【完結】小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする[スピラリニ王国3]

宇水涼麻

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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

4 アルフレードの気持ち

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 4人は途中の井戸で手を洗う。ファブリノは気になって聞いてみた。

「サンドラちゃんは、授業に出ないの?」

「Aクラスは、テストさえ受ければ、授業は受けなくてもいいんですって。もちろん、成績次第でクラス降格はあるのよ。サンドラは、1学期もほぼここにいるか、図書室いたの。それでもAクラスなのよ。夜にお勉強すれば、足りるのですって」

「す、すごいですね」

 アルフレードは、自分のまわりにはありえない世界の話で、さすがにびっくりした。ファブリノもコルネリオも目を丸くしている。

「品種改良なんて、根気と想像力がなきゃできないよ。本当にすごい。ビアータさん、放課後も一緒に行きたいんだけど、ダメかな?」

 コルネリオが、ビアータにお願いした。

「いいわよ。でも、まずは、言葉を直してからね。私たちに『さん』をつける必要はないし、アルフレード君みたいに敬語は嫌だわ」

 ビアータは、アルフレードにウィンクした。アルフレードは頬が熱くなるのを感じた。

「わ、わかった。ビアータ…ちゃん?」

「ちゃんもいらないわよ」

 ビアータは、身を乗り出して、背伸びをして、アルフレードの顔をじっと見た。

「ビアータ…も、僕たちに『君』はいらないよ。僕のことは『アル』でいいよ」

 アルフレードは、少しだけ仰け反って答えた。

「じゃあ、僕のことも『コル』って呼んでね」

「えー、俺、愛称ないんだけどぉ」

「そうねぇ、『リノ』でいいんじゃない?3人、お揃いみたいでいいわ!」

 ビアータは、ファブリノに笑顔を向けた。

「リノか、そうしよう!ハハハ」

「オッケー!でさぁ、アルは、放課後どうする?」

 4人は、クラスに向かって歩き出した。

「うーん、今日は鍛錬場に行く。昼休みに行ってないからね」

 アルフレードは少し迷ったが、目標である騎士団入団のためには、必要なことだった。

「そうか、じゃあ俺もそうするよ。ビアータ、コルをよろしくね」

「わかったわ」

 ビアータは、笑顔で受け入れた。

〰️ 〰️ 〰️


 そして、放課後。二手に分かれる。

「コル、じゃあ、寮でな!」

「ああ、またあとで」

 コルネリオとビアータが並んで温室へ向かう。アルフレードは、何とも言えない気持ちで、二人の後ろ姿を見送っていた。

「アル、俺達も行こうぜ!
あれ?もしかして、コルにヤキモチやいてんの?」

 ファブリノが下からアルフレードをからかう。アルフレードが上から睨む。それなのに、全く怖さがない。

「は?何言ってるんだよ。そんなわけないだろう」

「そうそう、ビアータは、アルのことが好きなんだ。コルだってわかっているさ。心配すんなって!」

 ファブリノは、思いっきり、アルフレードの背中を叩いて、ビアータたちとは反対方向に歩き始めた。アルフレードも後に続く。

 アルフレードは、『ビアータに好きだと言ってもらったことはない』とは言えず、自分の気持ちを持て余したまま、鍛錬場へと向かった。

〰️ 〰️ 〰️

 その日、寮での夕食では、コルネリオが二人に興奮気味にしゃべっていた。

「それで、少し暗くなったら、図書室へ行ってさ、今度は農業についての本を読むんだよ。農業の本があんなにあるなんて、知らなかった。二人とも、気になったり、領地で使えそうだったりすることをノートに書き出してあってさ、すごいんだ。僕も明日から、ノートを持っていくんだ」

「え?お前、明日からもそっちに行くのか?」

「ああ、僕はやりたいことがわからずに、いろいろなことやってきたんだよね。騎士団の体験もその1つ。騎士団もいいなって、確かに思っていたけど、農業の勉強って、本当に楽しくってさ。自分でも驚いているよ」

「え!あ、そうなのか。コルがやりたいことを見つけられたなら、良かったんじゃないかな。な、アル」

 ファブリノには、コルネリオが楽しいと言っているものの良さがわからず、でも、友人がやりたいことを見つけられたことを喜んだ。

「う、うん。コル、良かったね。ビアータも仲間ができて喜ぶんじゃないかな」

 アルフレードも、もちろん、コルネリオが楽しそうに話すのを見れば、応援したくはなる。なので、自分の中のモヤモヤを見なかったことにした。


〰️ 〰️ 〰️

 次の日の昼休みから、コルネリオがランチボックスを4つ持って温室へ向かうようになった。アルフレードとファブリノは、定食をかきこみ、鍛錬場へと赴く。そして、放課後もそうやって過ごすようになると、他の休み時間も、コルネリオとビアータがノートを広げて話をするようになり、アルフレードは、自分の中のモヤモヤを見ないことには、できなくなっていった。

 放課後の鍛錬場で、アルフレードは、ファブリノにものすごい顔で打ち込みをしていた。受けるだけなのに、ファブリノは、恐怖を感じた。

「アル、アル!」

「何っ!?」

「その体にその顔、怖い!」

「っ!!!ごめん」

 アルフレードが手を止めて、シュンとする。

「コルにヤキモチやいてどうすんだよ」

 ファブリノは、タオルを置いたベンチまで歩き、隣をポンポンと叩いて、アルフレードを誘った。

「ヤキモチじゃない………よ」

 アルフレードは汗を拭きながら、自問のようにつぶやく。

「じゃあ、何?」

「ビアータは、僕じゃなくてもいいんじゃないかな?って。理由はわからないけど、長男じゃなければ、誰でもいいっていうか………」

「はあ?ビアータが誰かに何か言っていたのか?」

 ファブリノがボトルの水を勢い良く飲む。

「違うけど……。爵位なしなら、僕もコルも一緒だし…。コルは顔もいいし、話も合うみたいだし………」

「話が合うのは、サンドラとコルだろう?この学園で、爵位なしなんて、ゴロゴロいるぞ。でも、ビアータにプロポーズされているのは、お前だけだろう?」

 ファブリノは、思わずアルフレードの顔を訝しんで睨んだ。ヤキモチでないなら、何が不満なのかわからない。

「うん………。そうなんだけどね」

「お前さ、ビアータが好きなの?」

「え???!!!」

 アルフレードは、飛び上がって立ち上がって、ファブリノの見下ろした。

「はぁーーー!!」

 ファブリノは、膝に肘をつけて、地面に向かって盛大にため息をついてみせた。そして、上目遣いでアルフレードを睨む。

「まずは、自分の気持ちをはっきりさせろよ。はっきりしないならしないで、はっきりさせる努力しろよ。今のお前って、してもらっているだけじゃん」

 ファブリノは立ち上がって、出口へ向かった。振り返らずに、アルフレードへひらひらと手を振った。

 その日の寮での夕食は、2人が無言なので、コルネリオは、2人をチラチラ見ながら、黙って食べた。


〰️ 〰️ 〰️

 翌日、朝からファブリノが声をあげた。

「あ!俺、サンドラに聞きたいことあったんだ!」

「え!何?」

 コルネリオが立ち上がって、ファブリノの顔を見た。

「こっちもわかりやすすぎだろう。ふぅ」

 ファブリノは、誰にも聞こえないように壁に愚痴を言ってため息をついた。

「コル、少しだから付き合えよ」

「ああ、もちろんだ。行こう!」

 二人は、アルフレードとビアータを残して教室を出ていった。

「リノがサンドラに質問なんて、珍しいわね」

 ビアータが二人が出ていった出入り口を見ていた。

「あ、あの、ビアータ。僕も放課後の図書室に一緒に行ったら、迷惑だろうか?」

 アルフレードは、下を向いて、目を閉じて首をひねった。アルフレードは、自分に呆れていたのだ。
 ビアータは、少しだけ呆気に取られたが、すぐに回復して、満面の笑みを浮かべた。

「何を言ってるの、アル!とっても嬉しいわ。鍛錬の後でもいいの。図書室に来てくれる?アルと一緒に勉強したい事があるのよ!」

 ビアータは、アルフレードの方に体ごと向いて話始めた。

「僕と?一緒に?」

「そうよっ!」

 アルフレードは、とても喜んでいる自分に驚いた。

「アルは、お肉は好き?」

 ビアータが、突然、不思議な質問をする。アルフレードは、何の疑問も持たずに答えた。

「もちろん、大好きだよ」

「じゃあ、卵は?」

「もちろん、大好きだよ」

「だよねっ!それを勉強したいのよ。今日からでも、アルの都合のいいときに来てね!」

「ああ!」

 アルフレードは、声を高くして答えた。何を勉強したいかは、あまり問題ではなかった。アルフレードなりに、自分の気持ちをはっきりさせるための、第一歩だった。

 その日の放課後、『アルが行くなら、俺も』と、ファブリノもついてきて、ビアータとアルフレードとファブリノは、家畜の勉強を始めることになった。
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