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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

7 それぞれにできること

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 しばらくアルフレードとファブリノは、食べる事に集中した。突然、アルフレードは思い出したように聞いた。

「そうだ!兄さん、僕、馭者ができるようになりたいんだけど、何か知らないかな?」

「馭者?一体何で?」

 べニートは何も考えずに質問で返す。ロマーナが即座にべニートの鳩尾に肘打ちをした。小さなロマーナの肘打ちなど、痛いわけもないのに、べニートはわざとらしく、お腹を押さえた。

「もう!わかってあげなさいよっ!」

 べニートは、理由はわからないがロマーナに怒られるので、聞かない。ロマーナはべニートを無視して、話を進めていく。

「アル君は、馬は乗れるってことね?」

「はい」

「まじで?!うわぁ、俺、乗馬やろうっと。コルネリオも誘うかな」

「北の領地では、乗馬も狩りも小さい頃からやらされるんだよ。山あっての領地だからね」

 アルフレードは、特別なことではないといいたいのだろう。

「兄弟みんな、弓槍乗馬は一通りできるぞ。アルフレードの下の弟もできるからな。ハッハッハ」

 べニートが少し復活した。アルフレードには4つ下に弟がいる。

「知り合いが、野菜運びの仕事を手伝う人を探していたわ。土曜日だけでもやってみる?」

 ロマーナは下町情報を持っていた。

「それって、一日中ですか?」

「いえ、午前中の早い時間だけよ。村から王都へ野菜を運ぶの。その行き帰りに、その人に馭者を習うといいんじゃないのかなって」

「午前中で終わるなら、鍛錬場には午後から行けばいいので、土曜日も日曜日もやります!よろしくお願いします!」

 アルフレードは、ロマーナに深々と頭を下げた。

「じゃあ、早速だけど、明日、行ってみる?」

「はいっ!」

 アルフレードとロマーナは、その場で明日の待ち合わせ場所や時間を決めていった。アルフレードはやる気いっぱいだ。ビアータの手伝いができるようになった時、役に立ちそうなことは、何でもしておきたかった。
 ファブリノは、そのアルフレードのやる気に少し焦った。置いていかれる。

「べニートさん!乗馬を教えてくれるところ、教えてください!」

 ファブリノの言葉にも力が入る。

「え?おっ?わかった、いつにする?」

「来週の土曜日の午前中はどうですか?」

「わかった」

 アルフレードの仕事は翌日すぐに決まり、その日から始まった。午後は、ファブリノと落ち合って鍛錬場へと行く。

 次週、乗馬訓練には、コルネリオだけでなくサンドラまで乗馬服で現れたときには、ファブリノもべニートもびっくりした。しかし、やってみると、3人の中でサンドラが1番うまかった。サンドラは、ビアータの後ろや、ビアータの執事の前には何度も乗っていたので、馬に乗り慣れていたようだ。

〰️ 

 サンドラとコルネリオは、月に2回日曜日の午前中に孤児院に行くことは、ビアータがいなくとも続けていた。

 こうして、平日の勉強や鍛錬や研究や植物の世話に加えて、週末も忙しくなった4人は、あっという間に、1学期も終わりに近づいた。

〰️ 

 そんなある日、孤児院に女の子が二人、職場から戻ってきてしまった。なんでも、先輩たちに虐められて耐えきれず、逃げ出したそうだ。空腹に耐えられず、パン屋の前にいたところ、町の世話役だったパン屋の女将は、二人に話を聞いた。職場に返すより、孤児院に返して、職場探しからやった方がいいだろうと、孤児院へ返されたのだった。
 院長先生は、二人を見てびっくりした。明らかにこの4ヶ月で痩せていたのだ。虐められて食べ物をもらえなかったのか、環境に耐えられず食べ物を受け付けなかったのか、実際どちらなのかはわからないが、元の職場に戻すことは無理だと、院長先生も判断するしかなかった。

 しかし、出戻りの子供に許されるのは3ヶ月まで。その間にどこかへ仕事を決めないと、とりあえず追い出す形になってしまう。そういう子を狙って、男の子には泥棒などの集団が、女の子には売春婦の誘いが あることは間違いないのだ。
 この二人は、それらに捕まらず、孤児院に戻ってこれただけでも良かったと思わずにはいられない。

「わたくしから、すぐにご紹介できるお仕事は、1つだけしかないのよ。二人はビアータさんがお話してくれたことを覚えているかしら?」

 院長先生は、ゆっくりと話を始めた。女の子たちは頷いている。

「環境は、すごくよろしいところなの。でも、ビアータさんもおっしゃっていたように、ここ4ヶ月、あなた方が受け取っていたお給金の金額なんてとてもいただけないわ」

 院長先生は、すでに『ビアータの家』へ行っている子どもたちから手紙をもらっている。確かに楽しそうな様子の手紙なのだ。さらに不思議なことに、お小遣いをもらえないことに文句を言う子が一人もいない。
 それでも、ビアータが『たくさんのお小遣いをあげることはできない』と言っていたので、それを伝えないわけにはいかない。
 女の子たちは俯いている。一人がようやく口を開いた。

「院長先生、今までだって、お仕事のお給金なんて少ししか貰えてないわ。泊まるところとお食事を少し貰らって、そのお金がかかっているんだって言われたわ。貰ったお金を持って逃げたけど、二人で屋台でご飯を食べたら3日でなくなってしまったの」

 二人は不安な顔で院長先生を見た。ここにいてはいけない自分たちがいるのだから、お金がないことをしかられるかもしれないと思っているのだ。

「まあ、そうだったのね。でも、ビアータさんのところは遠いから、こうして戻っても来れないわ」

 院長先生は、2人の今のお金より、これからの生活が心配でならない。

「だって、本当はここには、戻ってはいけないのでしょう?遠くだから戻ってこれないわけじゃないでしょう?先生、ミリーからお手紙は来ますか?」

 ミリーとは、春にビアータと『ビアータの家』へ行った女の子のことだ。

「そうね。お手紙は来たわ。お仕事は畑の草取りとか水やりとかをしているそうよ。ご飯が美味しくて、ここよりたくさん食べれるのですって。お勉強の時間は少ししかないし、お仕事は大変だけど、ミリーさんより少しだけお姉さんの人がたくさんいて助けてくれるのですって」

 院長先生は、引き出しから手紙を取り出し、二人の前に置いた。院長先生の言葉が嘘ではないと表すためだろう。二人は、院長先生を疑ったりしていないので、手紙は開けなかった。
 でも、ミリーからの手紙の内容を聞いて、二人は目を合わせていた。

「まるで、私達がここに来たばかりの頃みたいですね」

「まあ!そうなのかもしれないわ。ちょっとお兄さんお姉さんの孤児院みたいなところね、きっと」

 院長先生は、その言葉にとても納得した。そして、子どもたちからの手紙を思い出して、暖かい気持ちになった。

「あなたたちの言う通りよ。そうかもしれないわ。わたくしも気が付かなかったわ!大きな子たちの孤児院。そうね『ビアータさんのお家』はきっとそういうところなのだわ。ステキなところね」

「院長先生、それなら、お小遣いはなくても当たり前ですよね」

 女の子たち二人が泣き出した。

「私もミリーと行けばよかったわ。もっともっと大きくなってから、お外でお仕事をしたかったわ」

「私も。何でできないんだって怒られても、私、一生懸命やってるのに」

 二人は、しゃくりあげて泣きながら訴えた。
 12歳になったばかりの子供ができることなど、そうたくさんはないのだ。本来は、雇う側もゆっくりと構えているべきだろう。そうはできない事情があることも否めないので、雇う側だけを責めることも、院長先生にはできない。

「では、ビアータさんにわたくしからお手紙をしてみましょう。サンドラさんがいらっしゃったら、サンドラさんにも相談してみましょう。それまで、二人はここで前のようにお手伝いをお願いしますね」

 女の子たちは、院長先生に抱きついて泣いていた。
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