね?」

「そうよ。正確には、ここはスピラリニ王国ではないわね」

 馬車の脇に馬を並べて、ファブリノも話に入った。

「じゃあ、どこなんだ?」

「分類としては、未開拓自治区ってところかしら?」

「「未開拓自治区?!」」 

 さすがに声が裏返る。ルーデジオは、内緒であるとは聞いていたが、ここまで知らないとは、ビアータとサンドラのイタズラに笑わずにはいられなかった。

「そうよ。いつかスピラリニ王国に属する予定ではあるけれど、今、属してしまったら、税が取られるでしょう。まだそこまで大きくなっていないから、自治区にしているの。自治区の責任者は、ビアータよ」

 あまりの大きな話に二人は何を聞いたらいいのかもわからなくなっていた。


〰️ 〰️ 〰️


 関所から30分程で、遠くに建物が見えてきた。そして、道の脇には、柵が立てられ、彼方まで続いているように見える。
 建物も近くになってくると、いくつかあることがわかる。それらに向かって進む。


 馬車が建物の近くに止まると、建物の中から、子どもたちが30人ほど出てきた。子どもたちといっても、今馬車に乗っている子どもたちが1番小さいようだし、大きい子は、コルネリオたちと変わらないみたいに見える。
 予想以上の状況に、コルネリオとファブリノは、口を開けていた。

〰️ 〰️ 〰️

 
 『ビアータの家』は、国境の関所から5キロほど南の未開拓地に建っている。北は国境壁、東と南は鬱蒼とした森、西は小さな森が点在し、少し遠くに川がある。つまり、森の中に、ポッカリと空いた川沿いの草地といったところだ。この未開拓地は、そうやって川に大きく囲まれている土地のため、他の国への街道が通っていない。

 『ビアータの家』から南に40キロも進んだところに、東から西に流れる川がある。この川は、さらに東に30キロもいったあたりで2つに分かれ、一本は支流として北へ流れて、小さな山を避けるように北東へ進む。本流はそのまま西に向かい、西へ5キロほどで北へ進路を変え、蛇行しながらスピラリニ王国の城壁近くを沿うように流れて、スピラリニ王国の西側にある大きな湖を作っている。スピラリニ王国では、その西の川をピエガ川、東の川をブリ川、湖をスプレド湖と呼んでいる。スプレド湖の東側はスピラリニ王国でも有数の観光地である。

 その川に囲まれた中には、東の森の向こうに小さな山はあるが、お金になる鉱物がとれるわけではなく、それでいて大きな森には、熊やイノシシなどの少し凶暴な動物もいる。
 なので、主要価値もなく、未開拓地となっていた。関所は、冒険者などが森へ猟へ行くためのものでしかない。

〰️ 〰️ 〰️


 サンドラたちが馬車から降りた。、建物の中から出てきた子どもたちに囲まれる。

「サンドラさん、おかえりなさい」

 コルネリオたちと同じくらいの男の子が声をかけてきた。

「ジャン、また大きくなったわね。みんなのこと、いつもありがとう!」

 ジャンと呼ばれた男の子は、身長はサンドラより高いが、どうやら、年下のようだ。

「サンドラさんのこと、待ってたんだ。新しい子はあの子たちかな?」

 ジャンは子ども扱いされて照れていた。

「そうよ。ガレアッド男爵領の孤児院からは何人?」

「春に二人。夏は来てないよ」

「そう。逃げた出した子がいないってことね。仕事の環境が整っているのかもしれないわ」

「メリナ、この子たちを部屋に案内してあげて。みんなは、この子たちの荷物を持ってあげてくれ。今日は疲れているだろうから」

「「「はーい!」」」

「サンドラさんも、家へ入りましょう。お二人もこちらへどうぞ。
お二人の荷物は、これですか?」

 ジャンは慣れたように仕事を割り振っていく。

「俺たちは自分で持てるから気にしないでくれていい。それより、パンを大量に買ってきているんだ。それを頼むよ」

「あと、木箱は、野菜の苗なんだ。優しく頼む」

 コルネリオが軽く中身を確認した。

「「「はーい!」」」
 子どもたちは、手際よく動く。サンドラの荷物は、子どもたちによって、すでに運び込まれていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

さわらないで

ココ
恋愛
好きにならずにいられない。大好きなあなた。 本編完結。 続いて 巧目線 完結。 その後「二人で」 完結。 また 続編は機会がありましたら。 各ページ時々 編集入ります。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...